2011年7月28日発売
祖父が死んだ。あの戦争を「生き延びたせいで見なくていいものをたくさん見た」と語っていた元二等兵の遺灰を故郷の海へ還すため、孫の秀二は沖縄を訪れる。そこで手にしたのは、古びた四本のカセットテープ。長い時を超え、その声は語り始める。かつて南の島に葬られた、壮絶な個人的体験をー。敗残兵の影、島民のスパイ疑惑、無惨な死。生への渇望と戦争の暗部を描く、力作長編。
太平洋戦争末期、探偵小説好きの石目鋭二上等水兵は、軽巡洋艦「橿原」に乗務を命じられた。「橿原」は過去に怪死事件が相次ぎ、殺害の実行犯がいまも潜むと囁かれている。艦底の内務科5番倉庫では、機密物資を運んでいるという、不穏な噂も絶えない。そんな折、艦内で士官が毒死、乗組員が行方不明になった。やがて次々と生起する怪異なる事象に、石目もまた取りこまれていく。
真偽不明の指令乱発で指揮系統を見失った兵士たちに、「橿原」の真の目的地が明かされる。一方、船底の大戦争を生き延びた人の魂を宿す鼠の群れは、長い対話のなかに自らの行く末を探る。果たして「神器」とは何か、そして乗組員の使命とは?異界を抱える謎の軍艦に時空を越えた無数の声を響かせ、壮大なスケールで神国ニッポンの核心を衝く、驚愕の“戦争”小説。野間文芸賞受賞。
「おれが飛び立ったら、この女をお前の妻にしろ」-戦争末期の鹿屋航空基地で著者の父が出会った、三人の特攻隊員と絶世の美女、八重子。出撃命令を待つ彼らの間で交わされた密約が、それぞれの人生を大きく変えていく。国を守るために命を捨てた男たちと彼らの想いに殉じた女の運命を描く哀切きわまる恋愛譚。父が語った思い出を妖艶な物語に昇華させた鬼六文学の最高傑作。
身勝手な両親を尻目に、前向きに育った中学三年生のタマコ。だが、大好きな祖父が老人ホームに入れられそうになり、彼女は祖父との“駆け落ち”を決意する。一方、タマコを心配する若い担任教師は、二人に振り回されてー。奇妙で優しい表題作のほか、ダメな男の二十年ぶりの帰郷を描く「ソリチュード」、独身の中年姉弟の絆を見つめた「ネロリ」を収録。温かくて切ない傑作小説集。
琉球沖の大黒丸遭難で総兵衛以下、又三郎、駒吉など主だった人材を欠いた富沢町大黒屋を柳沢吉保の魔の手が襲う。その陰湿残忍な手口に身重の美雪はある決断を下す。一方、総兵衛は南洋の孤島で大黒丸の改造を果たし、針路を交趾(ベトナム)へ取った。かの地には寛永以前に多くの和人が渡航し、日本人町の記録もあるというのだが…。驚愕の新展開に胸が高鳴る不撓不屈の第十巻。
「私には希望がある」-国民の圧倒的支持を受ける総理・宮藤隼人。「政治とは、約束」-宮藤を支える若き内閣調査官・白石望。「言葉とは、力」-巨大権力に食らいつく新聞記者・神林裕太。震災後の原子力政策をめぐって火花を散らす男たちが辿り着いた選択とは?『マグマ』で地熱発電に、『ベイジン』で原発メルトダウンに迫った真山仁が、この国の政治を問い直す。