2016年8月5日発売
「死んだら会いに来るよ」。そう言い残して、若くして死んでしまった、年上の女性。合図は話しながら耳をかくことだという(「猫のしっぽ」)。かつて気まずい別れ方をした女性から送られていた、鞄。苦労してナンバー式の錠を開けると、中には褐色のかたまりが…(「鞄の中」)。男と女の関係は、妖しく不思議で、時に切ない。十三の傑作短篇集。
練達の外科医・当麻鉄彦のもとに末期癌の患者が訪れる。苦慮の末、選択した抗癌剤が劇的に効き、患者はめざましい回復を見せるが、折しもその頃、日本癌治療学会では、癌と戦うなと唱えて一躍時の人となった菅元樹の発言をめぐり、シンポジウムが紛糾するのだったー。患者の為の真の医療とは何かを問う、シリーズ最新刊。
京都路地裏にある「ジャスミン荘」は、居酒屋や喫茶店が軒を連ねる昔ながらの長屋。摩利が大家さんになってから、住人は路地入口の伝言板に毎日メッセージを書く約束なのだが、ある朝、ひとつ空欄が。部屋を訪ねると、中に死体!?この長屋は私が守る!居酒屋店主の絶品料理と、イケメン刑事の笑顔をエネルギーに、摩利は果敢に謎解きに挑む。
青春の思い出を語り合うだけのはずだった。同窓会で再会した洋輔ら四人は、旧交を温め合ううちに、かつての体罰教師への仕返しを思いつく。計画通り暴行し置き去りにするも、教師はなぜか別の場所で溺死体で発見された。犯人は俺達の中にいる!?互いへの不信感が募る中、仲間の一人が殺されて…。衝撃のラストに二度騙される長編ミステリー。
蛍川鉄道の藤乃沢駅で働く若手駅員・夏目壮太は“駅の名探偵”。ある晩、終電を見送った壮太のもとに、ホームレスのヒゲヨシが駆け込んできた。深夜密かに駅で交流していた電車運転士の自殺を止めてくれというのだが、その運転士を知る駅員は一人もいないー。小さな駅を舞台に、知らぬ者同士が出会い、心がつながる。あったか鉄道員ミステリ。
ある少年の体内で見つかった未知の臓器。以後、世界中で発見され、彼らはギフテッドと呼ばれる。当初、何の特徴も表れなかったが、彼らを恐れた人間ばかりが肉片と化す事件が起き、人々の心に恐怖が宿り始める。差別か、共存か。自分と異なる者に直面した時、人はどんな残酷な決断を下すのか?人間の限界と本性が暴かれる、エンターテインメント大作。
ジュエリーデザイナーの飛龍冬鹿(32)は、5年前、骨董商の父を不可解な事件で亡くした。かつては海外で華々しく活躍した冬鹿だが、父殺害の嫌疑をかけられて全てを失い、秘書の達木一郎(29)とふたり麻布の実家で世を忍ぶように暮らしている。骨董と宝石の仕事を淡々とこなしながら、父の仕事の手がかりを探る冬鹿。その並外れた審美眼で、蒐集家たちが差し出す美と謎の真偽を見極めていくー。圧巻の書き下ろし連作小説!
「あの夜のことをまだ根に持っているのか?」思いがけないダンテの言葉に、カリーナはたじろいだ。彼は私の18歳の誕生日の夜を覚えていたんだわ…。10年前、カリーナはダンテに純潔を捧げた。彼は私のものーそう信じたのに、彼女は冷たく部屋から追い出されてしまった。もう二度と会うこともないと思っていたのに、ダンテは今、厚かましくも平然と、カリーナにある仕事を頼みたいと言ってきた。彼は私が失ったものについて、何か知っているのだろうか?カリーナは妊娠して流産し、独りで耐えた年月を思い出していた。
新婚当時、シャーロットは良い妻にはなれなかった。大富豪の夫ラウルに甘やかされ、自分を見失ってしまったのだ。結局、夫婦関係は壊れて別居となり、もう2年がたつ。いまシャーロットは障害児の施設で身を粉にして働き、以前とは別人のように、地に足のついた生活を送っていた。もう昔の私に戻るつもりはない。でも、夫に会わなければ…。実は施設は困窮していて、すぐにも金銭的援助が必要なのだ。恥を忍んで金の無心に来た妻に、容赦ないラウルの言葉が飛んだ。「資金は出す。だが4カ月間、昼も夜も完璧な妻として尽くすんだ」
ロンドン郊外に立つ由緒ある豪壮な屋敷、マニオン邸ーこの屋敷の正統な継承者はあなたなのよ。デイナは亡き母から、繰り返しそう説かれ、それはまるで呪いの言葉のように、その後のデイナの人生をがんじがらめに支配していくことになる。彼女は屋敷の家政婦である伯母に引き取られた貧しい少女だった。母のためにも、かならずこの屋敷を手に入れてみせるわ。だがその企みも、屋敷に出入りする敏腕実業家ザックに見破られ、非難されたあげく、デイナは屋敷を追い出されてしまう。そして7年後、ふたりは予想外の再会を果たすことになるが…。
