1996年6月20日発売
驕慢な子爵令嬢、彼が倒した柔術師範の遺児、数奇な生い立ちの娘義太夫の花形、鳶の頭の勝気な娘。彼女たちのひたすらな思慕にも、柔道一筋の三四郎の心が乱されることはなかったが、嫉妬と敵意の渦は否応なく彼を巻きこんでいく。そして、最後の強敵の登場。必殺技山嵐は炸裂するか。柔道の黎明期に燦然と輝やく天才児の多感な青春を、迫真の決闘描写をまじえて描いた感動の名作、堂々完結。
正義感と人情に厚い岡っ引、騒々しい子分の八五郎を供に、窮地は名人芸の投げ銭で切り抜ける、ご存じ銭形平次。若い娘が化粧品屋で次々と消える『金色の処女』、与力一家に崇る化物の怪『復讐鬼の姿』、輿入れ途上の花嫁が相次いで誘拐される『七人の花嫁』など、江戸情緒たっぷりの妖奇と謎。初文庫化作品を中心とした初期傑作十編。恋女房となるお静とはまだ許嫁の仲。全編にみなぎる若き平次の魅力。
太平洋戦争中、フィリピンの山中でアメリカ兵を目前にした私が「射たなかった」のはなぜだったのか。自らの体験を精緻で徹底的な自己検証で追う『捉まるまで』。死んだ戦友の靴をはかざるをえない事実を見すえる表題作『靴の話』など6編を収録。戦争の中での個人とは何か。戦場における人間の可能性を問う戦争小説集。
飢饉にあえぐ天明年間、すべての厄を払う超人の出現を願う庶民の前に、忽然と現れた力人-。史上最強の実力を誇りながら、抱え主松平不昧侯や相撲会所の思惑に絡め捕られ、辛酸をなめる雷電が、苦悩のすえに抱いた大望とは…。伝説の力士雷電の、数奇な生涯の物語。
日美子と夫の二階堂が招待を受けた広田教授宅で、夜中に三女の美夏が誘拐された。犯人は三億円を要求。日美子は警察に連絡することを勧めるが、奇妙なことに、誰も届け出ようとしない。さらに長女の朱雀までが行方知れずとなり、やがて、二人は密室内で惨殺死体となって発見された。奈良を舞台にくり広げられる猟奇的犯罪に日美子が挑む、長編推理力作。
彼女の死体は香しく可憐な小舟のように流れに浮いていた。それがパールだった。天使にして妖しい精の少女が、地獄ゆえに楽園である最終戦争後の物語を照らし出していく…リアルでファンタジックな書き下ろし近未来小説。