2018年11月発売
この世は、すべて幻なのです。現実なんてものはない。ただ、映っている影だけが見える。そうではありませんか?-主人と家政婦との三人で薔薇のバーゴラのある家に暮らす「彼女」。彼女の庭を訪れては去っていく男たち。知覚と幻想のあわいに現れる物語を繊細かつリリカルに描く衝撃作。
「KUMAさんの言葉の内側には 命へのぶ厚い歓喜がへばりついている」 --井浦新さん(俳優)推薦! 甲斐駒ヶ岳の山岳地帯に作業場をかまえ、鉄のゲージツ家として活動を続けてきたオレ。後期高齢者となった今は、畑に野菜を作って猿や鹿との攻防を繰り広げ、奈良東大寺から蓮の根をわけてもらい、美しい花を咲かせるのに熱中する日々だ。 そんな作業場へ、サングラスを掛けたスキンヘッドの男たちがやってきた。 「ああ、そうか。マロの一味だな」 「はい、弟子の舞踏者です」 目をやると、テンガロンハットに黒い革のコートをまとった「中央線の魔王」が、桜の木に寄りかかっていた。オレの作品のガラスの柱を舞台に使わせてほしいと言うのだ。 「クマ、一緒に踊るか」 「オレが? マロと?」 子どもの頃から歌も踊りも苦手なオレだが、マロに「ダイジョーブ、俺が演出するんだ。素直な躰ひとつ、お持ちいただけるだけでよろしいので」とまで言われて怯むのは「私に生きる才能は残っておりません」と白旗を掲げるようなものだ。・・・ こうして白塗りのメイクで、マロが率いる舞踏集団の初舞台を踏む「戯れの魔王」。 オッカサンの死を看取り、蓮の花が開いて散るまでを見守る「蓮葬り」。 毎朝、遥拝してきた甲斐駒ヶ岳の奉仕登山にいどむ「アマテラスの踵」。 山岳の作業場に迷い込んだ瀕死の仔猫を助ける「ささらほーさら」。 泉鏡花文学賞受賞『骨風』のKUMAさん、生きる実感に満ちあふれた最新小説集。
魔王討伐のため王都を旅立ってから早五年。旅の仲間たちから理不尽な扱いを受けてきた聖女フェリシアは、勇者に倒されたはずの魔王がこっそり逃げ去るのを目撃しながらも、そっと口をつぐんで王都に帰ることに。しかし、凱旋した彼女を待っていたのはさらなる困難だった。旅の間に適齢期を過ぎていたフェリアは婚約者の王子に捨てられ、王からは都を去るよう恫喝され、財産を取り上げられて大神殿からも放り出されてしまう。怒りに震えるフェリシアは決意するー絶対に清らかなまま長生きをして、この国に次代の聖女を生み出させまいと…!!
コンビを組む二人は違法カジノで働いていたが失敗ばかり。今度は偽宝石売りでも騙した女に騙され無一文に。切羽詰まったハセは商店街にたむろする老人たちを見て閃いた。これからは、年寄りだ。32歳と30歳。崖っぷち男二人。騙すのは、年寄りだ。さびしさは、利用できる。歪んだ愛を抱え、じたばたする悪党コンビ。注目作家が紡ぐ、泣けるバディ小説!!
大学を中退し、人生に迷っていた坂本壮馬は、兄が神職をつとめる横浜・元町の、由緒正しく恋愛パワースポットとしても有名な神社、源神社で働くことになった。信心ゼロの壮馬の指導役は、「この世にこんなきれいな子がいるのか」と見惚れてしまう美少女・久遠雫。彼女は、参拝者の前以外では笑わない。どこか、謎を秘めていた。心霊騒動、端午の節句、就職祈願、夏の祭礼etc.…。神社を巡るさまざまなことを引き金に巻き起こる謎に壮馬が体当たりし、雫が解き明かす。そんな雫も、大学の准教授・鳥羽にはふだん見せない顔を見せ、壮馬は気が気でなくなりー。初詣に七五三、お宮参りや酉の市、日本人の暮らしに深く根ざし、パワースポットとしても注目される神社のお仕事をテーマに、明るく、意外性に満ちた、趣向溢れる本格ミステリ!
