1994年2月25日発売
芥川賞候補となった翌年、高村伸夫は、今度は直木賞候補に選ばれる。上京の折に出会った高名な作家やライバルたちから刺激を受ける一方、日進月歩の医療の最前線に達れをとるのではないかという不安。そんな中、母校で行われた日本で最初の心臓移植手術は、それに批判的な伸夫を学内にいづらくさせ、医学を捨て作家となるべく上京を決意する。青春の彷徨を描く自伝的長編の完結作。
「ものにならなくてもいい、“あのひと”の弟子になって一度は芸人の世界に身を置いてみたい」-。気弱で目立たない青年が、一念発起、憧れの人たけしに弟子入りする顛末「あのひと」。高二の夏、女の子にもてたい一心で、ひたすら三浦海岸まで自転車を漕ぎ続ける少年の話「やじろべえ」。花火の音に喚起された少年の日の思い出「黒貌」など、小説家たけしが直木賞をねらった短編五編。
てめえがなんでやくざになって、二十年以上も足を洗わねえのか。時々、俺は考えてみるよ。どこか、やくざになりきれねえ。はぐれ者みてえなとこがあるのさ(「水の格子」)。獲物を狙う男の目線は、いつも猛々しい。しかし、所詮は棒っきれのようにしか生きられないやくざ者。やくざ者にしかわからない哀しみってものもある…。北方ハードボイルドの新境地を開く連作短編集。
映画監督コンスタンチンは25年ぶりにハリウッドを去り祖国ドイツの依頼で、ナチ占領下のフランスにいる。長年の夢「パルムの僧院」を映画にするため、愛すべき妻ワンダと若者ロマーノをまじえスタッフと共に南仏プロヴァンスで撮影に熱中していた。楽天家の彼に、忘れていた遠い昔の両親と自殺した姉の過去が去来する…。コンスタンチンと妻とロマーノの「愛と自由」への道を描く長編。
誰も私を愛してはいなかった…。みんな私を弄んでいただけ…。男はみんな同じ…。だけどもう一度だけチャンスをあげる…。それでも反省してないんだったら、私が息の根を止めてあげる…この白い刃であなたの頚動脈を愛撫してあげるわ…。マンハッタンを駆け抜ける狂おしい執念。刑事マックスは夫婦の不和にもめげず殺人鬼を追う。倒錯と官能のサイコ・サスペンス
「わたし」アーニーは成功した宝石商だが、外見には全く自身がない。ある日、唯一の親友レッゾが演劇学校をやめ、女友達のビリーを連れて、彼の家へ転がり込んできた。異様な集中力で戯曲を書きまくるレッゾ、甲斐甲斐しくその世話を焼くビリー、そして美男美女の二人をまぶしく眺めるアーニーの、奇妙な共同生活が始まったー。真実の愛の形を探ろうとする著者の、待望久しい第二作。
墜落事故の刹那に私は私でなくなったー。TVリポーターのエイブリーは辛くも現場から救出されるが、顔に重傷を負ったために、死亡した上院議員候補夫人と取り違えられてしまう。集中治療室で「夫を殺す」と囁かれた彼女は弁明の機会も与えられぬまま、夫人そっくりの顔へと形成手術を施される。記者魂を刺激された彼女は、真相を究明するまで夫人になりすまそうと決意した…。
幕末回天の大仕事、大老井伊直弼の斬撃を企図する水戸浪士たちの活躍は続く。前編に引き続いて、水戸浪人関鉄之介とその無二の心友浪人尾形新之丞の活躍はさらに興趣に満ちて展開していく。城昌幸が遺した幕末伝奇巨編『一剣立春ー桜田門外ノ変遺聞』後編。角屋嘉平の囲い者になっているいのの駕篭から岡っ引き留吉を追い払っていのを救ったのはいのの兄の天竺浪人、つるつる坊主の二本差しの男であった。その嘉平は黒川左京から十万両の御用金を命じられたが、それを断ったために左京から斬って捨てられた。京へ向かった七尾を怪しげな六部連が取り囲んだ…。七尾が落とした踏絵の裏面に書かれた「ゲースト・ウオルク・テンペル(霊魂と雲と社)」の謎とは…。
1906年の夏、17歳の美しい少女マリエットがニューヨーク州の修道院に入ってくる。厳しい禁欲生活が始まるが、彼女は神への献身ぶりで際立つ存在となる。そしてある日彼女の体に聖痕が現われる。院内は大騒ぎとなり、賛嘆と嫉妬と疑惑が渦を巻く。知的な面白さと官能性を備えた感動的な小説。