2017年12月発売
「たとえ専業主婦でも、女はいざという時のために最低百万円は隠し持っているべきでしょう」。新聞の悩み相談で目にした回答をきっかけに、美津子はある仕事を始めた。八時三十分から三時まで、昼休憩を除いて六時間勤務。完全在宅勤務でノルマなし。欠かせないのは、熟したトマトー。R-18文学賞読者賞を受賞した「まばたきがスイッチ」をはじめ、生きる孤独と光を描ききる六編を収録!
瓶子貴宣は、月収10万円の私大非常勤講師。博士号を持ち実力も抜群なのに、指導教官の不祥事で出世の道を閉ざされた。しかも姉が育児放棄した甥、誉を養ってもいる。貧乏でも正規雇用を諦めない貴宣の前に、千載一遇のチャンスが。だが誉を引き取りに姉が現れ、家庭問題まで勃発ー。奮闘するポスドクの未来はどうなる!?痛快かつ心温まる、極上のエンタテインメント。
時代を越え愛される維新最大の功労者、西郷隆盛ー。西郷と入水した月照の死の真相(「悲恋 犬神娘」)。熊本城で官軍を勝利に導いた司令官夫人の活躍(「谷干城夫人」)。西南戦争の天王山・田原坂(「田原坂合戦」)。西郷の副将・桐野の熱き忠誠(「賊将」)。薩摩軍が発行した軍票秘話(「西郷札」)。西郷は生きていた?!芥川の意外な逸品(「西郷隆盛」)。謎多き偉人、その知られざる生涯を旅する傑作集。
初瀬桃子は結婚八年目の子供のいない主婦。夫・真守の両親が住む母屋の離れで暮らし、週に一度、手作り石鹸教室の講師をしている。そんな折、義父の宗一郎が脳梗塞で倒れた。うろたえる義母・照子の手伝いに忙しくなった桃子に、一本の無言電話がかかる。受話器の向こうで微かに響く声、あれは夫では?平穏だった桃子の日常は揺らぎ始め、日々綴られる日記にも浮気相手の影がしのびよる。
不倫を清算できない真守。そんな折、婚家の祖父が離れに住まわせていた時枝という女の不遇の生涯を聞く。桃子は、離れの床下に異常な興味が湧き、思わぬ衝動買いに走る。一方、身重の不倫相手・三宅奈央との再婚を望み帰宅を拒む真守に桃子は呆れ、遂に奈央に直談判を試みるが、出産の決意は固く、義母までもが桃子の様子が変だと態度を変えてきた。予期せぬ結末へと疾走する愛のドラマ。
捜査二課から異動してきた“刑事の中の刑事”上河内博人警部が相棒に指名したのは、なんと“内勤のプロ”柴崎警務課長代理だった(「秒差の本命」)。坂元真紀署長は、管内に移ってきた武闘派暴力団事務所を排除するため、総力体制を組む。対策を練り、調査を進めるうちに、柴崎たちの想像を遙かに超えた真実が浮上する(表題作)。警察小説の醍醐味、その全てを詰めこんだ、会心の連作ミステリ。
幕末の石見銀山。間歩と呼ばれる鉱山の坑道で生まれたお登枝は、美貌を見込まれ女郎屋に引き取られた。初めて客を取る前の晩、想いを寄せる銀掘の伊夫を訪ねるが、別の男に襲われる。とっさに男を殺め、窮地を救ってくれた伊夫と身体を重ねたお登枝。罪と秘密をともに抱えた二人の行く末はー。変わりゆく世を背景に、宿命を背負った男女の灼けつくような恋を官能的に描き切った力作時代長編。
白の妃ネネの罠によって、行方不明となる皇子アリル。突然の悲報に傷つき、戸惑いながらも、彼を探すミレディア。皇帝候補のお披露目が迫り、異様な魔力に包まれた帝都ストラディカから弾きだされた二人は、帝国の過去を渡り歩く中で、帰るべき場所を探す…。他方、もう一人の皇子ラムザは、過酷な生活の中でも己を見失わず、未来へと踏み出す。大河ファンタジー、策謀の第3弾。
旅路を経て、皇子アリルが下した決断。たった一つの想いを貫き通すため、彼は歩みを止めなかった。恐怖帝ヴァルデミアスも、白の妃も、死神ギィも、彼を止めることはできなかった。すべては、この日、この時のために。明かされるロジェの秘密と、十三年前の真実。そして遂に、皇帝選の披露目の日が到来するー。オレンディアと十三翼将のグランゼリア戦を描く中篇「碧落」を収録。
王は、二人いらないー。上王の統べる地、八万遠。建国より千年、二人の少年が出逢う。一人は東国の雪州嫡男・源一郎。今一人は雪深き墨州長男・甲之介。やがて二人が国を治める主となった時、運命の歯車が血の匂いを纏って回り出す。妻子と家臣に恵まれ、善き治世を布く源一郎と、弟を殺し父を幽閉して、領主となった甲之介。二人を結ぶものは友情か、それとも。流転の偽史物語。