パワハラ上司から理不尽に責められ、現実逃避をするかのようにMMORPGにログインした主人公。ゲームの世界を楽しむはずが、気がつけば1,000人の見知らぬ人々と共に異世界に拉致されちゃった!?地球に未練のない主人公は、与えられた特典で“グローセ・ヘンドラー”という新たな自分を手に入れ、チートスキル“通信販売”を使い商人を目指すことに。異世界ナビゲーターの美女インス、オーガ族の美少女リーシアなど仲間も加わって、商売をしたり、魔物と戦ったりしながら、異世界生活をマイペースに楽しむけど…!?
ロンドン塔からレイヴンが消え、橋という橋は落ち、ロンドンは瓦礫の街と化した。文字による記録は失われ、新たな支配者“オーダー”は鐘の音で人々を支配している。両親を亡くした少年サイモンは、母が遺したひとつの名前とひとつのメロディを胸に、住み慣れた農場を離れ、混沌のロンドンに向かった。そこで彼は、河の底から呼びかける不思議な銀色の音を聞き、奇妙な白い眼を持つ少年リューシャンに出会う…。世界幻想文学大賞受賞、ブッカー賞候補にも挙がった幻想文学の名作登場!
星のふる晩、青年刑事ショーンは川に身を投げようとしている娘を救った。事情を尋ねると、彼女は悲嘆にくれた理由を語る。正確きわまりない予言をしてきた謎の人物に、信じがたい状況で父親が死ぬと宣告されたというのだ。実業家の父親を狙った犯罪を疑うショーンの要請で、警察は予言者の捜査を始める。予言に翻弄される人々を映し出す巧みな心理描写と、途切れることのない圧倒的な緊迫感。サスペンスの巨匠の真骨頂を示す不朽の名作!
実験的にはじめた稀覯本のオンラインショップや、新設したコーヒー・バーなどが順調で、それなりに繁盛しているニューヨークの書店。オーナーのダーラは、書き入れどきの感謝祭を目の前にして張り切っていた。一方で、書店のマスコットの黒猫ハムレットは、相変わらず気ままに昼寝をしたり、シャーシャーと威嚇したり。そんな充実した日々を送っていたが、近所でとんでもない事件が発生して……。大人気の黒猫名探偵シリーズ完結編!
優等生だがほかに取り立てて特徴のない男子高校生・開沢恭平は、日曜日に幼なじみの青柳菜加に呼びつけられ、一方的に相談された。渋谷の雑踏で母親から見捨てられた子どもを保護し、家まで送り届けたが、荒れ果てた無人の室内に危機を覚え、自宅に連れてきたという。昔から行動力だけが突出している菜加は、事の重大さをまったく認識していなかった。「誘拐罪。お前がやったことはれっきとした犯罪だ」--大人たちを頼らず事態の収拾を図るため、恭平たちの波瀾の一週間が幕を開ける!
仕事に悩む女性編集者の田宮宴はある日、袋小路で人が忽然と消えるという事件に遭遇。謎の実業家にして童話作家のミーミ・ニャン吉先生の事務所で、秘書の丸山にその不思議な出来事について話すと、そばにいた猫が何かを伝えようとするかのようにニャーニャーと鳴いている…。ニャン吉先生ことニャン氏の正体とは?!愛すべき猫探偵・ニャン氏の事件簿パート2、出来だニャ。
ヘスターは砂漠に呑まれて消えた。以来抜け殻のようになってしまったトムだったが、彼の魂をゆさぶり起こしたのは、飛行商人として訪れた街で見かけた、故郷ロンドンの知り合いの姿だった。慌てて声をかけたが、相手は人違いだという。間違いないはずなのに何故? 廃墟となったはずのロンドンに何かが隠されているのではと思ったトムは、娘レンを伴い若き軍人ヴォルフと共にロンドンを目指す。見捨てられた地で彼らを待つものは?
