2009年7月発売
ある日の登校中“川上の大クヌギ”と呼ばれる巨木の下で、真一の視界が急に揺らぐ。そして、目を覚ますとそこは一五七四年、戦国の世だった。春日の国の侍・又兵衛の命を偶然にも救った真一は、又兵衛と春日城の姫君・廉姫が身分違いの恋心を抱いていることを知る。しかし、その地を治める大名・高虎に廉姫は婚姻を申し込まれ、もはや了承するしかない状況にあった。一方、現代では真一の両親が、我が子のタイムスリップに動転しながらも、戦国時代まで迎えに行こうとしていた。戦乱の世から時空を超えて、一人の小学生とその家族に届いた、名もなき恋と涙の物語。
寛政の江戸深川に「三ツ木鮨」を構えた鮨職人・新吉は親方から受け継いだ柿鮨(こけらずし)の味と伝統を守るため、日々精進を重ねていた。職人の誇りをかけて、満足のいく仕事をする。それが新吉の信条だったが、ふとしたきっかけで旗本勘定方祐筆・小西秋之助の知己を得る。武家の借金を棒引きにする「棄捐令」に思い悩む秋之助との間に、互いの生き様を通して生まれる男同士の信頼感。住む世界が異なろうとも、そこには己れの仕事に命を燃やす男たちの熱い心意気があった。長屋に暮らす仲間たちと織りなす「笑いあり涙あり」の時代小説。
弱毒性豚インフルエンザが初めてフェーズ4を突破したあと、世界は強毒性H5N1型鳥インフルエンザの本格的な流行に脅えていた。そんな時期、人気作家の神崎慧一は恋人を棄ててまで新作の取材に没頭する。小説のテーマは致命的な新型ウイルスによる世界大感染=パンデミック!ところが海外から帰国直後に、慧一自身が猛スピードで死に陥る感染症状を発症した。彼とウイルスの接点は、意外にもノルウェーが生んだ世界的画家エドヴァルド・ムンクの名画『叫び』。そして人類を救うために戦う医療チームは、生物の概念を超えた恐るべきウイルスの姿を捉えた。
元実業団ラガーマンの桐生は仕事にも家庭にも中途半端な生活を送っている中年会社員。同点の末、くじ引きで負けた最終試合が忘れられない。そんな時、元マネージャーだった同僚の死を知る。「俺はこのままでいいのか」スポーツキャスターになった者、田舎で教師になった者、問題のある金融会社に入り、警察に追われている者…。予算削減による廃部以来、離散していたチームメイトたちと、もう一度あの日の試合に決着をつけるために、連絡を取り始めた桐生。果たして再試合を迎えることはできるのか。
自分を陵辱した男と暮らし始めた女(「五十猛」)。日本海の岩窟で焦がれる男を待つ女(「静之窟」)。入水を救けられた男と愛し合う女(「浮布」)など。〈官能的関係を生々しく描きながら、本書には縹渺と海風が渡っている。人間の穢れ、愚かさと聖性が、始まりの風景さながらに混然としている。この豊かさに胸をつかれる〉(小池昌代さん解説より)山陰地方を舞台に、男女の情欲が運命の糸に絡め取られていくさまを静謐な文章で綴り、神話的世界にまで昇華させた作品集。野間文芸新人賞、木山捷平賞など、数々の賞に輝く作家が、その評価を一躍高めた注目作を初めて文庫化。
明治初期、商売をたたんで一家で移り住んだ“しもた屋”の離れに、一人の泊り客ができた。離れには、主人が没落士族らしき男から買い受けた木彫りの猿の仮面が掛けられていたが、夜も深まったころ、どこからかうなり声が聞こえてきて…(「猿の眼」より)。怪談の名手・岡本綺堂の短篇十三本を選りすぐった“おそろし噺”傑作集。江戸から明治、大正時代までを舞台にした怪しくて不可思議な噺が、百物語形式で語られていく。ほかに、雪夜の横丁に座る老婆を目にした若侍たちの顛末を描く「妖婆」、新婚の夫がある温泉場から突然行方不明になる「鰻に呪われた男」など。
