1997年発売
この物語、ほんとうは、子どもたちに聞かせるような話ではないのです…「ハンメルンの笛吹き」「ピノッキオ」「にんじん」-笑いとざわめきと官能にみちた物語の国を、夢み、旅する、長野まゆみの残酷童話集。
あらゆるコウインシデンス(偶然の一致)を書き留めた、略称「デンス手帳」を小脇に抱え、『ジェイムズ・ジョイス伝』と『ねこまた、よや』という二冊の本を読み進めながら、言語遊戯の“言海灘”を横断しつつ、「野」にわたる風のように人間の哀しみに触れる“私”の傑作長篇。
モーツァルトの子守唄が世に出た時、“魔笛”作家が幽閉され、楽譜屋は奇怪な死を遂げる-。その陰に策動するウィーン宮廷、フリーメーソンの脅しにもめげず、ベートーヴェン、チェルニー師弟は子守唄に秘められたメッセージを解読。一七九一年の楽聖の死にまつわる陰謀は明らかとなるか。85年度江戸川乱歩賞受賞作。
1935年11月。フェルナンド・ペソアは聖ルイス・ドス・フランセゼス病院で死の床に就いていた。苦悶の三日間、ポルトガルの偉大な詩人は、訪れたかれの異名たちと話を交わし、最後の遺志をつたえ、生涯の伴侶であった亡霊たちと対話を交わす。それはまるで妄想のなかの出来事。小説とも(架空のものだとはいえ)伝記ともみえる短篇の中で、アントニオ・タブッキは20世紀最大の作家のひとりの死を、やさしく情熱的に描いている。
圧倒的な物量。質的な凌駕。太平洋戦争中期以降の日本軍戦車隊は、米軍の機甲戦力の前に完膚なきまでに叩きのめされた。しかし、その悲劇を回避する方法がなかったわけではない。欧州やアフリカで戦車殺しの誉れも高いドイツの88ミリ高射砲を、太平洋戦争以前に日本軍も入手していたのだ。後はそれを自走砲化するだけで、太平洋の島嶼戦は一変するのである。
資産家老女の架空名義の銀行預金一億円を横領した男女銀行員。女子行員を巧みにあやつる男子行員、妻子ある彼との新しい生活設計を夢みる女子行員ー二人の愛の微妙な心理の揺れがやがて悲しい結末になっていく。男を信じようとして信じきれない女の運命を描く表題作など、卓絶したミステリー5篇。
おでん屋を経営する砂子には、結婚してもいいと思っている男がいる。ある日、店に見知らぬ女がやってきてー婚期を逸した女のはかない夢を描いた表題作の他、結婚をめぐっての親と子の心の行き違いをテーマにした「母の贈物」と、子のない老夫婦の哀歓を優しく見つめた「毛糸の指輪」の計三篇を収録。向田ドラマの小説化第4弾。
『わたしはFをどのように愛しているのか?』との脅えを透明な日常風景の中に乾いた感覚的な文体で描いて、太宰治賞次席となった十九歳時の初の小説「愛の生活」。幻想的な窮極の愛というべき「森のメリュジーヌ」。書くことの自意識を書く「プラトン的恋愛」(泉鏡花文学賞)。今日の人間存在の不安と表現することの困難を逆転させて細やかで多彩な空間を織り成す金井美恵子の秀作十篇。
文学に憧れて家業の魚屋を放り出して上京するが、生活できずに故郷の小田原へと逃げ帰る。生家の海岸に近い物置小屋に住みこんで私娼窟へと通う、気ままながらの男女のしがらみを一種の哀感をもって描写、徳田秋声、宇野浩二に近づきを得、日本文学の一系譜を継承する。老年になって若い女と結婚した「ふっつ・とみうら」、「徳田秋声の周囲」なども収録。
バージルシティの刑事スタンレーは美貌の警視ロスフィールドと肉体関係にある。ロスフィールドにはジン・ミサオという愛人がいた。精神科医のジンは、死者の記憶を読むという特殊な能力に悩むロスフィールドを護る存在でもあるのだ。美しき男たちの危険な三角関係に進展はあるのか-?そして、市内で発生した連続猟奇殺人事件の犯人は何者なのか-。
昭和四十三年十月十一日、東京プリンスホテルでガードマン射殺ー。次いで京都、函館、名古屋と、日本列島を震撼させた連続射殺魔・永山則夫。獄中で執筆した『無知の涙』、獄中結婚、そして死刑確定。これらを通して、永山則夫の“人間”と事件の全貌を鮮烈に描いた、ノンフィクション・ノベルの話題作。
出張途上、スーパーひたち3号の車中から忽然と姿を消した部長。失踪か、それとも何者かに拉致されたのか?しかもライバル企業の担当者まで消息を絶った。社内で起きた事件を担当する総務の「社立探偵」海老寺が難事件に挑む。ハイテク特急でしかありえないトリック、真犯人の予想外の動機…戦慄のミステリー。
幽閉されていたモリタトールの智者シェコヌが救出された。かれの言によれば、タケル艦隊5000隻が封鎖するレイケオ星系の一惑星がタケル人の侵攻計画の要であるらしい。だが厳重に封鎖されたその惑星への侵入は、スペース=ジェットをもってしても不可能だ…かくして、ハール・デフィン率いるサンダーボルト・チームに白羽の矢が立った。だが首尾よく侵入を果たしたかれらが耳にしたのはなんと、ガンヨ再臨の噂だった。
五歳の息子サミーを一人で育てるワーキング・ウーマンのメラニー。野外授業の当日、サミーはジャックのせいで船に乗り遅れてしまう。メラニーは今日がビッグ・プロジェクトのプレゼンで、人気コラムニストのジャックは五時までに市長収賄記事の証拠を用意しなくてはならない。たがいに反感を持ちながらも、ふたりは大事な一日を乗り切るため協力することに…。都会の大人のロマンティック・コメディ。