1995年9月15日発売
陸奥の豪族安倍頼良の館では息子貞任の婚儀が盛大に始まった。平将門の乱が平定されてすでに百年を越え朝廷は蝦夷たちを俘囚と侮るばかりだった。源平の武士たちの台頭を前に東北の地に黄金の楽土を築こうとした藤原氏の夢がこの夜大きな炎となって燃えあがる。著者渾身の大作歴史ロマン全五巻刊行開始。
黄金の輝きが招いた戦乱を制した安倍頼良・貞任父子だが朝廷は源氏の総帥頼義を陸奥守として任命した。安倍一族と源氏の永い宿命の戦いがいま始まる。朝廷側に身を置きながらも、蝦夷たちの真実に触れ、藤原経清はもののふの心を揺さぶられる。後に「前九年の役」と歴史に記される戦いへと時は流れる。
大敗を喫した源頼義・義家は謀議を尽くして巻き返しをはかる。安倍一族の内紛、出羽清原氏の参戦で安倍貞任・藤原経清の苦闘がつづく。陸奥の運命を担う二人の男は大きな炎となって空を染めようとしていた。凄絶な戦いが源氏と安倍氏の存亡をかけ、戦さ場に生きる人人の愛と哀しみをたたえながら始まる。
相模屋の店先で雪駄が一足盗まれた。上野山下の助五郎親分は、懸命に追い、下手人・仙八を挙げた。そこで相模屋出入りの岡っ引・半次は、穏便に赦免してもらおうと、親分に頼みこんだ。ところが、うまくいかない。単純に見えた事件は意外な展開をみせはじめ、やがて大きな謎が…。直木賞作家の傑作捕物帳。
八代将軍吉宗の治世、陰陽易占が隆盛をきわめ、妖怪変化が跳梁するという江戸市中、さらに胆を潰す面妖な事件が次々と起る。天狗か怪盗・闇法師の仕業か?大岡忠相の懐刀、八の字眉に眇目、おまけに獅子鼻の与力石子伴作と、白面の素浪人、蝋燭ざむらいの推理合戦。奇想天外、一味も二味も違う大岡政談。
江戸の荒奉公で苦労の末、好きな俳諧にうち込み、貧窮の行脚俳人として放浪した修業時代。辛酸の後に柏原に帰り、故郷の大地で独自の句境を確立した晩年。ひねくれと童心の屈折の中から生れた、わかりやすく自由な、美しい俳句。小林一茶の人間像を、愛着をこめて描き出した傑作長編小説。田辺文学の金字塔。
中国・明からの冊封使を迎えて琉球はわきかえっていた。時は紀元十七世紀初頭、明では万暦三十四年、日本では慶長十一年のことである。一見華やかな冊封の儀式だが、実はその裏で、琉球は大和と明の間で苦しい立場に置かれていたのであるー沖縄、江戸、京都、薩摩、北京に展開する歴史ロマン。
愛も無力となるほどに苛酷な蝦夷の大地。厳しい寒さと水腫病が警備の藩士たちの生命を次々に奪った。和人たちの横暴を憎みながらも心を開き始めるアイヌの若き女、人妻への思慕を断ち切れぬ青年武士。苦悩の愛を抱えながら男たちは寡黙に、生命を賭けて北の守りを固める。自然と歴史に立ち向う愛の群像。
中原の小国鄭は、超大国晋と楚の間で、絶えず翻弄されていた。鄭宮室の絶世の美少女夏姫は、兄の妖艶な恋人であったが、孤立を恐れた鄭公によって、陳の公族に嫁がされた。「力」が全てを制した争乱の世、妖しい美女夏姫を渇望した男たちは次々と…。壮大なスケールの中国歴史ロマン、直木賞受賞作。
覇権を奪いあう諸王たちの中から、楚の荘王が傑出してきた。夏姫を手中にして逡巡した楚王は、賢臣巫臣に彼女を委ね、運命の二人が出合った。興亡激しい乱世に、静かに時機を待った巫臣は、傾国の美女を驚くべき秘密からついに解き放ち、新しい天地に伴うのであった。気品にみちた、長編歴史小説。
