2018年11月21日発売
仕事に悩む女性編集者の田宮宴はある日、袋小路で人が忽然と消えるという事件に遭遇。謎の実業家にして童話作家のミーミ・ニャン吉先生の事務所で、秘書の丸山にその不思議な出来事について話すと、そばにいた猫が何かを伝えようとするかのようにニャーニャーと鳴いている…。ニャン吉先生ことニャン氏の正体とは?!愛すべき猫探偵・ニャン氏の事件簿パート2、出来だニャ。
ヘスターは砂漠に呑まれて消えた。以来抜け殻のようになってしまったトムだったが、彼の魂をゆさぶり起こしたのは、飛行商人として訪れた街で見かけた、故郷ロンドンの知り合いの姿だった。慌てて声をかけたが、相手は人違いだという。間違いないはずなのに何故? 廃墟となったはずのロンドンに何かが隠されているのではと思ったトムは、娘レンを伴い若き軍人ヴォルフと共にロンドンを目指す。見捨てられた地で彼らを待つものは?
ヘスターはストーカーのシュライクに助けられ、今更トムやレンのもとに戻ることもできず、賞金稼ぎとして暮らしていた。だがレンと親しかった青年セオを偶然助けたことから、忘れたはずの過去が彼女につきまといはじめる。セオは〈グリーンストーム〉の内紛と陰謀に巻きこまれ、現将軍夫人と共に囚われの身となっていたのだ。ヘスターとセオは再びトムとレンに会うことができるのか? ガーディアン賞受賞、〈移動都市〉四部作完結。
天皇制のある国の日常とは ネットお見合いで知り合った女性の深い秘密から、この国の機構のいびつさに接してゆく、『文學界』発表時から話題を呼んだ表題作。消えてゆく煙草とコンビニをペーソスとともに描いた「さようならコムソモリスカヤ・プラウダ」、実家と膨大な蔵書を処分する一幕「実家が怖い」、赤裸々に「艶舗」に通う日々を描く「五条楽園まで」、『ハムレット』の大胆なパロディ「ホレイショーの告白」の全五篇を収録。
主人公のジョアンは幼少時からバレエを習い、ハイスクールを卒業してプロのバレエ団に入ろうとするが、それほどのダンサーではないため、就職先が見つからない。ひょんなことからフランスの名門バレエ団の芸術監督の眼に留まり、群舞ダンサーとして雇われたが、うだつの上がらない自分に絶望する毎日だ。 ある日、バレエ団のゲストダンサーで、ロシアから来仏した天才アースランのリハーサルを盗み見するうちにその完璧さに感動し、激情にかられて彼の化粧室に忍び込み、発作のようなセックスをしてしまう。そして去り際に、自分のアメリカの住所を書き残していく。 帰国後、天才的振付家のミスターK率いるニューヨークの名門バレエ団に採用されるが、やはりここでも群舞 止まり。そんなジョアンのもとに、アースランから封書が届き始め、文通を続けるうちに彼の亡命の手助けをする羽目に陥る。冷戦時代のことで、亡命は非常に危険な行為だ(このあたりは、ヌレエフやバリシニコフなど、優秀な旧ソ連のダンサーたちの亡命事件とダブって興味深い)。 幸い、カナダ経由で亡命は成功。アースランはジョアンの運転する車に潜んでニューヨーク入りし、ジョアンと同じバレエ団から華々しくアメリカデビューを果たす。二人は同棲を始め、ジョアンは亡命を助けた恋人として“時の人”になり、ミスターKは大喜びだ(ちなみにミスターKは、ミスターBと呼ばれたあのジョージ・バランシンをイメージさせる)。 しかし二人の仲は続かなかった。天才アースランは自分と踊れない無能なジョアンに愛想をつかし、ただでさえ女好きの彼は浮気三昧の体たらく。ジョアンは捨てられ、失意のまま自暴自棄になり、昔から彼女を心から愛し、理解してくれている幼馴染のジェイコブと肉体関係を持つようになる。結果、妊娠。彼女は潔くバレエ団を辞めて結婚生活に入る。心理学者のジェイコブの仕事で一家はカリフォルニアに転居し、ジョアンはバレエスクールを主宰し、息子ハリーにも教え始める。 そのハリーは母親がアースランの元彼女であることを幼少のころから誇りに思い、この天才に憧れを抱いている。成長とともにバレエの才能を発揮し始め、16歳になるとジョアンの古巣のバレエ団で特別レッスンを受けるようにもなる。当然、大御所アースランの目にも留まり、それが要因となってジョアンの幸福な結婚生活が崩壊の危機に晒されていく。誰の目にもハリーがアースランに似すぎているのだ、容貌も才能も……。そして徐々に明かされて行くジョアンの秘密。 だが、ジョアンはこの“修羅場”を真の愛の力で乗り越えていく。想定外の衝撃のハプニングでストーリーが展開していく本書の読みどころはまさにこの点にある。ドラッグ、セックス、嫉妬が渦巻くバレエ界を突き抜けた先で、主人公はふつうの人間であることの幸せ、人を愛することの意味を見いだし、大人の女性に成長していく。彼女の生き方に沿って読み進むほどに、読者も心豊かに、目が開かれていく──これは、変ることを恐れない人間の、激情と愛情と勇気のドラマチックな物語。