2008年発売
叔母からの突然の電話で、祖母が風邪をこじらせて死んだと聞かされた。小学5年生の僕と父親を家に招き入れた叔母の腕は真っ赤に染まり、祖母のことも、急にいなくなったという従姉の紗央里ちゃんのことも、叔母夫婦には何を聞いてもはぐらかされるばかり。洗面所の床からひからびた指の欠片を見つけた僕はこっそり捜索を始めたが…。新鋭が描いた恐ろしき「家族」の姿。第13回日本ホラー小説大賞長編賞受賞作、待望の文庫化。
ダム建設現場で働く男がセメント樽の中から見つけたのは、セメント会社で働いているという女工からの手紙だった。そこに書かれていた悲痛な叫びとは…。かつて教科書にも登場した伝説的な衝撃の表題作「セメント樽の中の手紙」をはじめ、『蟹工船』の小林多喜二を驚嘆させ大きな影響を与えた「淫売婦」など、昭和初期、多喜二と共にプロレタリア文学を主導した葉山嘉樹の作品計8編を収録。ワーキングプア文学の原点がここにある。
ハルとカホは違う小学校に通う、六年生。接点などなかったふたりが、運命のいたずらによって引き寄せられる。心に傷を負った少年、少女、そして彼らを見守る大人たち。それぞれが懸命に、前を向いて歩いていく-。
夫の浮気が原因で離婚した恭子は、小学生の娘と二人暮らし。ある夜、学生時代の友人晴美が訪ねてきた。相談があるというが…「隣の女」。病弱な姉を支え、独身のまま五十代を迎えた静江。姉の乗った飛行機が墜落したと知らせが入り…「凶事」。夫の隆男は嘘をつく。結婚してよくわかった。このままではいけないと思い詰めた律子は…「嘘つき」。ドンデン返しの技が冴えるブラックユーモア11編。
芸能界に確固たる地位を築いた大歌手、橘百合子。その歌手生活37周年記念リサイタルを前に、ふとしたきっかけで振り返った過去ーあの時、もし違う選択をしていたら、どんな人生だったのか?回想はデビュー直前の昭和8年に遡り、歌手になることのなかった「もうひとつの人生」が浮かびあがる。そこで見えてきた意外な真実とは。人生の切なさを温かく包む、パラレル・ワールド小説の傑作。
林子平は女彫師のお槇とともに、老中・松平定信の追っ手から逃れ隠れて『海国兵談』の版木を彫り続けるが、お槇を連れた逃避行は日ごと過酷なものに…。二人の魂が彫り込まれた版木の行方は。気鋭が贈る感動の書き下ろし歴史小説。
テレビ業界の花形・報道番組。だが、日があたるのはごく一部。孫請け制作会社という業界ピラミッドの底辺にしがみつく彼らは、今日も「ニュース」という名の、くだらない虚構を送り出す…。そしてある日、取材中に非常に危険で残酷な「ありえない真実」が爆発。暗い憎悪の奔流が、彼らを襲い始めた-。現代社会の縮図をリアルに描く、書き下ろし長篇小説。
2161年、恒星間航行を可能にした人類は銀河系全域に進出し、8000におよぶ独立国家の連合体、銀河連合を作りあげていた。その開発の尖兵となったのがクラッシャーと呼ばれる集団だった。依頼があれば、航路の整備から惑星改造にいたる危険な任務を請け負う宇宙のなんでも屋である。その中でもトップクラスの腕利きであるジョウは、反乱の起こった連帯惑星ピザンへと、王女の依頼で、自らのチームを率いて向かうことになる。
惑星改造技術の発達により、人類が居住できなかった惑星にも植民が可能になったため、それまでの惑星国家は、太陽系全体をひとつの政府が統治する太陽系国家へと生まれ変わっていた。そんな太陽系国家のひとつタラオの大統領から、直接ジョウのチームに、銀河系の至宝と呼ばれる稀少動物、ベラサンテラ獣の護送という依頼があった。予想される宇宙海賊の襲撃を避けるため、ジョウはチームのアルフィンに陽動作戦を命じる。
