1999年6月30日発売
「猿渡」と「伯爵」のコンビが飄々として行くところ、日常世界は薄暮の幻想地獄に変貌する。鬼才津原泰水、注目の処女短篇集。怪奇と幻想の「幽明志怪」シリーズ・書き下ろし新作を含む七編を収録。
花も鳥も風も月もー森羅万象が、お慕いしてやまぬ女院のお姿。なればこそ北面の勤めも捨て、浮島の俗世を出離した。笑む花を、歌う鳥を、物ぐるおしさもろともに、ひしと心に抱かんがために…。高貴なる世界に吹きかよう乱気流のさなか、権能・武力の現実とせめぎ合う“美”に身を置き通した行動の歌人。流麗雄偉なその生涯を、多彩な音色で唱いあげる交響絵巻。谷崎潤一郎賞受賞。
鍵のかかった閉鎖空間で起きた殺人、不可能状況下に横たわる死体、忽然と姿を消す犯人と凶器、二転三転するアクロバティックな論理。なぜ犯人は密室を作らねばならなかったのか?現代日本を代表する七人のミステリ作家が「密室」をテーマに競作!ボーナストラックとして、密室への想いを綴るエッセイも書き下ろしで収録。ファン必携、究極の「密室」がここに誕生。
最後のスコットランド王を自称する荒唐無稽な独裁者、ウガンダのアミン大統領。政府に派遣された若きイギリス人医師は、アミンの侍医となり奇妙な運命に翻弄される。恋あり、内戦あり、暗殺指令あり。グレアム・グリーン、ジョーゼフ・コンラッドら先駆者たちの伝統を見事に受け継いだ、卓抜な文明論、スリリングなストーリー性。そして、絶望的な逃走、戦闘場面の圧倒的臨場感。六年をかけた周到緻密な取材に基づきつつ、史実さえたじろぐようなマジカルな想像力も縦横に駆使された、読書界の話題をさらう会心作。ウィットブレッド賞処女長篇小説賞受賞、サマセット・モーム賞受賞、王立文学協会ウィニフレッド・ホルトビー記念賞受賞、ベティー・トラスク賞受賞。
映画脚本の基礎を確立した、ハリウッドの大物ゴードン・キャントウェルの邸宅で、月例パーティが催された。しかしその席上、脚本家志望の青年レイザー・ジャファーリが突然死してしまう。さっそく警察が呼ばれたが、彼がゲイであり、HIVに感染していたことが明らかになると、単純な病死として片づけようとした。たまたまパーティに出席していた元新聞記者ベンジャミン・ジャスティスは、その死因に疑問を抱き、調査を始めるのだが、その過程で殺人の疑いが…前作『夜の片隅で』で絶賛された甘くせつない世界が甦る、異色ハードボイルド。
プラハの街をぶらつき、観光客の娘を騙して弄ぶのを無上の楽しみとするアメリカ人青年ニックス。彼はある夜モニカという女に出会い、その魅力に取り憑かれた。ジプシーとチェコ王族の血を引きモニカへの想いはとめどなく膨れあがる。彼はモニカを執拗につけ回し、彼女の兄と称する男を殺してさらにある卑劣極まりない犯罪を企てた…“運命の女”のために転落の一途をたどる男を非情なタッチで描く、サスペンスの新収穫。
元捜査官ケイトのもとに、先住民協会の理事をしている祖母エカテリーナが訪れた。土地の開発をめぐって理事会が開かれるアンカレッジへ同行してほしいと頼みにきたのだ。祖母によれば、開発に反対する理事の一人が最近急死したうえに、他の理事たちも様子がおかしいという。だが、二人が到着して間もなく、反対派の理事がまた一人謎の死を遂げ…ケイトのねばり強い調査が、開発がらみの黒い陰謀を暴くシリーズ注目作。
夏のはじめから、すべてに意味がなくなるまで、ぼくたちは開いたままの大きな窓の前で絡みあった。自分ではどうすることもできず、ぼくは妄想の世界、あの怪物の住む世界に引きこまれていく…少年と少女のひと夏の恋を、エロティシズムと恐怖を交えて綴った表題作をはじめ、大人の仲間入りを果たすために10歳の妹を誘惑する14歳の兄の姿を描いた出世作「自家調達」など、英国文壇の旗手が、時には残酷に、時には優雅に紡ぎだした八篇を収録。官能、恐怖、風刺、叙情…ブッカー賞作家の独自の世界が堪能できるデビュー作品集。サマセット・モーム賞受賞作。
栗村夏樹は都内の短大の二年生で剣道三段の腕前。彼女の母・幹子が突然襲撃された。関係者から手渡された母の所持品のビデオテープには、厳寒の海に浮かぶ“透明な密室”の内部で惨殺される男性の映像が収められていた。事件を追う夏樹の前に、十八年前亡くなった父の死の謎、さらには超能力者の指導者を擁する擬似宗教団体が立ちはだかる。そしてついに、リシが予言したとおり、絶対に実行不可能なはずの、奇怪な殺人事件が…。トリックメーカーの著者が満を持し、正面から読者に挑戦する前人未到の大トリック!“夏樹”シリーズ三部作完結編。
北アイルランドはデリーの町。人びとの根深い対立に端を発する、うわさや密告や陰謀がうずまくミステリアスな町。行方知れずの伯父さんに一体何があったのか?心を閉ざす母。愛すべき沈黙をまもる父。家族一人一人が決して口にしてはならない秘密を胸深く封じこめて生きている。魅惑と恐怖が背中あわせの闇のなかで、のびやかにして繊細な少年の心に刻まれる、生と死と愛と孤独-。アイルランドのゆたかな幽霊伝説や妖精譚に彩られた少年の日々を詩情あふれる筆致で描く。「今日のアイルランドが生んだ小さな大傑作」と絶賛された、心ふるえる連作小説。ガーディアン紙小説賞受賞。