伊豆大島、そして奄美大島でダイビング中の死亡事故が発生。どちらの場所も源為朝伝承の地だった。そこに注目したワイドショー番組が事件を取り上げる。ところが番組スタッフからも死者が出る…。本当に事件は為朝の“呪い”によるものなのか?STは謎を追って現地に飛ぶ。「伝説の旅」シリーズ、始動。
春野台高校陸上部、一年、神谷新二。スポーツ・テストで感じたあの疾走感…。ただ、走りたい。天才的なスプリンター、幼なじみの連と入ったこの部活。すげえ走りを俺にもいつか。デビュー戦はもうすぐだ。「おまえらが競うようになったら、ウチはすげえチームになるよ」。青春陸上小説、第一部、スタート。
オフ・シーズン。強豪校・鷲谷との合宿が始まる。この合宿が終われば、二年生になる。新入生も入ってくる。そして、新しいチームで、新しいヨンケイを走る!「努力の分だけ結果が出るわけじゃない。だけど何もしなかったらまったく結果は出ない」。まずは南関東へー。新二との連の第二シーズンが始まる。吉川英治文学新人賞、本屋大賞ダブル受賞。
いよいよ始まる。最後の学年、最後の戦いが。100m、県2位の連と4位の俺。「問題児」でもある新人生も加わった。部長として短距離走者として、春高初の400mリレーでのインターハイ出場を目指す。「1本、1本、走るだけだ。全力で」。最高の走りで、最高のバトンをしようー。白熱の完結編。
大洋銀行から大手ゼネコンの東和建設に出向して、社長の秘書役に抜擢された山本泰世。若さに似ぬ直言ぶりは、竹山総理を後ろ盾に世界的なホテル・チェーンの経営に乗り出すワンマン社長の信頼を得るが、公共事業の入札やゴルフ場の開発では業界の闇の深さを思い知る。バブルという時代の内実に迫る意欲作。
黒船あらわる時代。長崎の出島で、高価なギヤマンの壷が蔵から消えた。“密室”の謎を鮮やかに解いてみせたのは黒ずくめの怪しい男夢水清志郎左右衛門だった。土佐弁の愉快な侍と道中をともにし、江戸に着いた彼は三姉妹が大家の割長屋で暮らすことに。みんなを幸せにする夢水シリーズ、痛快番外大江戸編。
一九七二年夏、キクとハシはコインロッカーで生まれた。母親を探して九州の孤島から消えたハシを追い、東京へとやって来たキクは、鰐のガリバーと暮らすアネモネに出会う。キクは小笠原の深海に眠るダチュラの力で街を破壊し、絶対の解放を希求する。毒薬のようで清清しい衝撃の現代文学の傑作が新装版に。
初めて秋子に会ったのは、大学生協の食堂だった。ちょっと壊れている彼女と授業をサボって出かけ、死んだ兄貴の話を聞かされた。彼女が僕にどうしても伝えたかった思いとは?胸が詰まるラストの表題作ほか、「小鳥の恩返し」「卒業文集」など、文学的な香りが立ちのぼる、緻密で美しい13の傑作短編集。
西之園家のキッチンでは、ディナの準備が着々と進んでいる。ゲストは犀川、喜多、大御坊、木原。晩餐の席で木原に続き、大御坊の不思議な体験が語られた。その謎を解いたのはー(表題作)。ほかに「ぶるぶる人形にうってつけの夜」「誰もいなくなった」など、長編シリーズのキャラクタが活躍する8編を収録。
地球発の船は、その惑星に到着した。その星では船がゆるやかに川を下り、すべての岸には悲劇と喜劇が溢れていた。消毒液の臭いのせいでとまらない涙、ため息を吐くのはモラモラの群れ、一つの部屋に四つの家族、即決裁判と労働監獄、舌を青くした市長、石炭屑の少女、強制労働の少年。男がいた。女がいた。子供がいた。老人がいた。船は今日も黒い川を下り、明日も下り続ける。その先にあるのは…。
祝言を挙げた文之介とお春。人捜しや探索を生業に一軒家を借り、お知佳とお勢とともに暮らしはじめた丈右衛門。幸せに浸るのも束の間、長屋の家持ち宮助が殺された。うらみを買うような人柄ではなかったが、つきまとっていた男がいたらしい。調べるうち、宮助が三つの長屋を持てるほどの金がどこから出てきたのか、気になってきた文之介は…。書下し長篇時代活劇。