6年前に別れた恋人・静佳にはある事情があった。彼女を一度は受け入れると決めたのに、突き放す形になってしまった過去。ユキヒロはその謝罪をしたいと思っているが、なかなか一歩を踏み出せないでいる。そんなユキヒロのところに、父親を雪山の事故で亡くした甥っ子の葎が預けられることに。葎との生活のなかで、少しずつ前へ進み始めたユキヒロは、静佳に手紙を書こうとするが-。死別よりつらい男女の別れとその6年後を描く期待の新鋭、初の書下ろし長編小説。
“中橋小町”の歌吉は、お狂言師にして、お小人目付の協力者。宿下がりしたままの坂東流名取・照代を再び召し出そうとする上様に、一夜だけの舞台に立つ事になった照代と連れ舞を舞う事に。大奥の陰謀から照代を守ってやれるのは、歌吉をおいてほかにいない。直木賞作家が描く長編時代小説。
男女の間にある深い溝が、これほどまでに強烈に描き出されたことがあっただろうか?爆笑を誘うほどに悲惨な、二つのよるべない魂の彷徨。“私小説の救世主”が贈る、心に突きささる傑作。女にもてない「私」がようやくめぐりあい、相思相愛になった女。しかし、「私」の生来の暴言、暴力によって、女との同棲生活は緊張をはらんだものになっていく。金をめぐる女との掛け合いが絶妙な芥川賞候補作「小銭をかぞえる」、女が溺愛するぬいぐるみが悲惨な結末をむかえる「焼却炉行き赤ん坊」の二篇を収録。
「たとえどのような御方からの下され物であれ、茶碗は茶碗ではないか…」体面ばかりが重んじられる、武家勤めに不満を持っていた美濃恵那藩士朽木三四郎は、藩主、長山影綱の催した茶会で、神君徳川家康公から、下賜された茶碗が割れていた罪を自ら負い、藩を離れた。そして、日光街道、水戸街道への江戸から最初の宿場である。千住宿にやって来た。新たに寺子屋を始めた朽木は、縄暖簾『小春』のおはるや娘おさと、そこに集う岡っ引の治平、新吉親子らの人情あふれる市井での生活に、本当の人生を感じ始めていた。そんなある日、教え子が水死体となって発見されるという事件が起こった。
舞い込んだ不思議な仕事。墓前での奇妙な花宴。そこで依頼されたのは肖像画の修復。報酬は、桜を活けた古備前というが…表題作ほか、藤田嗣治の修復を依頼された佐月が偶然、十五年前に別れた恋人に再会する「葡萄と乳房」。暁斎の孫弟子らしき謎の絵師を探るうちに思わぬ真実が立ち現れる、書き下ろし「秘画師遺聞」の全三篇。北森ワールドに浸る絵画修復ミステリー傑作連作短篇集。
従軍経験を持つ実業家の兄と、終戦の年に生まれた新聞記者の弟。老境にさしかかった二人は各々の人生を振り返る。戦争という影、絶ちがたい初恋や戦後日本への違和感など、対極なようでどこか似通ったものを抱く異母兄弟の葛藤を軸に、戦後史を深く掘り下げた畢生の大作。
警視庁井の頭署の会計課備品係・係長の黒木俊英は元捜査一課の刑事だ。かつてはエースだったが、今は「ゴンゾウ」と呼ばれている。「ゴンゾウ」とは、警察の古い隠語で、働かない警官のことである。いったい、黒木の過去に何があったのか…?人気連続ドラマ「ゴンゾウ」(テレビ朝日系)待望のノベライズ。
大の日本贔屓のフランス人、アナトール・シオン。国禁を犯して海を越え、憧れの日本にやってきた。時は幕末、開国前夜。彼は「愛する日本」のため、幕府の知恵袋となる。昼は盛装して天皇に拝謁、夜は頭巾を被って尊王の志士を助けたり、と大活躍。その働きが運命の歯車に不思議に作用し、ついに日本の歴史が「ひっくり返る」瞬間が。