2002年10月発売
不妊治療、妊娠中絶、出生前診断…。人の「いのち」に関わる日々の中、ボストンの病院で働く女医・久保田春生の悩みは深い。人が神の役割を演じることは許されるのか?生殖医療の現場を舞台に、連続する日本人女子留学生の変死事件を縦糸にして、生き方を模索する女性の姿をミステリー・タッチで描く書下ろし長篇。
中学最後の春、東京からの転校生で、クラスの人気者だった桑島佳史が無惨な姿で発見された。それが、撓田村連続殺人の発端だった。しかも、犠牲者たちの下半身は、村の伝承をなぞるように、噛み切られたかの如き傷跡を残して消え失せている。やがて一連の出来事は、三十年前の忌まわしい事件と同じ様相を呈し始めた-。
その夜、「僕」は、奇妙な名前の強烈なカクテルを飲んだ。ガールフレンドの南雲みはるは、酩酊した「僕」を自分のアパートに残したまま、明日の朝食のリンゴを買いに出かけた。「五分で戻ってくるわ」と笑顔を見せて。しかし、彼女はそのまま姿を消してしまった。「僕」は、わずかな手がかりを元に行方を探し始めた。失踪をテーマに現代女性の「意志」を描き、絶賛を呼んだ傑作。
ミステリ・マニアが密室で殺された。それは仲間の一人が書こうとしていた探偵小説を先取りしたかのような事件だった…。『ドグラ・マグラ』『黒死館殺人事件』『虚無への供物』に続く「第4の奇書」と呼ばれる本作品。綾辻行人氏との対談、作品論集、未公開の創作ノートを収録した永久保存版。
高校入試を終えてすぐ入院し、一学期を休学したぼくのために両親が用意したのは、ブロンドの美人家庭教師と2か月間カプリ島で“勉強”の遅れを取り戻すというカリキュラムだった。蠱惑的な彼女の姿態に魅せられた童貞のぼくが覗き見たバスルームでは、刺激的な光景が目撃される。充実した夏、ぼくの性は恐しいほどの進歩を遂げる。
蛇目孫四郎ー向島にある中野播磨守清茂の広大な屋敷内にある剣術道場に住まう剣士である。それも十二、三人いる居候剣士の中でも一、二の凄腕である。江戸市中で事件が起きると北町奉行所同心、蛙半兵衛が知恵を借りにやってくる。半分は孫四郎の懐を狙って酒を飲みにくるのだが。文政八年二月、商家の娘が寺詣りの帰りに殺された。
この秋公開の話題のアニメ映画「TAMALA2010」をノヴェライズ&完全攻略。アヴァンポップな物語/映像の迷宮を読み解く、ハイパーテキスト本!永遠に1歳を繰り返すパンクキャット、タマラの謎がいま明かされる。
荒木村重の謀反に乗じて摂津を脱走し、北条氏に庇護を求めて以来、岡崎三郎信康は伊豆韮山に厄介になっていた。ここは北条と武田の城が入り乱れる最前線。信康は小田原にとって体のいい盾である。そのころ、大久保忠世たちは信康の正室徳姫を武田方より奪還すべく、わずか二〇〇ほどの数も顧みず、二股城に寄せていた。-若殿、姫を取り返しましょうぞ。されば、次は…。三河の強情者たちが奮迅するは、信康のためだけではない。-失われし故郷を欲すればこそ。牡丹雪の舞い散る中、忠世は巨大な法螺貝を吹いた。それに続いて、異様な鬨の声が起こった。城が炎に包まれていく。人の一生は重荷を背負った遠き道。徳川の兵どもの終劇、とくとご覧あれ。
