1994年10月15日発売
私が生まれてすぐ、どんな事情があるにせよ、父親を放棄したあのひと。肉親にたよらず他人の中を泳いできた男がなぜ、最後に私を頼るのだろう。二十歳になって初めて出会ったあのひとに忍びよる死の影、それを醒めた眼でみつめるポルノ女優の娘。父と娘の凄絶な生と性の有様を描いた自伝的連作長編小説。
神戸の名門校マリア女子学園で、若い修道女が不審な死をとげた。駆けつけた親友洋子は、一見平和そうな女の園の奥深くに、邪悪な意志と策謀を知る。学園のペットの無惨な死、女学生たちの不可解な行動、更に続く修道女の不気味な死…。サントリーミステリー大賞読者賞の気鋭女流による、傑作推理長編。
長い間夢に見た北の都ケベック。アンジェリクと夫ペイラック伯は、ついにこのフランス領の地に到着した。奪われた過去の地位と名誉のすべてを取り戻すための伯爵の危険な賭けでもあった。盛大な歓迎、思いがけない人々との再会。だが、姿を隠した敵は、ふたりの新しい生活をじわじわと脅す。
雪と氷にすっかり閉ざされたケベックの長い冬。宗教行事と華やかな催しの日々のなかで、社交界の中心人物となったアンジェリクとペイラック伯爵をめぐって、嫉妬や誘惑が渦巻くが、執拗な敵からの挑戦もつづいた。そして、ある日氷原へ遠出したアンジェリクの背後に狂気の暗殺者が忍び寄る。
ゲベックにようやく春が訪れると共にアンジェリクの身辺にも矢つぎ早に事件が起こる。謎の神父が放った密使との闘い、夫ジョフレへのひそかな疑い、市の周辺まで迫ったイロコイ族の大襲撃とその和平交渉。やがて、本国から最初の船が到着し、待望のルイ一四世の親書が届けられたのだが…。
会社は誰のものか。30年近くトップの座に君臨してきた会長の妄執と横暴に、ついに怒りが爆発。叛旗を翻した管理職たちは、社内改革に綿密な作戦計画をたてる。一方、ワンマン経営者は人事権を乱用して、切りくずしにかかる。不気味な沈黙の日が続くが、覚悟の対決は目前に迫る。
秩父郊外の鬼島家。その屋敷跡で右手に首をぶら下げた死体が発見された。調査した結果、なんと胴体と首は別人だった。数日後、新聞社に「怨みの首一つ一億円也」の怪文と女性の髪が首屋の名前で送られてきた。この一帯を牛耳る政治家の下にも同じものが…。犯人の狙いは何か。猟奇殺人の謎を巡る推理小説。
この奇妙な青春のストーリーは、わたしが貧しく希望のない町をオンボロ車に乗って逃げ出したことから始まった。オクラホマのチェロキー・ネーションを通過中、インディアンの女が近づいてきて、頼みもしないのに車の座席に小さな子供を置いていった。わたしの体にしがみつこうとするばかりで、声も出せず、体じゅうに生々しいあざがあった。しかもその子は、女の子だったのだ。突然ころがりこんだインディアンの子供を連れたまま、わたしはアリゾナのとある町にたどりつく。そこにはまた、乳呑児をかかえ夫に捨てられた女や、暗い過去をまとうグアテマラからの亡明者夫妻がいた。それぞれの痛みや悲しみにとまどい、途方に暮れながらも、わたしはその町で生活の糧を得て、傷だらけの子供の閉ざされた心に光をあてようと試みるが…やがて、子供の心にさらに傷を負わせる事件が起こった。へらず口を叩きつつひたむきに生きる若い女主人公と、いたいけなインディアンの女の子との心の交感を描く感動作。
学校では問題児だが映画が大好きな中学生、翔一と知り合い、意気投合した〈俺〉。ところが、翔一の親友が惨殺死体で発見され、一緒にいた彼も行方不明になってしまった。担任の教師、春子に頼まれて、〈俺〉は懸命の捜索を始める。変質者による誘拐か、暴力団がらみか、学校にも飛び火している障害者施設建設反対運動に巻きこまれたか。翔一、無事でいろ。札幌の街を便利屋探偵〈俺〉は必死で走る。
