1998年8月25日発売
友情…という言葉が蘭子の口から出たことに、小夜子はとまどった。友人、親友、悪友、同志…いろいろな言葉をあてはめて、蘭子と話したことがあったが、いまその言葉を向けられると、やはりどう受け止めてよいのか分らなかった。それに、蘭子と自分の関係には、漠然ともてあそんでいた“悪友”という形容が、もっともふさわしいのではなかろうかと、小夜子は思い始めていたのだ。
あの、すみません。ちょっと道をお尋ねしたいんですが。ダブ(エ)ストンって、どっちですか?実は恋人が迷い込んじゃって…。世界中の図書館で調べても、よく分からないんです。どうも謎の土地らしくて。彼女、ひどい夢遊病だから、早くなんとかしないと。え?この本に書いてある?!あ、申し遅れました、私、ケンといいます。後の詳しい事情は本を読んどいてください。それじゃ、サンキュ、グラッチェ、謝々。「今、行くよ、タニヤ!」。キッチュでポップな迷宮譚。第8回メフィスト賞受賞。
天才ボクサー藪一也と世界チャンピオンのアルマンド・ケニーの一戦が決定してから、藪のトレーナーを馘になった倉本祐司の独り言が始まった。「これで、終わりだ、藪も、おれも」-この世界戦は時期尚早、ジム会長藤倉の金儲け主義の産物だ。KO率九割を誇るケニーの強打に、藪は壊されてしまう。おれは藪を世界最高の芸術品に仕上げるのだ。そのためには、ボクシングの指導だけではなく、何でもやった。別れさせるために、藪の恋人奈緒を犯しもした。ケニーや藤倉にもおれの夢は潰させない…。『大場政夫の生涯』『拳闘王辰吉丈一郎』の著者が放つ傑作長篇ミステリー。
佐賀県多久市の山中で横浜在住の画家・井坂俊介が絞殺体で発見された。死亡時刻の二日前までともに写生旅行を楽しんでいたはずの妻・レイは死んだ井坂に対し、なぜか冷ややかな憎悪をみせる。二日前、夫婦に何が?だが、容疑者としてマークされたレイには、死亡時刻、完璧なアリバイが…。佐賀県警の“落としの達人”水木警部補はレイと対決、彼女の心に潜む闇を感じるが、アリバイの壁をくずせない。さらに井坂がレイと別れた後に生じた「空白の二日間」に不審な人物が浮かぶ!完全無欠のアリバイに挑む、水木の苦悶!時代が生んだ新たなる恐怖を描く、警察推理傑作、好評第4弾。