2010年7月9日発売
一九七九年八月、作家中野重治が逝去した。中野重治に小説家として見出された佐多稲子は、この入院と臨終に至るまでの事実を、心をこめて描いた。そして五十年に亘る、中野重治との緊密な交友、戦前、戦中、戦後と、強いきずなで結ばれた文学者同士の時間を、熱く、見事に表現した、死者に対する鎮魂の書。毎日芸術賞・朝日賞を受賞した、感動の文学作品。
焼け残った運河沿いの倉庫を改造したアパートに蠢く住民達。瀕死の喘息患者、栄養失調の少年、売春婦の救いのない生態を虚無的な乾いた文体で描き、「重い」「堪える」の流行語と共に作家椎名麟三の登場を鮮烈に印象づけた「深夜の酒宴」。電車の運転の仕事を熱愛する平凡な男が現実の重さに躓きつつ生き抜く様を特異なユーモアで描く「美しい女」(芸術選奨)。戦後の社会にカリスマ的光芒を放った椎名文学の代表作二篇。
3582年1月、紡績会社の重役ワリク・カウクは北米アラスカ西部の狩猟小屋で目ざめた。4カ月前、地球が“喉”に落下する直前、恐怖から逃れようと“ピル”を過剰摂取したあとの記憶がとだえている。一方、技師ボールドウィン・ティングマーも同じころ、アラスカ西部にいた。吹雪に閉ざされた小屋を出て町のようすを探りにいくが、公共設備はすべて機能停止し、だれも見あたらない。人々はどこへ消えてしまったのか…。
上司との不倫に破れて自暴自棄になっていたあたしは、平安時代にタイムスリップ!女官・小袖として『源氏物語』を執筆中の香子さまの片腕として働き、平安の世を取材して歩くと、物語で描かれていた女たちや事件には意外な真相が隠されていたー。ミステリーをはじめ幅広いジャンルで活躍する著者の新境地。
五十三歳の男が親友の妻と恋に落ちた時、彼らの地獄は始まった。詩神と酒神に愛された男・田村隆一。感受性の強いその妻・明子。そして、北村太郎は明子に出会って家庭も職場も捨て、「言葉」を得るー。宿命で結ばれた「荒地派」の詩人たちの軌跡を直木賞作家が描く傑作長篇小説。第三回中央公論文芸賞受賞。
不義の恋の果てにこの世に生まれた美しい娘・おさい。江戸を襲った大火によって彼女の数奇な運命は回り始める。遊女、女スリ、大盗賊の娘、そして若き天才戯作者ー出会った人の心を少しずつ揺らし、救いながら、おさいは誰かをずっと待っている。果たして誰が、いつ?謎と人情が心に染みる七つの物語。
「エロマンガ島にいって、エロマンガを読もう」。ゲーム雑誌のそんな企画が通ってしまい、男三人は南の島へ向かう。二泊三日のささやかな旅がそれぞれの人生をほんの少し変えることも知らずに。疲れた心をもみほぐす表題作のほか、著著初のSF、ゴルフ小説、官能小説まで収録した異色で楽しい小説集。
大学の夏休み、先輩の手伝いで福岡県の門司でたこ焼き屋台のバイトをしていた樽井翔太郎は、ひょんなことからセーラー服の美少女、花園絵里香をヤクザ二人組から助け出してしまう。もしかして、これは恋の始まり!?いえいえ彼女は組長の娘。関門海峡を舞台に繰り広げられる青春コメディ&本格ミステリの傑作。
権中納言ながら物好きの貧乏公家・山科言継卿とその家来で世話好き女好きの大沢掃部助は、庶民の様々な揉め事に、もうけ話の匂いを嗅ぎつけ首を突っ込むが、事態はさらにややこしいことに。鉄砲の登場や蹴鞠など混乱する室町末期の京の世相を描き、笑いとペーソスが融合した著者真骨頂のユーモア時代小説。
中国人女性の「王愛勤」ことワンちゃんは、名前のとおりの働き者。女好きの前夫に愛想を尽かし、見合いで愛媛の旦那のもとへ。姑の面倒をみながら、独身男性を中国への「お見合いツアー」に誘うのだったー。日本語を母語としない作家として初めて芥川賞を受賞した著者による、文學界新人賞を受賞した衝撃のデビュー作。
警視庁刑事総務課に勤める大友鉄は、息子と二人暮らし。捜査一課に在籍していたが、育児との両立のため異動を志願して二年が経った。そこに、銀行員の息子が誘拐される事件が発生。元上司の福原は彼のある能力を生かすべく、特捜本部に彼を投入するが…。堂場警察小説史上、最も刑事らしくない刑事が登場する書き下ろし小説。