2023年6月27日発売
深夜一時、ジョン・サンダース医師は研究室を閉めた。今週中に、ある毒殺事件のための報告書を提出しなければならず、遅くまで顕微鏡を覗いていたのだ。頭をすっきりさせて帰ろうと、小雨の降りはじめた道を歩いていたサンダースは、十八世紀風の赤煉瓦造りの家のすぐ外に立つ街灯のそばに一人の若い女性がたたずみ、自分のことを見ているのに気づいた。ガス灯に照らされ、ただならぬ雰囲気を漂わせた女性は、サンダースを呼び止め、この建物の窓に明かりが灯った部屋に一緒に行ってほしいと懇願する。この女性に請われるまま、建物に入り、部屋に足を踏み入れたサンダースが目にしたのは、細長い食卓の周りを物いわぬまま囲み、蝋人形か剥製のように座った四人の人間であった。いずれも麻酔性毒物を飲んでいる症状が見られ、そのうちの三人にはまだ息はあったが、この部屋の住人であるフェリックス・ヘイは細身の刃で背中から刺されてすでに事切れていた。そして奇妙なことに、息のある三人のポケットやハンドバッグには、四つの時計、目覚まし時計のベルの仕掛け、凸レンズ、生石灰と燐の瓶などの品々が入っていた。事件の捜査を開始したロンドン警視庁のハンフリー・マスターズ首席警部は、奇妙な事件の解明のため、ヘンリー・メリヴェール卿を呼び寄せる。
神秘主義的なキリスト教と土俗的な民間信仰、背徳的な罪咎の宴ー高貴な輝きと隠遁の雰囲気を湛えた昏い廃園は、夢うつつに微睡みながら、訪れる客人を待ちわびる。スペインを代表する作家バリェ=インクランのエッセンスを凝縮した、芳醇なる1冊。爛熟の世紀末文学。
戦後の合作隆盛期、娯楽小説の大家・山田風太郎参加作品集 合作探偵小説8作品+座談会2本を収録 荊木歓喜、神津恭介、明智小五郎ーー名探偵続々登場! 「白薔薇殺人事件」 香山滋/島田一男/山田風太郎/楠田匡介/岩田賛/高木彬光 「怪盗七面相」 島田一男/香住春吾/三橋一夫/高木彬光/武田武彦/島久平/山田風太郎 「十三の階段」 山田風太郎/島田一男/岡田鯱彦/高木彬光 「生きている影」 角田喜久雄/山田風太郎/大河内常平 「悪霊物語」 江戸川乱歩/角田喜久雄/山田風太郎 「寝台物語」 山田風太郎/摂津茂和/柴田錬三郎 「夜の皇太子」 山田風太郎/武田武彦/香住春吾/山村正夫/香山滋/大河内常平/高木彬光 「ノイローゼ」 山田風太郎/島田一男 【資料篇】 「座談会・探偵作家探偵小説を截る」 山田風太郎/水谷準/香山滋/大坪砂男/島田一男 「座談会・犯罪を語る」 山田風太郎/高木彬光/江戸川乱歩 編者解説ー日下三蔵 執筆者プロフィール
天使像が持つ木製のトランペットを吹き鳴らしたら、いったい何が起こるのか。深夜の教会に忍び込んだ二人の少年の冒険を描く「トランペット」。ある暑い日、ロンドンの喫茶店で出会った男が語り続ける同居女性の失踪話に薄気味悪さがにじむ「失踪」。三百五十年の歳月を生きてきた老女の誕生日にお屋敷に招かれた少女の話「アリスの代母さま」ほか全7篇、繊細な描写に仄かな毒と戦慄がひそむデ・ラ・メア傑作選。
人はなぜ、相争うのか。争いの果てに救いはあるのか。キリシタン大名・小西行長の孫で、対馬藩主・宗義智の子として生まれた彦七(のちの小西マンショ)の運命は、関ヶ原の戦さによって大きく変わった。離縁された母・マリヤとともに長崎へ移り、キリシタンへの迫害から逃れてきた小西家の遺臣らの世話になりながら成長していく彦七だったが、彼には小西家再興の重圧がのしかかっていく。キリスト教が禁じられ、信徒たちの不安が高まるなか、彦七はある重大な決断を下すのだが…。“受難の時代”を生きる者たちの魂の叫びが刻まれた、著者渾身の長編小説。