2021年2月22日発売
中屋紗衣は、都内近郊に暮らすパート勤めの主婦。ある日、紗衣が夫に内緒で購入した美顔器が、別の住所宛の荷物と入れ替わって届いてしまう。その誤配達を企んだのは、夫の愛人・夏希。夏希はSNS上で誤配達に困っている紗衣を発見し、身元を隠して交流を深めていく。SNS上で距離を縮めていく二人、変わりゆく夫婦関係…。予測不可能、衝撃展開のサスペンス。
メキシコ、オアハカ。天涯孤独、90歳のマルおばあちゃんは、手作りのお菓子アルファホールを売ってつましく暮らしていた。ある日、遥か昔に別れた一人息子がすでにこの世にいないこと、そして自分に孫息子がいることを知る。マルは自分の人生の環を閉じるべく、青いおんぼろ自転車で孫をさがす旅に出るー
爬虫類を愛する学者の父と本屋を営む母の軋轢のなかで育った、数字がすべての若者が世界の真実に触れていく表題作のほか、車を吹きとばすハリケーンのなか、絶品のワインを供に過去の思い出深い男たちと邂逅する「ハリケーンの目」、深夜のウォーキングで目にする水族館の水槽のような近隣の窓景を描く「亡霊たちと抜け殻たち」、奨学金の受給停止をきっかけに、路上生活者となった女子大学院生の彷徨譚「天国と地獄」など、蛇やワニの危険に満ち、差別や格差が色濃く残り、亡霊たちがさまよう土地で語られる傑作短篇集。
夏の盛り、首都圏で不可解な遺体が次々と発見された。その遺体の共通点は、若者・歯がない・死因は心臓発作、というものだった。警視庁は捜査を進めるうち、被害者の部屋のくず入れに高頻度で、あるコンビニが販売しているデザートの包みが捨ててあることを突き止めたが…果たして、この事件は病気なのか、事故なのか。それとも殺人なのかー。
自称詩人のイサオは、放浪途中に訪れたポーランドの森の中である悩みを抱えた若い女性・エミリアと出会う。己とは何か、自分は何をするために今を生きているのか、これから何をすべきなのか…。宗教から社会・政治、心理学に至るまで、真正面から哲学的に語り合う二人の物語。新感覚の社会派“対談”小説。
とある国の政府転覆を命じられた機密工作員。潜入捜査の最中に、彼の過去にまつわる意外な事実が発覚する。ショックを隠し切れない彼は、このミッションを最後に工作員の引退を決意。過去を消し去り、永住地として南の島で暮らそうとしていた彼を待ち受けていたこととは…。運命に翻弄される一人のスパイの生き様と、彼を取り巻く人間愛、自然愛のすばらしさを鮮やかに描き出す。
キジル王に嫁ぐはずだった、青の王家の姫ぎみダリヤが殺されたー。村の踊り子ミランは、流浪の策士ユーシュンに拾われダリヤの身代わりとして西進の旅に出ることに。道中、持ち前の度胸とバイタリティで世直しを重ねるミラン。そんな彼女を飄々とあしらうユーシュンだが、実は密かな計略をめぐらせていて…。
奇抜な着想、軽妙なプロットで、短編を書かせては随一の名手。1963年には『未来世界から来た男』で創元SF文庫の記念すべき第一弾を飾ったフレドリック・ブラウン。その多岐にわたる活躍の中から、SF全短編を年代順に収めた全4巻の決定版全集。第4巻には「回答」「猫恐怖症」など著者の筆が冴える傑作68編を収録。
見習い介護士の青年グレゴワールが、老人介護施設で元書店主のピキエ老人に出会い、まったく無縁だった本の世界に足を踏み入れることに。ピキエ氏から朗読を頼まれ、彼の道案内にしたがって、さまざまな本に出会い、読書の魅力を知り、人々と出会い成長していく。本と友情、本と愛情、本と人生を描いた傑作。
時は慶応元年。薩長同盟成立に向けて奔走する坂本龍馬は、京でようやく西郷吉之介を説き伏せた。しかしこの重要な時期に、ともに上洛した長州藩士・小此木鶴羽が斬り伏せられ、下手人は逃げ場のない場所から煙のように消え失せるという奇怪な事件が発生する。尾張藩公用人の鹿野師光は、事件の目撃者だという龍馬に呼び出され、下手人の捜索を依頼される。師光が追うべきは、藩を超えて小此木と友誼を結んでいたはずの薩摩藩士だったーーデビュー作にして第19回本格ミステリ大賞を受賞した『刀と傘』前日譚にして、著者初となる長編ミステリ。
謎を愛し論理を貴ぶ読者の方々は、ここまでの文章を読んで事件の真相に辿り着いたでしょうか。解決に導くための手掛かりは、紙上の名探偵たち同様、皆様にも既に手渡されています。冷静な観察と論理的思考を駆使すれば犯人を、そして小説の向こう側にいる作者も出し抜くことができるかもしれません。推理する愉悦に、どうぞ存分に浸ってください。六人の推理作家から投げられる手袋はひとつーー犯人は誰か? 豪華作家陣が贈る犯人当てアンソロジー。
第12回日経小説大賞(選考委員:辻原登氏・高樹のぶ子氏・伊集院静氏)受賞! 鎌倉末期から南北朝時代へ移る混沌とした世の人間ドラマを、最新の研究成果を取り込みながら描き、まったく新しい足利尊氏、楠木正成、そして後醍醐天皇を造形。選考会では確かな歴史考察と文章の安定感、潔い作柄のまっすぐさが評価された期待の歴史小説の新鋭の登場だ。 「利生」とは衆生に神仏の利益をもたらすこと。上下の別なく、民が国を想う志を持ち寄って各々の本分を為せば、きっと日本は悟りの国になれるーー幾度も苦難にあいながら、北条得宗の悪政から世を立て直すため鎌倉幕府を倒した後醍醐天皇。帝と志を同じくした楠木正成と、鎌倉幕府の重鎮でありながらその志に共鳴し倒幕へと寝返った足利尊氏。三人は同じ禅宗の同門だった。そして彼らが共有した志とは、仏や菩薩が人々に利益を与えることを意味する「利生」という言葉が表す世を実現すること。理想の世をかかげた建武の新政が始まったが、公家もそして武家も私利私欲がうごめく政治の腐敗は止めようがなく、尊氏と正成の運命は引き裂かれていく。 序 法燈 壱 挙兵 弐 新政 参 決裂 四 湊川 終 利生