2001年10月発売
探偵・浅生、32歳、元商社マン。時として、身体を張って調査をすることもある。時々部屋に泊まりに来る女。彼女は浅生が街に詩を書いている、と言う。どこか心に洞を抱え、心の飢餓感を扱いかねている。そんな人々を放置できないだけなのだ。暴力と叙情を内に秘め、緊迫した文体で綴る。都会に生きる男と女の心の皸を直視するハードボイルドの名編。浅生シリーズ第2作。
男から与えられる愛では満たされないことに気づいてしまった女、婚約者がいながら別の男に惹かれてゆく女、平穏な結婚生活の中でひと夏の記憶を辿る女…。ささやかだけど穏やかな幸福に包まれていても、どこか満たされない。心の奥底にひりつくような渇きを抱えて生きる女の日常に小さなさざ波をたてるのは、それもやはり“愛”。よせては返す波にも似て、果てなき海にまどう九つの愛のかたち。
会津の戦塵がおさまり、武士の世が終焉を迎えた頃、少年は武術に生きる決意を固めた。触れるだけで相手を投げ飛ばす奇跡の武術、大東流合気柔術の中興の祖・武田惣角の波瀾の青春。(解説・夢枕 獏)
くまにさそわれて散歩に出る。川原に行くのであるー四季おりおりに現れる、不思議な“生き物”たちとのふれあいと別れ。心がぽかぽかとあたたまり、なぜだか少し泣けてくる、うららでせつない九つの物語。デビュー作「神様」収録。ドゥマゴ文学賞、紫式部文学賞受賞。
侍女のオブフレッドは、司令官の子供を産むために支給された道具にすぎなかった。彼女は監視と処刑の恐怖に怯えながらも、禁じられた読み書きや化粧など、女性らしい習慣を捨てきれない。反体制派や再会した親友の存在に勇気づけられ、かつて生き別れた娘に会うため順従を装いながら恋人とともに逃亡の機会をうかがうが…男性優位の近未来社会で虐げられ生と自由を求めてもがく女性を描いた、カナダ総督文学賞受賞作。
名作の誉れ高い表題作を劈頭に、シャーロック・ホームズばりの叡智で謎を解く名探偵青山喬介の全活躍譚など九編に併せて「連続短篇回顧」他のエッセイを収める。初出時の挿絵附。収録作品=とむらい機関車/デパートの絞刑吏/カンカン虫殺人事件/白鮫号の殺人事件/気狂い機関車/石塀幽霊/あやつり裁判/雪解/坑鬼 解説=巽昌章
前巻『とむらい機関車』と共に、戦前探偵文壇に得難い光芒を遺した〈新青年〉切っての本格派、大阪圭吉のベストコレクション。当巻には筆遣いも多彩な十一編を収録。著作リスト、初出時の挿絵附。収録作品=三狂人/銀座幽霊/寒の夜晴れ/燈台鬼/動かぬ鯨群/花束の虫/闖入者/白妖/大百貨注文者/人間燈台/幽霊妻 解説=山前譲
国境てなもんは、地形や民族で決まるもんやない。その時々の喧嘩の強さで、右にも左にもずれるんや。金を持ち逃げした詐欺師を追って、北朝鮮へ飛んだ建設コンサルタント二宮とヤクザ桑原。二人を待ち受けていたのは、未知なる国家の底知れぬ闇-。二回の北朝鮮潜入取材を敢行、中朝国境の現実を描きつくした、渾身の長編ノワール大作。
天才作家が目指した世界と、その宿命を独自の取材で描く渾身の評伝 樺太庁長官にまでなりながら、その後躓いて不遇の晩年を過ごした祖父と、祖父の利権の残る農商務省に入りながら、仕事に打ち込むことのなかった父。本書はまず三島由紀夫を生んだ平岡家の系譜を丹念にたどり、「近代」と官僚の関わりを明らかにしていく。さらに、大蔵省をわずか9か月で辞め、文壇に転身した三島由紀夫の作品にも一族の中に色濃く流れる官僚の血が顔を覗かせると指摘、衝撃的な割腹自殺までの道程を、独自の着眼点で検証する。単なる作家論でもないし、学術書でもない。ある事実から仮説を立て、その仮説を証明する事実を丹念に蒐集する。つまり細部はすべて事実から成り立っているが、大きな仮説を楽しむための文学である。