ヘスターはストーカーのシュライクに助けられ、今更トムやレンのもとに戻ることもできず、賞金稼ぎとして暮らしていた。だがレンと親しかった青年セオを偶然助けたことから、忘れたはずの過去が彼女につきまといはじめる。セオは〈グリーンストーム〉の内紛と陰謀に巻きこまれ、現将軍夫人と共に囚われの身となっていたのだ。ヘスターとセオは再びトムとレンに会うことができるのか? ガーディアン賞受賞、〈移動都市〉四部作完結。
天皇制のある国の日常とは ネットお見合いで知り合った女性の深い秘密から、この国の機構のいびつさに接してゆく、『文學界』発表時から話題を呼んだ表題作。消えてゆく煙草とコンビニをペーソスとともに描いた「さようならコムソモリスカヤ・プラウダ」、実家と膨大な蔵書を処分する一幕「実家が怖い」、赤裸々に「艶舗」に通う日々を描く「五条楽園まで」、『ハムレット』の大胆なパロディ「ホレイショーの告白」の全五篇を収録。
主人公のジョアンは幼少時からバレエを習い、ハイスクールを卒業してプロのバレエ団に入ろうとするが、それほどのダンサーではないため、就職先が見つからない。ひょんなことからフランスの名門バレエ団の芸術監督の眼に留まり、群舞ダンサーとして雇われたが、うだつの上がらない自分に絶望する毎日だ。 ある日、バレエ団のゲストダンサーで、ロシアから来仏した天才アースランのリハーサルを盗み見するうちにその完璧さに感動し、激情にかられて彼の化粧室に忍び込み、発作のようなセックスをしてしまう。そして去り際に、自分のアメリカの住所を書き残していく。 帰国後、天才的振付家のミスターK率いるニューヨークの名門バレエ団に採用されるが、やはりここでも群舞 止まり。そんなジョアンのもとに、アースランから封書が届き始め、文通を続けるうちに彼の亡命の手助けをする羽目に陥る。冷戦時代のことで、亡命は非常に危険な行為だ(このあたりは、ヌレエフやバリシニコフなど、優秀な旧ソ連のダンサーたちの亡命事件とダブって興味深い)。 幸い、カナダ経由で亡命は成功。アースランはジョアンの運転する車に潜んでニューヨーク入りし、ジョアンと同じバレエ団から華々しくアメリカデビューを果たす。二人は同棲を始め、ジョアンは亡命を助けた恋人として“時の人”になり、ミスターKは大喜びだ(ちなみにミスターKは、ミスターBと呼ばれたあのジョージ・バランシンをイメージさせる)。 しかし二人の仲は続かなかった。天才アースランは自分と踊れない無能なジョアンに愛想をつかし、ただでさえ女好きの彼は浮気三昧の体たらく。ジョアンは捨てられ、失意のまま自暴自棄になり、昔から彼女を心から愛し、理解してくれている幼馴染のジェイコブと肉体関係を持つようになる。結果、妊娠。彼女は潔くバレエ団を辞めて結婚生活に入る。心理学者のジェイコブの仕事で一家はカリフォルニアに転居し、ジョアンはバレエスクールを主宰し、息子ハリーにも教え始める。 そのハリーは母親がアースランの元彼女であることを幼少のころから誇りに思い、この天才に憧れを抱いている。成長とともにバレエの才能を発揮し始め、16歳になるとジョアンの古巣のバレエ団で特別レッスンを受けるようにもなる。当然、大御所アースランの目にも留まり、それが要因となってジョアンの幸福な結婚生活が崩壊の危機に晒されていく。誰の目にもハリーがアースランに似すぎているのだ、容貌も才能も……。そして徐々に明かされて行くジョアンの秘密。 だが、ジョアンはこの“修羅場”を真の愛の力で乗り越えていく。想定外の衝撃のハプニングでストーリーが展開していく本書の読みどころはまさにこの点にある。ドラッグ、セックス、嫉妬が渦巻くバレエ界を突き抜けた先で、主人公はふつうの人間であることの幸せ、人を愛することの意味を見いだし、大人の女性に成長していく。彼女の生き方に沿って読み進むほどに、読者も心豊かに、目が開かれていく──これは、変ることを恐れない人間の、激情と愛情と勇気のドラマチックな物語。
天才作家・雨坂続が再び眠りについて2年。佐々波は徒然珈琲を手放し、フリー編集者として活動していた。そんな中、雨坂の最高傑作『トロンプルイユの指先』の映画化の話が持ち上がるが……。
幼いころに母を亡くして以来、心を閉ざしがちな真。彼をずっと見守ってきた、幼なじみの琴莉。高校三年生の今、ようやく一歩を踏み出そうとした二人の前に突然、もうひとつの東京からもう一人の「僕」が現れるーー。アニメーション界の若き才能が自ら執筆した、初オリジナル劇場長編アニメーションの原作小説。