1996年1月25日発売
美希は過去の辛い思い出に縛られ、四十路の今日まで恋も人生も諦め、高知の山里で和紙を漉く日々を送ってきた。それが幸せなのだと自ら言い聞かせて…。時の流れから取り残された小さな山村で、美希の一族は人々から「狗神筋」と忌み嫌われながらも平穏な日々が坦々と続いてゆくはずだった。そんな時、一陣の風の様に現れた青年・晃。互いの心の中に同じ孤独を見出し、惹かれ合った二人が結ばれた時、「血」の悲劇が幕をあける。不気味な胎動を始める狗神。村人を襲う漆黒の闇と悪夢。土佐の犬神伝承をもとに、人の心の深淵に忍び込む恐怖を嫋やかな筆致で描き切った、傑作伝奇小説。
二十世紀における最も重要な二人の思想家の出会いが生んだ幻の名著。本論に加え、1934年から40年にかけてのベンヤミン宛書簡を通し、時とともに輝きを増すその思考の核心に迫る。
福祉事務所の万年係長・重松は、アル中のために周囲から疎んじられていた。そんな彼がかつて担当したケース-やはりアル中で家族と生き別れた男-が二十数年ぶりに、重松の前に現われて…。表題作ほか全八篇収録の連作集。
春の新番組で念願叶って実力派の人気俳優、沖田仁光との共演が決まった篝龍司。医学部出身の異色俳優、篝にとって沖田という存在は特別だった。美しく整った品のいい面立ち、スーツのよく似合う長身、そして何より他人を寄せつけない孤高の雰囲気。憧れ続けた愛しい男。惚れていることを隠しもせず、ひたむきな視線を投げかけてくる篝に、冷たく閉ざされた沖田の心も次第にほどけてくる…。そんな時、沖田を屈辱の淵へと突き落とす事件が…。
高校一年生の清貴と智彦は従兄弟同士。孤独な境遇の二人にとって、お互いはかけがえのない存在だった。しかし、ある日、智彦の前にバスケ部の篤志が現れたことで、ピーナッツの殻にくるまれたような二人の時期が、変わりはじめた…。大人への階段をのぼりはじめた少年たちがおりなす、センシティヴ・ラヴ・ストーリー。
ジェームズ・ジョイスは、ピカソやシェーンベルクやストラヴィンスキーとならぶモダニズムの旗手の1人だ。本書は、このアイルランドのスフィンクス(謎めいた人物)の作品を前に感じていた読者の抵抗感と逡巡を払拭して、じかにその作品に接してみようという気を起こさせてくれるに違いない。カール・フリントのイラストも魅力である。