2002年9月3日発売
風呂の客のたくましい躰には傷痕がきざまれていた。(この客どの…もとは武士や)湯女の乳房が、客のあたまの上でおもたげにゆれている。後から入ってきた客がうかべたおどろきの表情に、二人とも気づかなかったようだ。伊那忍びの丹波大介は生きていたー。関ヶ原の戦から五年、きなくさい京で、忍びの血が呼びさまされた。
月も星もない闇夜であった。あきらかに、多数の敵が自分を包囲しつつある。(しまった…。)忍びの風上にもおけぬ、大介は自分をののしりつつ走りつづけた。-太閤亡き後も豊臣家に衷心をつくす加藤清正を、家康は陰に陽に追いつめる。家康の魔手に立向かう、大介、於蝶ら名忍びたちの活躍を描いた忍者小説第二弾。
二人で何本も徳利を空にして、ゆらゆらと並んで歩く暗い夜の情景ー「さやさや」。ちょっとだめな男とアイヨクにオボレ、どこまでも逃げる旅ー「溺レる」。もっと深い仲になりたいのに、ぬらくらとすり抜ける男ー「七面鳥が」。恋愛の過ぎて行く一瞬を惜しむ、傑作短篇集。女流文学賞・伊藤整文学賞受賞。
小雪舞う一月の夜更け、大坂・南部藩蔵屋敷に、 満身創痍(そうい)の侍がたどり着いたーー。 貧しさから南部藩を脱藩し、壬生浪(みぶろ)と呼ばれた 新選組に入隊した吉村貫一郎であった。 “人斬り貫一”と恐れられ、妻子への仕送りのため守銭奴と蔑まれても、 飢えた者には握り飯を施す、庶民の心と優しさを失わなかった男。 元新選組隊士や教え子が語る、非業の隊士の生涯。 全日本人の心を揺さぶる浅田文学の金字塔。 第十三回柴田錬三郎賞受賞。
五稜郭に霧がたちこめる晩、若侍は参陣した。 あってはならない“まさか”が起こった義士・吉村の一生と、命に替えても守りたかった子供たちの物語が、 関係者の“語り”で紡ぎだされる。 吉村の真摯な一生に関わった人々の人生が見事に結実する 壮大なクライマックス。 第13回柴田錬三郎賞受賞の傑作長篇小説。 解説・久世光彦