2021年10月14日発売
「私にとっては、霧島家の貧寒で乱雑な空気だけが身を置くべき場所となっていた。泥水の中でなければ落ちついて棲むことのできないある種の魚たちのように…」大学生の“私”は、学校にも学友ともなじめず、下宿していた叔父一家ともしっくりいかずに、貸間と貼り紙のあった霧島家の6畳間を借りることになった。ところがその主人・嘉門は自分勝手な暴れ者で、幼いふたりの子を抱えたクリスチャンの妻・まつ子を泣かせてばかり。しかし“私”はなぜか嘉門を嫌いになれずー。原節子出演で映画化もされたベストセラー作品。旧制高校の同窓会を通じて、戦後の現実をシニカルに描いた「アルト・ハイデルベルヒ」を併録。
「遠い地平」は、老境を迎えた著者が、ふとした拍子に思い出す若き日の一シーンを、臨場感たっぷりに描いた自伝的連作小説。樺太で経験した“強制労働”、思想容疑者として満州に逃避行した話、満州での会社員生活、出征中に妻子が戦災で亡くなったことなど、いずれも味わい深い9篇の短編で構成されている。また、満州で働いた経験から書かれた「劉廣福」は、出征先の中国で芥川賞受賞の知らせを受けた秀作で、周囲から馬鹿にされていた一人の満州人が奇跡を起こす痛快な物語。
その舞いが、奇跡を起こす!豪華スタッフとのコラボから生まれた感動の青春ファンタジー!二〇二一年九月『ポッピンQ-時守たちのラストダンス』として発表された作品を改題。
次々と報道される殺人事件の被害者は、同じ名前の人物ばかり。恐怖におびえる全国の「山本和義」は、SNSを通じて繋がっていく。犯人の真の目的とはー(「本当の自分」殺人事件)。表題作ほか、6編の短編ミステリー小説集。
過去、生徒間の事件を解決したことからメディアに取り上げられ、「鉄腕先生」と呼ばれ、コメンテーターとしても活躍する教師・湯川。彼はある日、自分が女性徒とホテルで密会したという週刊誌報道が流れていることを知る。さらに、「ディープフェイク(AIによる画像合成技術)」で精巧につくられた、湯川が生徒に暴力を振るっている動画もネット上に拡散。出勤停止、テレビ番組の降板、さらに妻子が家を出ていく中、ネット上では湯川に対する大炎上が巻き起こる。果たして、湯川を陥れようとしているのは誰なのか。そんななか、湯川の働く学校ではさらなる事件が起きー。
政府高官ふくめた12名を殺害した容疑で死刑宣告を受けた、死刑囚の「男」。死を約束されたにもかかわらず、不気味なほど穏やかに日々を過ごす「男」に、好奇心を押し殺しながら接する担当刑務官のユン。殺害動機も自身の出自さえも明かさない「男」のもとへ、姉を名乗る女が面会に訪れる。沈黙していた「男」の感情は、それを機に少しずつ、静かに動き始める。
不気味な噂を今に残す屋敷ツイン・ホロウズ。楽しい筈の夏期休暇を恐怖に塗り換える怪異は赤いランプに封じられた悪霊の仕業か?サスペンスとホラー、そして謎解きの面白さを融合させたラインハートの傑作長編!