「ゑびすだァ、ゑびすじゃねぇか」やつがれは、同町内の古株刑事・広田勘蔵を誘って、ケイヅ釣に行った。釣り上げたのが、正真正銘のゑびすの土佐衛門だった。水死体は白い狩衣をまとい、大きな黒鯛を抱えこんで、七福神のゑびすそのものだった。水死体の身元が割れた。兄が見つかったのだ。兄は色黒で大黒天とそっくりの恰好の闇米屋だ…(「ゑびす殺し」)。他、著者の博引旁証の奇想世界作品集。
NYの宝石商《ヘリテージ・ギャラリー》に勤める美女タラ・アルヴァラード。彼女は1150万ドル相当の12個のダイアモンドを盗む計画をかつての悪友に持ちかけられ、警察に通報する。捜査に乗り出したのはNY市警のリトル・ジョン・ローリングズ刑事とブレンダン・トマス刑事。水も漏らさぬ警備態勢の中、12個の宝石はきれいに盗まれてしまう。誰が、どうやって。お酒落なマンハッタン・ミステリー。
ストーリーの面白さ、第一級のエンターテインメント=大河ドラマ「龍虎八天狗」、「胡蝶陣」「戦国お千代舟」「武田菱誉れの初陣」「死の冠」「天女の冠」を収む。
江戸の日本橋界隅を縄張りとする岡っ引き・市蔵は、下手人を挙げるだけでなく、事件の背景の事情にも細やかに目を向け、市井の片隅でけなげに生きる人々に温い視線を送ることを自らの務めとしているー。大型新人が、江戸庶民の暮らしぶりを丹念に職り込みつつ哀歓漂う補物帳に仕立て上げた、珠玉の連作シリーズ。第12回「小説推理」新人賞受賞作。
平和を愛する民主国家である平成時代の東京が太平洋戦争の渦中に時空転移-ハルゼー率いる米太平洋艦隊に立ちむかうのは、旧帝国海軍と自衛隊による連合艦隊。司令長官は山本五十六。予期せぬ空母インデペンデンスの存在により大打撃をうけた日本軍は、昭和18年4月16日、決死の覚悟でマリアナ沖に出撃する。旧式艦船同士による最後の大海戦「第二次グアム攻防戦」の幕開きが近づく。一方、モスクワを陥落させ、ユダヤ民族国家「ネオ・イスラエル」を建国したヒトラーは1943年8月15日、ロンドンをも陥落する。ルーズベルト、スターリン、敷島・日本首相、そししてヒトラー…。混迷と動乱の嵐が強まる緊迫の世界を描く、シリーズ第2巻。
中国大陸での権益をめぐり、アメリカと対立する日本。両国の水面下では決戦準備が、着々と進められる。そして一九三一年三月、パナマ運河を航行中の「明石丸」の大爆発を契機に、日米決戦の火蓋は切って落とされる。勢いに乗る日本海軍は、激戦の末、フィリピンを陥落、続いて、グアムをもその手中におさめる。度重なる失態に突き上げられた米海軍は、かつてない大規模な艦隊を率いて太平洋に出撃。そして、日本の背後に忍び寄る、ソ連の影。70年前に出版され、かの山本五十六が真珠湾奇襲攻撃のアイデアを得たともいわれる、幻の“日米未来戦記”-その結末やいかに。
零戦・メッサーシュミット対スピットファイアの壮烈バトル。火の海と化す英航空基地、轟沈するプリンス・オブ・ウェールズ-。日独連合の“虹のヨーロッパ作戦”で英空軍は壊滅的打撃を受ける。一方、日本帝国軍はアジアでのイギリスの勢力を排除すべく、香港・シンガポールに侵攻する。そして遂に、日独連合軍のイギリス本土上陸作戦である“トナカイ作戦”が開始された。不敵な笑みを浮かべるヒトラー。苦悩するチャーチルに打つ手はあるのか。息もつかせぬテンポで描き切る第2弾。
邦友銀行香港支店のディーリング・ルーム室長村木晴彦は日々刻々と変動する為替市場で神経をすり減らしていた。円高に相場が動くなか、村木は上司の命令でドル買いに走り、一日で十億円の損失をだした。それは、香港のブラック・マネーを扱う大物・柳宗源の仕掛けた巧妙な罠だったのだー。瞬時に大金を動かす男たちのプライドを賭けた戦いを描くハードロマン。
大手都市銀行の新宿西口支店預金課に六年間勤務する沢口由美は、入行当時から机上での横領計画を練っていた。そして、この計画は外資系会社名義の13億円にものぼる「残置預金」を見つけたときから、現実のものとして動き始めた。由美は天性の美貌と預金課という立場を利用して、緻密な計算の上に構築された横領のトリックを次々と実行していく…。内からの犯罪に対しての無防備さを鋭く指摘した犯罪小説。