1994年6月30日発売
わたしは騙し絵画家。人の目を欺く幻影を生みだすのが仕事だ。そのわたしのもとへ、美術品収集家として名高い大富豪の老婦人がやってきた。屋敷の舞踏室に、壁画を描いてほしいのだという。しかし、屋敷でわたしを待っていたのは、十五年前に起きて迷宮入りした殺人事件の、今も消えぬ暗い影だった…読後に強烈な印象を残す、心理サスペンスの新しい傑作。
黒人の少女クローディアが語る、ある友だちの悲劇-。マリゴールドの花が咲かなかった秋、クローディアの友だち、青い目にあこがれていたピコーラはみごもった。妊娠させたのはピコーラの父親。そこに至るまでの黒人社会の男たちと女たち、大人たちと子供たちの物語を、野性的な魅惑にみちた筆で描く。白人のさだめた価値観を問い直した、記念すべきデビュー作。
野心家の須藤恭介と、純朴そのものの津村良太は幼馴染みである。二十二歳で上京した良太はバーの経営者・山脇に傾倒し、一方の恭介は極道と接触し、傍若無人の渡世を送っていた。運命のいたずらか、恭介の会社が推す地上げ工作が山脇の許に及び、抵抗する山脇は暴力団による放火の犠牲となってしまう。正義感の強い良太は暴力団の一人を刺殺し服役することになる。その間、持ち前の運とずる賢さで着実に青年実業家としてのしあがっていく恭介は、金儲けに執着するあまり、次第に精神が蝕まれ、人間性を失っていく…。
賭博場に似た熱気とともに歯切れよい英語が飛びかってオークションが進行している。「次は…」黒漆に金で鳥獣、唐草、花雲を散らした鞘と把頭・鐺には碧瑠璃や緑瑠璃が嵌まった刀剣だった。おそらく隋唐の皇帝の佩刀であろう。激しい競りのあと、遂にそれを手にしたのは若き香港富王ビンセント・青だった。小切手を切りロールスロイスに乗ると、ビクトリアピークの斜面を滑昇してゆく。「あのときは、まだこれも輝いて…」古剣の感触を確かめるビンセントの意識は、千四百年の歴史を遡りはじめた。戦乱の隋唐に翔く傑作。
唐は玄宗皇帝の治世。開元の治とうたわれた名君も政に倦み、楊貴妃にうつつをぬかす始末。悪宰相・李林甫の死因に毒殺説が流れ、警備にあたっていた方術士・葉法善に嫌疑がかかった。汚名をすすいでほしいともちかけられたのは詩仙・李白だ。宮廷を追われ、江南を旅していた詩人は再び長安の土を踏み、調査に乗りだす。厳重な護衛下にあった宰相を誰がどうやって殺害したのか。折しも安禄山の乱が王朝を震撼させる。殺人事件の背後に、唐を滅亡へと導く大陰謀が隠されているとは。酒豪詩人・李白の名推理。
主人公は矢島敏之、36歳。職業、刑事。監察医、向井玲子との結婚を間近に控え、同僚・石神と厄介な連続殺人事件の捜査に乗り出していた。悲劇は、激しく雨の降る夜、ペニスを鋭利な刃物で切断された全裸の男の死体が発見されたところから始まる。監察医・玲子の検死の結果、先月の被害者と同じ殺害方法と判明。いずれの被害者からも直腸から精液が検出され、犯人はB型血液の男と断定された。これらを手掛かりに、矢島と石神は捜査を開始する-。
PKO軍団がタイム・スリップした幕末の世は、断末魔の獣のように、不気味にのたうっていた。争乱の世を、晋作が駆ける、龍馬が吠える。PKO軍団は、あの恐るべき餓狼の集団・新選組と遭遇。沖田総司が伊達軍団長に挑み、土方歳三ら隊士はPKO軍団に襲いかかる。やがて-血気に逸る新選組は、池田屋において、尊皇討幕の志士たちを惨殺した。その悲報は、長州藩を激昂させた。復讐の念に燃え、諸隊は続々と京を目指し、包囲して突入の機を窺う。PKO軍団もその近くに野営、一触即発の危機が迫る。歴史の荒波に翻弄されるPKO軍団、彼らは何処へ。筆者渾身の傑作第二弾。
一八七四年。両親を亡くしたピュティアは、伯母アイリーンのもとに身を寄せていた。その頃、侵略の危機にさらされていたバルカンの小国バルターニャでは、救国の策としてイギリス女王の縁者を王妃に迎えることが画策されていた。白羽の矢がたてられたのは、女王の血をひくアイリーンの娘、エリナだった。だが、エリナには恋人がいた。困りはてたエリナは、ピュティアにとんでもない頼みごとをもちかけてきた…。