2017年10月31日発売
二十八年間の会社員生活を終え自由の身となった小説家。並外れた美貌を持ちながら結婚に破れた女優。「鳥獣戯画」を今に伝える名刹を興した高僧。父親になる三十歳の私。恋をする十七歳の私。語りの力で、何者にもなりえ、何処へでも行ける。小説の可能性を極限まで追い求める、最大級の野心作。
北の町に根づいた一族三代と、そのかたわらで人びとを照らす北海道犬の姿。信州・追分に生まれ、助産婦となって道東の町・枝留にやってきた祖母。戦前に隆盛をきわめた薄荷工場の役員である祖父。川釣りと北海道犬が趣味の生真面目な父。子どもたちを頼みに生きる専業主婦の母。幼なじみの牧師の息子と恋をする歩。レコードと本に没頭する気難しい始。いずれも独身のまま隣に暮らす、父の三姉妹。祖母の幼少時である明治期から、50代になった始が東京から帰郷し、父母と三人のおばたちの老いにひとり向きあう現在まで、100年にわたる一族の、たしかにそこにあった生のきらめきと生の翳りを、ひとりひとりの記憶をたどるように行きつ戻りつ描きだす、新作長篇小説。
初恋、ベルリン、危険な三角関係。初恋の記憶をめぐる処女作と、大都会に上京した青年の危険な密通。20世紀最高の天才作家、初のコレクション。「言葉の魔術師」の瑞々しい初期名作が、40年以上の時を経てロシア語原典訳でよみがえる。
弓、剣、茶の「三道」を伝える“坂東巴流”の嫡男・友衛遊馬、二十歳。家出先の京都から帰還するも、家元でさえ副業しなければ家族を養えない貧乏流派ゆえ、働き口を探してこいと言われてしまう。建造が始まったスカイツリーの警備員に収まるが、周囲からは「あそこの跡継ぎはダメだ」と後ろ指を指され、ガールフレンドとの仲も“行き止まり”。冴えない日々の中、曲者ぞろいの茶人武人にやりこめられながら、遊馬は自分の進むべき道をぐるぐると探しつづける。明日が見えないあなたに贈る笑えて泣けて元気になれる物語。