2016年8月16日発売
勤め先の大病院の不祥事隠蔽を批判し、犬吠の地方病院に飛ばされた父。製薬会社に関係の深い実家を気にして、父についていこうとしない母。都会暮らしが好きなのに、父をひとりにできなくて、ついていったぼく。お母さんを責めないで!と言いながら、密かに自分を責めていた妹。たとえ自分は離れても、いつまでもそこにあってほしい、ぼくたちの「家」。それは、わがままだろうか。家族でいるのが大変な時代の、親子四人の物語。
「貴様はどうも面白うないぞ!」生真面目な池田恒興は、不満げな主君・織田信長から秘伝書を渡される。そこには、戦や政において彼が感得したことが記されていた。本能寺の変にて信長亡き後、喪失感にさいなまれる恒興。なぜなら、乳兄弟でもあり、最も古い家臣の一人として彼の背中だけを見つめてきたのだ。遺された秘伝書は、苦境の度に恒興の危難を払ってくれる。長久手の戦いの絶体絶命の窮地にも、それが救ってくれると信じていたが…。時代小説の若き新星が、戦国の世のトップに仕えた男の苦悩と葛藤を描く、書下ろし長編!
働かず、ひたすら酒代をせびる父から逃げるため、泥酔した父の前に農薬の小瓶をおいた青年・聖人。家から逃げ出した彼の前に現れた黒ずくめの女性・日和満。自らをヒワマンと呼ぶ彼女から旅の同行を頼まれた聖人は、ヒワマンとともに一度、家に戻るのだが…。仕事、親の介護、熟年離婚、そして日本という国が抱える病。人生の綻びに戸惑い、今に苦悩する人々が、ふとしたきっかけで、ヒワマンと出会い、新たな希望を見いだす様を描く、新次元のミステリ!
東京で東日本大震災に遭遇し、テレビに映る被災地の映像に激しい衝撃を受けた文芸編集者の山下亜依子は、編集長の小暮から、被災地である仙河海市出身の作家・武山洋嗣に原稿を依頼できないかと持ちかけられる。武山のことはデビュー時に担当していたものの、本を一冊出したきり、三年前から音信不通になっていた。その武山に、こんなタイミングで、執筆の依頼などしていいものか。一方、震災以後、書けなくなってしまっていた担当作家の桜城葵からは、新作の取材のために仙河海市に入りたいと持ちかけられて…。
マスター、山内、工藤のヤクドシトリオと、大学院生の桜川さん、アルバイトのいるかちゃんが、ノスタルジックな酒場談義を繰り広げるバー“森へ抜ける道”に、現役刑事がやってきた。桜川さんの酩酊推理が数々の難事件を解決してきたことを聞きつけ、その実力を見極めようというのだ。桜川さんは、ひたすら脱線し続ける話題の中で、事件の真相を探り当てられるのか?縦横無尽の酒飲みトークと不可能犯罪の意表をつく推理。
梶亮平、27歳。ブラック企業体験記が、初めて月刊誌に掲載された。それを見たという美帆子から四年ぶりに電話が入る。学生時代、家庭教師をしていた少年の母親だ。中学受験を前に少年は交通事故で亡くなった。後に刑事の事情聴取に応じた際、亮平は思い知る。あの一本の電話から事件に巻き込まれることになったのだと。リアリズムの名手、初の犯罪ミステリー。
もと「変態的・倒錯的」といった蔑称としても使われた「クィアqueer」。差別に抗うなか、かつて“恥”であった名称は“誇り”へと変わった。いま、「クィアqueer」という語は、二つの意味をもつ。ひとつは性的マイノリティ全般を示す総称としての「クィア」。もうひとつは、いかなる範疇にも属さないーLGBTのどれでもないー名づけえぬ欲望。あらゆるものを包摂しながら、あらゆる境界をすりぬけてゆく、不思議で奇妙な珠玉の8編。