徒歩旅行の途中、果樹園のある農場に宿を求めたロンドンの学生アシャースト。彼はそこに暮らす可憐な少女、ミーガンに心を奪われる。月の夜、白い花を咲かせる林檎の樹の下でお互いの愛を確かめ合った二人は、結婚の約束をする。だが旅立ちの準備で町へ出たアシャーストを待っていた運命はー。自然の美と神秘、恋の陶酔と歓び、そして青春の残酷さが流麗な文章で綴られる永遠のラブストーリー。Star Classics名作新訳コレクション。
2年前、レオニーはヴィダルのプロポーズを断った。ヴィダル・パレッラ・ドス・サントスー貴族の末裔で、多くの女性と浮き名を流す色男、ポルトガルの大物実業家だ。彼は、会ったその日に体を求めてきた。レオニーが拒絶すると、今度は妻になってほしいと甘い言葉を囁いた、不埓な男だ。だが状況は一変した。父親がヴィダルの会社の金を横領したのだ。レオニーは父の罪を償うため、我が身を差しだす覚悟で、ヴィダルに面会を申しこんだ。彼が求めるものは2年前と同じ、相も変わらぬ、レオニーの奉仕だと知りながら。
夫は、ケイトの妊娠を知らないまま交通事故で世を去った。結婚生活は夫の異常な嫉妬と貧困にあえぎ、地獄のようだったが、それから5年、ケイトは幼い息子を心の支えに生きてきた。ところが、ある日、弁護士を通じて、思いもしない知らせが届く。絶縁していた、裕福な夫の両親が会いたいと言ってきたのだ。息子を取り上げられるのではとケイトは怯えるが、現れた美貌の弁護士の顔を見て、思わず息をのんだ。彼もじっとケイトを見つめている。亡き夫にそっくりな目をして。それは夫が妬んでやまなかった、従兄のエイドリアンだった。
ベルヴィアは、双子の内気な姉をいつも守ってきた。ある日、会社経営に行きづまっていた父親が、融資目当てで、イギリス屈指の実業家レイサム・タヴェナーを家に招待した。如才なく、世慣れた感じのレイサムは、大人しい姉のほうに関心を持ったらしくて、何かにつけて気を引こうとする。断れない姉をかばうベルヴィアは、彼の興味を引きつけるため遊び慣れているふりをした。すると、真に受けたレイサムは奔放な娘だと思いこみ、辛辣な態度で接してきたあげく、“浮気女”と嘲りながら、ベルヴィアにキスをしてきて…。
ジョアンナと金融界を牛耳るイタリア人銀行頭取りサンドロ。二人の結婚生活が壊れたのは、ジョアンナのせいだ。誰にも言えずにいる、あの忌まわしい過去のせいで、愛していたのに、どうしても夫に体を許せなかったのだ。いたたまれず家を出て、妹と暮らすようになったが、その妹も今は死に、葬儀代を工面できなかった彼女は、雇主に金を借りた。そのせいで、しつこく関係を迫られている。追いつめられたジョアンナが、やむをえず夫に電話をすると、久々に聞くセクシーな彼の声は告げた。「5時に。1時間だけ」
南北戦争末期、右脚に重傷を負った若い北軍兵士が南部の森で女の子に救われ、女子生徒五人と黒人奴隷が戦火を避けつつ生活する、姉妹の営む女学園に運び込まれた。彼女らの看護の甲斐あって、兵士は回復していく。彼は甘い言葉をかけ、皆の気を惹こうとするようになる。年少の二人はあどけない愛着を抱く程度、優等生の少女は超然として誘惑されない。だが、秘密を抱える最年長の生徒は甘言に惑わされてしまう。人知れず心に傷を負う姉妹も。そしてそんな中、ある事件が起き、すべての状況は一変するー。心かき乱され、本能が露わになる、女たちの愛憎劇。ソフィア・コッポラ監督、ニコール・キッドマン主演、カンヌ国際映画祭監督賞受賞作、原作小説!
周王朝の現世的な政治権力がほぼ形骸化した春秋時代末期、揚子江流域では、闔廬・夫差率いる“呉”と、允常・句踐率いる“越”とが、それぞれの擁する重臣の強力な補佐を受けつつ急速に国力を伸張、互いに中原進出・覇者宣布をにらみながら、周辺諸国をも巻き込みつつ、三つ巴、四つ巴の激しい抗争へと突入していった。
文久3年(1863)。北陸の要・越前福井藩の家中は異様な緊迫感に包まれていた。京の尊攘派激徒を鎮めるべく、兵を挙げて上洛すべきか否か。重大な決断を迫られた前藩主・松平春嶽が思案をしている折、幕府の軍艦奉行並・勝海舟の使いが来ているとの報せがあった。使いは浪人体のむさくるしい男だという。名は、坂本龍馬。彼の依頼を即決した上で、上洛についての意見を聞いた春嶽はー。旧幕府にあって政権を担当し、新政府にあっても中枢の要職に就いた唯一の男、松平春嶽。日本を守るため、激動の時代を駆け抜けた春嶽の生涯を描いた歴史長編!
一九五六年、大阪から上京し、早稲田大学露文科に入学。米川正夫ら教授陣、個性豊かな級友たち、コケティッシュな女学生、親戚のような大家夫妻や愛情深い両親の姿…。八十代を迎えた作家による自伝的連作集。