1995年10月1日発売
1901年10月、霧の都ロンドンである事件が発生した。日英同盟締結の外交交渉にあたっていた日本の全権公使・林董が、何者かに狙撃されたのだ。現場に居合わせたスコットランド・ヤードのフラナガン刑事は、早速捜査に乗り出す。遺留品からポーランドの秘密結社が、さらにその後ろで糸を引くロシアの影が浮かび上がる。そのころ、ロシアの秘密警察オフラーナは、清の実力者・袁世凱に新たな刺客の派遣を要請していた。袁がロンドンに送り込んできた凄腕の刺客は、暗号名『朱雀』。京劇の女形役者出身の、美貌の青年だった…。
ダイヤモンドの出来事に写しとられた、様々な喜びと悲しみー。古ぼけたファーストミットに死んだ兄の青春を辿る少年、ホームプレートに戦災で失くした家と家族への思いを重ねる老審判など、生涯の四季それぞれを迎えた人々の姿を描く表題作など三編を収録。一投一打に宿った記憶が、いつしかそれぞれの人生への優しいオマージュを語り始める。直木賞作家による珠玉の作品集。
男子禁制の奥向で、女だけの御殿芝居を上演したお狂言師たち。芝居のみならず、男日照りの奥女中相手にといちはいちもしたという。お狂言師・坂東琴絵は立役専門の二枚目。贔屓筋を悦ばせるため、裏芸の研鑚にも日夜余念がなかった。知られざる奥向の実態を詳らかにする「お狂言師」もの連作5編のほか、間男するのが大好きだった天真爛漫な女を描く表題作など、江戸艶笑小説9編。
自分を書くことはアメリカを書くことだー本書は、アップダイク自身が新潮文庫のために14の短編を選んだ短編集。ボストンの小さな町にあるスーパーマーケットでの夏の日の出来事「A&P」、ハーヴァード大学の寮生活「キリスト教徒のルームメイトたち」、本邦初訳のベック氏の女性遍歴「オーストラリアとカナダ」、離婚歴の父娘の西部への旅「ネヴァダ」などを収録。自作解説付き。
シアトル警察の部長刑事ルー・ボールトは、休職中の日々を心静かに送っていた。そんな彼のもとに、かつて彼を愛した心理学者ダフネ・マシューズが訪れる。彼女がボランティアを務める更生施設に、レイプされて電気ショックで記憶を消されたうえ、腎臓を摘出された家出少女がやってきたのだ。刑事魂を刺激されたボールトは、捜査に舞い戻る。臓器移植の実態を鋭く抉る医学スリラー。
ぼくたちはもうすぐ12歳の兄妹。この夏立派な木の砦を作った。父さんもベトナムから戻ってきた。戦争後遺症に悩まされている父さんの働き口は決まらないけど、ぼくたちは父さんが一緒にいるだけで満足してる。ぼくたちの砦がもとで、近所の乱暴者七兄弟との間に、本格的な戦争が始まった。父さんは戦うことの虚しさをしきりに説くけど、ぼくたちはどうしてもあの砦を守りたいんだ。
ローマも場末のちっぽけな教会にイギリス人の青年が侵入、放浪罪で保護された。この青年、美術史を専攻する大学院生で、伴の冴えない教会には、聖画に擬装されたラファエロの知られざる傑作が、一世紀以上にもわたり飾られてきた筈だと供述。しかも彼が教会に侵入した時には、その絵は既になくなっていた、というのだが…。謎が事件を呼び事件が謎を生む、美術犯罪ミステリー。
南町奉行、内与力早乙女源六は、定町廻り同心筧彦七と岡っ引きの甚八ら六人を従えて裏探索方を務めていた。源六は老中より阿片がらみで失踪中の旗本、黒田左太郎を追うよう密命を受ける。その黒田が斬殺体で発見され、三日後に薬種問屋「肥前屋」から千両箱と阿片の入った皮袋が盗まれた。源六たちは、黒田家と確執のあった中野播磨の屋敷を見張り、不審な動きをする男たちを追って長崎へと旅立つ。長篇本格時代小説。
景気低迷のいま、どの企業も人件費削減のためのリストラ戦略が盛んである。大手電機メーカーの「アサヒ」も人事制度の改革を始めようとしていた。その矢先、極秘に作成していたリストが粉失する。このリストを見つけるよう業務命令を受けた総務課長の梶谷弘一は、リストを持ち去ったと思われる女を探し出すため、自慢の性技を武器に社内の美人秘書や部下たちの豊満な肉体を次々と征服してゆく…。長篇官能小説。
スターボウラーの高宮風太はオオッとそそる美少年。チームの解散という非常事態に、悪友の黄金沢三兄弟と共に危険なUGリーグの試合に出場する。そして殿村然に逢い、強く惹かれる。二人の関係が深まる。激しい試合を勝ち進む風太の前に、確執する実父の正十が立ち塞がった。二人の過去が明かされる。絡み合う人間関係をよそに決勝戦が始まった。野梨原花南が貴方に贈る、熱闘激愛小説。
21世紀の世界はどうなるか。レーブン博士という仮想の人物が西暦2106年という地点からふり返って、世界歴史を記憶するという形式で描かれたこの人類の未来図は、恐るべき精緻な予言に彩られている。上巻では自由競争と貨幣制度が招いた現代の危機感を卓抜な歴史観を背景に科学的に分析し、今日、真に世界が直面している問題を明解に論じる。世界国家の実現によって、どんな豊かな社会が人類に訪れるかを描いたウェルズの最高傑作。
20世紀は悉く本書の予言が的中した時代であった。それでは次に来るべきものは何か。人類を絶滅に瀕せしめる原水爆使用の「第三次世界大戦」であろうか。かの傑作『世界文化史大系』につづいて、150年間の人類の運命を予言した書。この原書が1933年に出版されてから、今日まで世界の重大事件は予言通りに当たってきた。下巻では人類の世界国家の理想を雄大な構想をもって締め括り、21世紀への輝かしい展望と希望を与える偉大な文明論。