2010年発売
強大な国家権力とジャーナリズムの全面戦争に沸騰する世論。その時「起訴状」という名の爆弾が炸裂した。「弓成亮太、逮捕する!」。ペンを折られ、苦悩する弓成。スキャンダル記事に心を乱す妻・由里子。弁護団の真摯な励ましが家族を支える。そしてついに、運命の初公判が訪れたー。毎日出版文化賞特別賞受賞の傑作全4巻。
古いひな人形が、記憶の中の春とともに、母の面影を思い起こさせる「めぐりびな」、子どもが生まれたばかりの共働きの若い夫婦が直面した葛藤と、その後の日々を鮮やかに描き出した「ツバメ記念日」など、美しい四季と移りゆくひとの心をテーマにした短篇集「季節風」シリーズの春物語。旅立ちとめぐり合いの12篇を収録。
金の便器にまたがり宇宙遊覧を夢みる現代中国の大富豪・李光頭は、かつて公衆便所で覗いた美女の尻の話でタダ飯にありつく田舎町の「尻ガキ」だった。彼には血のつながらぬ偉丈夫な父と、宋鋼という兄がいたが、文化大革命の濁流はささやかな家族の幸せも押し流していく。中国で刊行されるや大ベストセラーとなった傑作長篇小説。
廃品回収業から身を起こした李光頭はのし上がり、女好きが高じてついには「処女膜美人コンテスト」を開催する。一方公営工場を失職した兄・宋鋼は、豊胸クリーム行商人として辺境をさすらう。大絶賛された文革篇に続く開放経済篇は、金と欲望にまみれた現代中国を下品すぎる描写で活写し、顰蹙と議論を巻き起こした大問題作。
幕府海軍の設立から、その終焉まで立ち会った男、矢田堀景蔵。幕府学問所で秀才の名をほしいままにした景蔵は、阿片戦争の波及を恐れた幕府の命により、長崎の海軍伝習所に赴任した。そこでは勝海舟、榎本武揚等、その後の幕府の浮沈を共にする仲間と出会う。幕府海軍総裁まで昇りつめた男の生涯。
大晦日の雪の日、ピアノの調律にやってきた妻の友人と名乗るインド人との不思議なやり取りを描く「皆に幸せな新年」。死んだ年下の恋人の故郷を探す女流作家の行動と当惑を描いた、奇妙な味の「ケイケイの名を呼んでみた」。
父は彼に、なぜ死んだ母を許すようにと言ったのだろうか。母は、徴兵忌避者の父との間に生まれた彼を、かつて殺そうとしたのだろうか。彼は本当に生まれてきたのだろうか。父と母の秘密が、次第に彼の想念の中に忍び込む。
障害を持つ子と職を失った夫との無力で不安な暮らし。めまぐるしく変わる工事現場、変貌する都市で、柔らかな体と繊細な神経を持った若い母親は、出て行ったままの子供を捜してさまよう。が、すでに日は暮れてしまった。
他人と関わりなくシンプルでクールに生きたい僕に、面倒な恋愛ばかりする女が近付いてくる。薄情な男たちに翻弄された彼女が僕と接触する理由は、僕が冷たくて傷つきそうには見えないから。都会に生きる男と女の一断面。
職を失い妻も出て行った私に、古い友人が怪しい投資話を勧める。死海の泥は美容に良い、世界中から客が来る。その開発を一緒にやろうというのだ。執拗な友人の電話を聞きながら、消えた妻の真摯な姿と気持ちを思いやる。
新聞に漫画を書いていた私は、表現が当局の忌避に触れ連行される。そしてそれがきっかけで直線が描けなくなり、解雇され、同時にどこからともなく充満してくる毒ガスの臭いに悩まされる。私を追い詰めるものの正体は何か。
死期の迫る恋人に向かって、ともに良く生きようと切々と訴えかける「葵のようなあなた」、子供時代の空想に満ちた豊かな孤独を蘇えらせる散文形式の「誰もいない教室」など、溢れる叙情を美しい情景に載せて詠む9篇の詩。
母親の最期を養女のKに看取らせた私は、恐ろしいたくらみを持って接してくるKを避けることができない。今はカメラマンになっている彼女は私を砂漠に誘い出し、油断させて私を捨て去る。読む者の内側にせり上がる恐怖。
飛行機の中でふと目にした子連れの人妻と男のささやかな戯れ、大胆にトイレに消えてゆく二人の男、スタイリッシュな叙述と微笑を誘う比喩を駆使してありふれた日常の断面を鋭く切り取る。あまりにも鮮やかなラストシーン。
土俗的、神話的な作品を生み出す現代中国の代表的な作家の、諧謔にみちたエッセイ。犬は何でもわかっているが、容易に心の内を明かさず馬鹿な振りをしている。さまざまな犬たちとそれに関わる体験が、苦い笑いを醸し出す。
罪深い思いから孫を出家させようとする一族の長老、楊万生の話(「賀家堡」)。一家で果樹園の塀を作っているとき、誤って子供を死なせた男のとった行動とは(「塀を作る」)。回族の生活習慣に題材をとった不思議な味わいの2篇。
腫瘍の検査のために病院に入った4人の若者たち。それぞれが喜怒哀楽の物語を語り、肉体がぶつかり合う。日本文学から消えて久しい、往年の石原慎太郎を思わせるアクション小説。騒々しくも溌剌とした情感溢れる青春群像。
エマーソンと名づけた台風の夜に一人の女が独白を始める。父親が汚職に巻き込まれたため、やむを得ず恋人を罪に追いやった女友達の死。私が語るその真相。政治の季節が終わった後、都市生活を享受し始めた人々の倦怠感に彩られた愛。