小説むすび | 2025年7月10日発売

2025年7月10日発売

コマネチのためにコマネチのために

ファンサンボル青年文学賞受賞 『82年生まれ、キム・ジヨン』(日韓累計165万部突破)著者デビュー2作目 伝説の妖精に魂を奪われた少女の夢は、体操の選手になることだった。 思わずエールを送りたくなる、チョ・ナムジュの鮮烈な初期作品。 === コ・マニ一家の住む、ソウルの貧民街の一つであるS洞の再開発が始まる。今は一人でトッポッキとてんぷらを売っている父。近頃の最大の関心事は、再開発の流れに乗ってマンションに入居すること。そして二人の間の一人娘で未婚の36歳、コ・マニは10年間働いた職場をクビになったばかり。幼い頃、マニは、テレビでソウルオリンピックの体操選手の姿を見て魅了される。母は父の反対を押し切ってマニを体操部がある私立小学校に転校させる。しかし、幼い時から体操を続けてきた他の子どもたちとの実力の差を知って呆然とする。ある日、大きな事件を経験したマニは体操を諦める。そして現在のマニは…… === 「彼女はコマネチと言うの。ナディア・コマネチ。体操界における伝説の妖精よ」  院長先生が言った。コマネチに出会えたのは運命のように思えた。院長先生は私の運命論に油を注ぐような一言を付け加えた。 「マニが特別な子に思えたのは、初めて会った時からなの。コ・マ・ニという名前を聞いた時、コマネチを思い出したからよ」(70ページより) (……)十四歳のコマネチはモントリオールオリンピックのヒロインとなった。  院長先生からコマネチの話を聞きながら、私は体が熱くなるのを感じた。顔が火照り、頭がぼうっとし、口からも、目からも、煙が出そうだった。神の祟りにあったり、あるいは恋の病にかかったりしたら、きっとこんな感じになるだろう。私はその瞬間、大げさではなくて本当に、体操に魂を奪われてしまった。どういう精神状態で、家に帰れたのかも思い出せない。布団に入ってからもひたすらコマネチのことを考えていた。(71ページより) === これもまた、過ぎゆく 残酷な冬 私は新体操がしたいと言った 危うげながらも幸せな時間 高い所へのぼる人たち お尻に押した赤いスタンプ 暗号のようにぽつぽつと ネギを見てやさしく笑う人たち 月夜のステージ あとがき 著者からのメッセージ 訳者あとがき

トーヴェ・ヤンソントーヴェ・ヤンソン

出版社

筑摩書房

発売日

2025年7月10日 発売

ジャンル

ヤンソン研究の第一人者が 8年の歳月をかけて書き上げた 遺作にして、決定版評伝。 ムーミン谷はなぜ生まれたのか。いったいかれらは誰なのか。 その謎はトーヴェ・ヤンソンの生涯をたどると見えてくる。 === 「どこまでが事実で、どこからが虚構なのか。 これを問うてもあまり意味はない、と示唆していると考えることもできよう。創作は創作として評価すべきであって、モデル探しに意味があるとは思えないとも。だから、これまでわたしは、虚と実とを必要以上に同一視する読みを避けてきた。しかし、近年あらためてヤンソン作品を読みなおすうちに、作品のいたるところに、作者のアルター・エゴが見え隠れする気がしてきた。したがってヤンソンの生涯を語ることは、ひるがえって作品を語ることであり、逆もまた真であろう。と同時に、物語の内的ロジックを分析するさいに、作者の生とからめる解釈のさじ加減に細心の注意を払いたいと思う。虚と実の交わる境界領域にこそ、作者トーヴェ・ヤンソンのひととなりが現われでるかもしれない。 もとより、どんな作家でも大なり小なりそうなのだが、トーヴェ・ヤンソンという作家はとりわけ自己イメージの表象にこだわった創作者ではないのか。そして、それらは子ども時代の家族の表象、というより、きわめて明確な意図をもって再構築され、しかもいかにも無造作で自然な印象を与えるまでに入念に呈示された表象と切っても切り離せないと思う。 なんといっても、ヤンソンが生きた子ども時代の追想なくして、ムーミン谷やその住人たちに生命が吹きこまれることはなかった。よって、まずは虚構のムーミンの家族と実在するヤンソンの家族をかさねることから、 ヤンソンの生涯を語ってみたい。」 (「まえがきにかえて」より抜粋) ===

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