時は21世紀。大恐慌の余波でNASAは民間企業に売却され、米ソ共同火星飛行計画は実現間際で破棄されていた。だが、誰もが忘れていたこの計画に、ハリウッドが目をつけた。人類初の有人火星飛行を映画に撮ろうというのだ。かくして、元宇宙飛行士や映画スターを含む撮影隊が火星へ赴くことになるが…。航海の行く手に待ち受ける数々の冒険をドラマチックに描き、SF黄金時代を彷彿させる、心ときめく宇宙小説。
火星ではひとりが一個、銀色のボール状のパーソナル人工脳PABを持っている。PABは、子供が誕生したその日から経験データを蓄積し、巨大企業・秋沙能研所有の都市部を覆うアイサネットを通じて制御され、人工副脳となるのだ。そして、事実上火星を支配する秋沙能研の当主である秋沙享臣は「帝王」と呼ばれていた…。人間を凌駕する機械知性の存在を問う『あなたの魂に安らぎあれ』にはじまる火星三部作の第二作。
自殺をはかりニューヨークの病院に収容された美貌の青年は、ドンファンと名乗った。愛にかけては世界一の男。わずか2歳で女性の美しさに目覚め、16歳で人妻と燃えるような恋をして、21歳までに1500人もの女性と愛し合った男。この青年を担当する精神科医ジャックがドンファンから聞かされる荒唐無稽な恋と冒険の物語は、妄想なのか、それとも事実なのか。現代に生きる伝説の男、ドンファンを描きだす、話題の映画化作品。
エンジェルに親友オオカミ男からSOSの電話が入った。知らぬ間に麻薬の運び屋に仕立てられ、しかも自動車事故でブツを失ってしまい、ブルターニュ国民戦線なる連中に軟禁されているという。麻薬は彼らの資金源だったのだ。ブツを持って行かなければオオカミ男の命はない。ロンドン一のお気楽男エンジェルが友の窮地を救おうと、ヤンキー娘と怪僧を助っ人に大奮闘。英国推理作家協会賞ユーモア賞に輝くシリーズ第三弾。
岡っ引きの勘兵、人呼んで悪勘兵は色事にかけては浪花一の事情通。ある日、同心鮫島様のお呼びで奉行所の門をくぐった。新奉行の御目見得だ。何と色白で頬はぽっちゃり、膝を崩して横座り。隣のお小姓と何やら怪しい。この奉行、名が菅丹波守、略して『すかたん奉行』。勘兵、すかたん様から大事件を探し出せとの仰せを受ける。早速飲み仲間の読本作家・西鶴爺さんのお知恵を拝借する。ユーモア時代小説。
おれの名は松平利春。不幸な死体を解剖、検死する監察医だ。死体の声なき声を聞き、事件解決へ導くてぇんで、刑事(デカ)チョウ達に頼りにされている。熱海へ到着すると、寝台特急あさかぜ2号で男女ふたりが死体で発見されたという。男は久野産業総帥、女は熱海の高級クラブのママ。女を殺して後追い自殺かと考えていた矢先、駅前広場で女の死体が発見された。手掛かりは死体のみ、おれのメスの出番だ。長篇推理。
第二次大戦後の世界に迫る新たな危機、それは1952年7月、天安門広場をつらぬき、南北中国を分断する“北京の壁”で勃発した。ソ連軍は北京をたちまち陥落し、南中国軍は敗走を続ける。一方、科学力に優るはずの日本連合艦隊はソロモン海海戦で、攻撃型潜水艦を駆使したドイツ軍に敗れ、戦艦武蔵をはじめ多くの艦を失い、南太平洋の勢力分布は一気にドイツ帝国に有利となる。53年に入ると、南京を陥落したソ連軍は、なぜか上海の手前で動きを止めてしまった。そこに、蒋介石よりスターリン死亡のニュースがもたらされる。ゲーリングはゲッベルスの勧めに従い、ソ連にヒムラーを送り込む…。統一国連緊急総会でのドイツ制裁決議をうけ、緊張高まる南太平洋に合衆国連合艦隊モンタナ級戦艦が、ついに姿を現わした。