アナは旅の途中で所持金を盗まれ、働き口をさがしていた。ようやくある屋敷の家庭教師の職を見つけ、面接に行く途中、アナは海で溺れた少女を救い、そのまま意識を失ってしまう。気づくと、彼女は豪奢な屋敷で寝かされていた。そばで当主のリチャードが、娘の命の恩人である彼女に冷ややかな目を向けている。アナは、はっと気づいた。彼とは先日、偶然出会っている。しかも、キスまで奪われて…。この人は、私が愛人志願で現れたとでも思いこんでいるんだわ。なんて傲慢なの!私は家庭教師になりたいだけなのに。
シーラは大きなお腹を抱え、9カ月前の運命の夜に思いを馳せていた。とあるパーティで、高級なタキシードを着こなす男性と出会った。スレイドと名乗る彼は世界を股にかけて仕事をしており、ハンサムな容姿もさることながら、知性とユーモアで彼女を魅了した。たちまち惹かれ合い、月明かりの下で情熱的に結ばれたのもつかの間、夜明けとともに彼は旅立っていったー彼女の身に、小さな命を残して。でも、スレイドは永遠の関係や子どもを望むタイプじゃないわ。シーラは彼に妊娠を知らせず、独りで産み育てる決意をした。それなのに今、なんの前触れもなく突然、彼が帰ってくるなんて!動揺のあまり追い返すシーラだったが、そのときお腹に激痛が走り…。
両親亡き後、アンは鬼のような大伯母のもとで家政婦同然にこき使われ、20歳になった今、好きでもない男性と結婚させられそうになっていた。もう我慢できない…。アンは古い車に乗って家を飛び出し、カリフォルニアに向かおうとしたが、途中で車が故障してしまった。窮地を救ってくれたのは、ローリーとアンジェラの若夫婦。学生結婚した二人は夫婦で初めてローリーの実家へ行くところだという。二人の車に同乗してほっとした矢先、衝突事故に巻き込まれ、アンは病院のベッドの上で意識を取り戻した。そばにいたローリーの兄マットの言葉で、驚きの事実を知る。若夫婦は亡くなり、彼女はアンジェラと取り違えられていた!
和平のため敵対するマッキントッシュの城を訪れた族長の娘ベラは、花婿候補として、2人の男に引き合わされた。寡黙で野性味溢れるブローディ。女あしらいの上手い美男子ケイラン。氏族同士の争いに終止符を打つには、どちらかと結婚しなければならない。だが翌朝、ベラの弟が殺害され、犯人と断罪されたブローディは即刻追放、ケイランが次期後継者に指名された。4カ月後、ケイランとの婚礼を翌日に控えた嵐の夜、突然、ベラの寝室に侵入者がー!暗く険しいブローディの視線に瞳をとらえられた次の瞬間、ベラはたくましい腕で軽々と抱えあげられ…?!
10年前、富豪の一人娘エミリアは、アポロ像のようにハンサムでエレガントなドミニクに恋をした。太っていて不器量なエミリアに、彼はとても優しくしてくれた。だが、ドミニクに求婚されたとき、彼女は断ったーそれが財産目当てと知ったから。その後、父親が破産して自殺。エミリアの人生は一変した。今は痩せて、見違えるほど美しい女性に生まれ変わり、エマという名で家庭教師をしている。そして今度の雇い主は…伯爵となったドミニク!変貌したわたしを見て、彼は過去を思い出すだろうか?
パーティ会場で男に言い寄られ、困り果てているジュリアを、サイラス・カボット・カーターは思惑ありげに見つめていた。彼は近い将来、爵位と広大な領地を受け継ぐ名家の御曹司で、常に絶対の自信を持ち、大勢の女性に取り囲まれている。ジュリアが幼い頃から憧れながら、反発も感じていた年上の男性だ。サイラスは「きみもあの男に気があるんだろう?」などと言って軽蔑をあらわにし、違うというなら証明してみせろとたたみかけた。「いったいどうやって?」ジュリアが憤慨して問うと、サイラスは平然と彼女の腰に手をまわし、こんな提案をした。「僕の恋人を演じて、あの男を追い払えばいい」
地中海の島国アルマの王女ベラは落胆していた。父に強いられた、石油王の御曹司ウィリアムとの政略結婚。兄たちのように恋におちた相手と幸せになれたらよかったのに…。そんなときベラは、浜辺で偶然でくわした魅惑的な男性が、驚くことにほかならぬ許婚ウィリアムだと気づく。たくましい体。きらめくアクアブルーの瞳。写真で見た、ハンサムだけれど真面目そうな印象の彼とはまるで違う。なんて快活でセクシーな人なのかしら。にわかに胸躍らせるベラだったが、すぐにそれが勘違いだとわかる。彼の名はジェームズー父が決めた結婚相手の双子の兄弟だったのだ。
アイルランドの美しい古城のホテルで働くアーニャは、ホテルを買収した新オーナーのブレイディに呼びだされ、カリフォルニアを訪れた。出迎えにも来ないブレイディに腹をたてるが、やがて現れた彼をひと目見るなり、その野性的な魅力に圧倒されてしまった。人を寄せつけない謎めいたまなざしーアーニャは魔法にかかったように、彼に誘われるままベッドをともにした。だがその直後、ブレイディの言葉に凍りつく。「昇給は約束する。もうアイルランドに帰るといい」2ヵ月後…アーニャのおなかには新しい命が宿っていた。