1996年7月20日発売
遠州味方ケ原に住みついた流れ者夫婦に、天啓のごとき子ができた。生まれついての大器量、五、六歳ともなれば独り荒野を駆けて狐や狸を狩る怪童、後の大盗・石川五右衛門である。時は戦国。藤吉郎、家康、信玄らの血なまぐさい天下取りの裏で、野盗の女頭目をも配下におさめ、「人間どもの小賢しさに大砲をぶっ放す」神出鬼没の大暴れ!奔放な想像力と自在な文体で直木賞を受賞した痛快長編。
江戸幕府の頽廃の翳は、日本橋界隈の商人たちの一見平穏な暮らしをも蝕みはじめていた。惨殺死体が真実を暴く『大黒屋』をはじめ、捕物帳の形を借りた六編の物語は、爛熟の気配色濃い風俗の陰に生まれる不気味な犯罪のからくりに鮮やかな推理の光をあてる。仮借ない世相のなかの庶民のせつない生活感と憐れな人情。ミステリーの巨匠が、的確な時代認識をふまえて描いた時代推理小説の傑作。
昭和二十年七月、原爆を運ぶ米重巡洋艦インディアナポリスをグアム-レイテ線上で撃沈するべく待ち受ける海軍伊号五八潜水艦。太平洋戦争における艦艇同士の最後の戦いが開始された。索敵と待ち伏せ、追跡と反攻、そして撃沈。史実に加えられた巧みなフィクション、双方の指揮官・戦闘員の活写、詳細な戦闘描写、意表をつく結末。第一級エンターテインメント。
一匹狼の処刑人・北条貴は、国際刑事警察機構に協力させられることになった。天性の殺し屋であり、S機関のナンバーワン・スイーパー氷見子が、機関の幹部を殺してアメリカに逃亡したのだ。彼女は、アメリカである秘密結社に荷担し、想像を絶する悪夢の計画を進めていた。かつて貴を養成したS機関は、UNPODと手を結んだ!人気シリーズ飛躍の第十弾。
横浜外人墓地で、白昼、銀座のクラブ『久利』のママが殺された。どうやら彼女は、大がかりな贈収賄事件に関わっていたらしい。元警視で、今は気ままなルポライターの雨宮退介が、調査を開始した。とたんに、秘密を握る証人が消されてしまう。野心と欲望がもつれあう中で、退介は殺し屋たちの襲撃にも怯まず、事件の謎に迫る。
無頼学生を自認する加賀田省平は、大学の建物でこの世のものとは思えない光景を目にした。その衝撃が癒えぬ間に、恋人の玲子が怪異な現象に襲われる。叔父から渡された古文書を繙く省平は、彼の先祖が起こした身の毛がよだつような、血の事件を知る。その先祖の血を自身の体内にも感じた。やがて、想像を絶する展開へ…!?人間の恐ろしい「業」を描く。
はなやかに匂う大輪のボタンがしおれるように、三百年続いた「帝国」の寿命がつきた後の中華世界。国土は千々に分裂し、「律令(法律)」は失われ、悪鬼や化生の跳梁を押さえる道士の禁呪も効をなくした、何でもござれの妖しい時代の物語-。新興国家「迂漢」に反旗をひるがえす革命軍の青年首領、乱凌王は、妖異な母、九連玄女の戒めを受け、か弱い少女に変成させられる。そして、運命の糸がもつれるままに、迂漢の後宮におもむく。そこは、黄泉へとつながる怪異な世界だった。命の理はくずれ、生と死の境界が溶解した、トワイライトゾーンそのものだった。