著者 : 梁石日
勤続三十七年、課長止まりだったY氏が定年退職の日を迎えた。だが彼を待っていたのは、社会からも家族からも必要とされていないという疎外感。暴力バーで七十五万円も請求され、娘は家を出たいと言い、息子は違法なアダルトビデオで儲けている。さらに、偶然出会った老人の屋敷で白骨体を見つけてしまい…。孤独な男の手に汗握るサスペンス。
完成するのか、しないのか。一寸先は闇。映画制作に魅せられ、取り憑かれた人間たちの悪戦苦闘は果てしなく続く。-情熱は道を切り拓くことができるか?極限の人生を送った作家だからこそ持ちうる、深み、洒脱さ。『血と骨』の梁石日が描く、驚天動地の人間ドラマ。
16歳で家出した輝雅は、船員になり、米軍のLST(上陸用舟艇)で軍事物資を積んで東南アジア各地を航海し、ヴェトナム戦争前夜、激戦のハイフォン港へフランス軍の救助に向かう。船を降りて様々な職業を転々とする輝雅の胸には、いつしか「画家になりたい。ニューヨークへ行きたい」という願いがきざしていた…。『血と骨』を凌ぐスケールとダイナミズムで描く、戦後日本の不屈の青春。
1980年、本国で光州事件が勃発した頃、新宿のバーには在日朝鮮・韓国人の若者たちが夜ごと集い、酒を飲み、熱く語り合っていた。その中に、45歳のタクシードライバーと23歳の女性との、とびきり激しく、切ない恋があった…。超話題作『血と骨』の著者が描く感動の自伝的大河恋愛小説。
自分とはなんなのか?これからどう生きればよいのか?80年代を生きる在日朝鮮・韓国人の若者たちは苦悩と情熱を抱えながら生きていた。そして、タクシードライバー文忠明と若き朴淳花の愛も、新たな時代の流れに翻弄されてゆく…。感動の自伝的大河恋愛小説、堂々の完結。
貧困に喘ぐタイの山岳地帯で育ったセンラーは、もはや生きているだけの屍と化していた。実父にわずか八歳で売春宿へ売り渡され、世界中の富裕層の性的玩具となり、涙すら涸れ果てていた…。アジアの最底辺で今、何が起こっているのか。幼児売春。臓器売買。モラルや憐憫を破壊する冷徹な資本主義の現実と人間の飽くなき欲望の恐怖を描く衝撃作。
一九三〇年頃、大阪の蒲鉾工場で働く金俊平は、その巨漢と凶暴さで極道からも恐れられていた。女郎の八重を身請けした金俊平は彼女に逃げられ、自棄になり、職場もかわる。さらに飲み屋を営む子連れの英姫を凌辱し、強引に結婚し…。実在の父親をモデルにしたひとりの業深き男の激烈な死闘と数奇な運命を描く衝激のベストセラー。山本周五郎賞受賞作。
敗戦後の混乱の中、食俊平は自らの蒲鉾工場を立ち上げ、大成功した。妾も作るが、半年間の闘病生活を強いられ、工場を閉鎖し、高利貸しに転身する。金俊平は容赦ない取り立てでさらに大金を得るが、それは絶頂にして、奈落への疾走の始まりだった…。身体性と神話性の復活を告げ、全選考委員の圧倒的な支持を得た山本周五郎賞受賞作。
李哲博と朴政道は民族学校からの親友。李はボクシング、朴はサッカーで名の知られた選手だったが、二十代半ばを迎え、挫折感を抱いたまま、ともに歌舞伎町のホテトルを経営していた。一攫千金を狙いポーカー賭博屋を開いた二人は、次々と事業を拡大。自分たちの夢を実現すべく、いわくつきのビル買収という大博打に乗り出すー。欲望の街・新宿を舞台にした、手に汗握る暗黒小説。
事業に失敗し、窮地に追い込まれた朴秀生は義兄の姜真厳の誘いを受け、妻子を残して一人、住み慣れた大阪を離れて仙台へと向かった。義兄の経営する喫茶店の仕事を手伝うためだ。今度こそ真面目に働くつもりだった。しかし、それも長くは続かなかった。酒と女、そして金。朴は再び危険な綱渡りを始める。事業に失敗し、義兄にも見放された彼は、安住の地を求めて街を彷徨い歩く…。
在日朝鮮人・高泰人は、経営する印刷会社と自宅を新築したが、内情は火の車。友人、親戚、高利貸しと、雪だるまの借金手当に追われる日日。だが、派手な生活からも抜け出せない。世は不況。とはいえ会社を潰せば、金策してくれた恩人たちも、全員破滅だ。八方手を尽くしてやっと手にした二千万円だったが、これが破滅への序曲だったとは。分断の故国と日本の狭間で苦闘する、在日の若き群像を描く問題長篇。
民族学校からの親友、李哲博と朴政道は、ともに歌舞伎町のホテトル経営者。一攫千金を狙ったポーカーゲーム屋が大当たりし、やがて韓国クラブ、焼き肉屋、ノミ屋、ビル乗っ取りと法の網をかすめて事業を拡大していったが、好事魔多し、裏切りと暴力団の介入で、全財産を失ってしまった。傷つき倒れながらも、若者は今夜も、欲望の街・新宿の夜の河を渡っていく…。傑作長篇。
廃墟と化したアジア最大の兵器工場・大阪造兵廠跡の闇の中で残骸を掘り出す鉄泥棒アパッチ族と警官隊の果てしない攻防がつづく。そしてアパッチ族は北朝鮮へ、大村収容所へ…。戦後五十年を総括する書き下ろし長編。
ホテトル、ポーカーゲーム、ノミ屋、韓国クラブ、そしてビル乗っ取り-。新宿の街の奥には、欲望にかかわるものは、何でもある。その只中を、才覚と腕力を武器にして「事業」のためにすさまじい闘いをつづける「在日」の若者2人。いったいどうしてこんな世界に入ったものか。そんな思いも優しい心もひとまず措いて、今夜も渡る夜の河。