千年前、西洋からシルクロードを渡ってきたユダヤ人は、東洋の京で中国人になった。地中海のへりから旅立ち、いくつもの砂漠を経て、一つの国にしばらくたたずんでから、またもう一つの国に向って、渡り歩いて、そして住みついた。渡ってきては、なった。李となった。趙となった。ここまで渡ってきたのだから、さらにこちらから遠くない海を越えてもしかしたら日本へ…次の路地から、とつぜん、大勢の声が聞こえてきた。「老外!」という、いくつもの高さの声が、同時に石の塀と塀の間でこだました。“名前”という謎を抱えてアメリカから日本、そして中国へ。国境を越え歴史を遡る、新たなアイデンティティの旅が始まった。いま最も注目すべき日本語作家・リービ英雄の最新傑作。
浅見光彦に豪華客船「飛鳥」での世界一周クルーズ取材の依頼が舞い込んだ。しかし、出航直前、浅見は「貴賓室の怪人に気をつけろ」という謎の手紙を受け取る。そのうえ、貴賓室であるロイヤル・スイートの一室には作家・内田康夫までもが乗っていた。ただならぬ予感をはらみながら、船は大海へ華々しく出航した。だがその後、船内では数々の怪事件が発生するー。絶対不可能な状況の中、犯人はどうやって犯行に及んだのか。浅見光彦と岡部和雄、二人の名探偵が船上の“罪と罰”に迫る!浅見光彦が初めて海外へ飛び出した記念碑的長編。
一枚のモノクローム写真に秘められた懐かしくいとおしい日々の記憶。人生の晩年を迎えようとしている女性随筆家は、愛した男への思いを胸に生きてきた。だが、小さな出来事が平穏な生活にさざ波をたてる…。表題作「夢のかたみ」ほか、再会の一夜のドラマを綴る「チルチルの丘」など、遠い日のエロスを溢れるノスタルジーで描く。失われた時間への哀惜と感傷に満ちた5編。
甘ったれでわがままな7歳の少女、手毬。家族に愛され、平穏な日々をおくるはずだったのに…。17歳、かつては姉だった人を母親と呼ぶ二人だけの暮らし。27歳で掴んだ結婚という名の幸せ。その家庭を捨て幼なじみと駆け落ちした37歳。そして…。複雑に絡みもつれる家族の絆、愛と憎しみ。運命に流されるひとりの女性の歳月を、半世紀にわたって描く連作長編小説。
総務部人事課係長の石原滋が一目惚れした十一歳年下の妻瀬里は、フランス人形の如き美しさ。だが、表情に乏しく、夫との肉体的接触を嫌った。子供を作るときでさえも。耐えかねた滋は、部下の高田千絵と浮気をするが、それを察知した瀬里は、自殺騒動を起こし「別れてください」と懇願する。しかし、妻の行動に激怒した滋は、離婚を断固拒絶して自室に引きこもり、家庭内別居で対抗する…。
櫛森秀一は、湘南の高校に通う十七歳。女手一つで家計を担う母と素直で明るい妹との三人暮らし。その平和な家庭の一家団欒を踏みにじる闖入者が現れた。母が十年前、再婚しすぐに別れた男、曾根だった。曾根は秀一の家に居座って傍若無人に振る舞い、母の体のみならず妹にまで手を出そうとしていた。警察も法律も家族の幸せを取り返してはくれないことを知った秀一は決意する。自らの手で曾根を葬り去ることを…。完全犯罪に挑む少年の孤独な戦い。その哀切な心象風景を精妙な筆致で描き上げた、日本ミステリー史に残る感動の名作。
応仁の乱以降、室町幕府は力を失い、群雄が割拠し、世は乱れた。古来、神々に礼を尽くして地上の平安を守ることを務めとしてきた京都朝廷は、衰微を極めた。弘治三年(一五五七)、後奈良天皇は後事を若き関白・近衛前嗣に託し、崩御。前嗣の奔走が始まる。幕府再建による朝権回復を目論む前嗣は、都を逐われた将軍・足利義輝と結び、都を支配する三好長慶を除こうと計画。これを阻もうとする長慶の権臣・松永久秀の秘められた思惑とは?『信長燃ゆ』『関ヶ原連判状』へと続く、壮大な安部龍太郎の戦国三部作第一弾、待望の文庫化。