制作・出演 : ゲルハルト・オピッツ
4台の協奏曲に登場するシュミットは、この数年前まで西ドイツの首相だった人で、彼我の首相の違いと合わせて大きな話題となったアルバムである。他の3曲もエッシェンバッハを中心に見事にまとまっている。
ドイツの正統派としての評価は高まる一方だが、この真摯でストレートな演奏は彼自身の持ち味。音色には透明感もあり、切れのいいタッチには現代的な感性も感じさせる。伝統を受け継ぎながらも、彼自身の音楽を作り上げ、それを熟成させてきたのがオピッツだ。ヤノフスキ&名門オーケストラががっちりと組んで作った枠のなかで、オピッツは意外にもさまざまな束縛から開放されて自由な音楽を作り上げている。オマケなのだろうが、ベートーヴェン自身によるヴァイオリン協奏曲の編曲版は、オリジナルのピアノ協奏曲みたいで聴きもの。
ドイツ・ピアニズムの正統的な後継者と言われて久しいオピッツの、満を持してのブラームス。朴訥とさえ言えるほどストレートなアプローチ。作品の構成をがっちりと作り上げることで、ブラームスの作品そのものにロマンティシズムを語らせていく。渾身の演奏が染みる。
オピッツは必要以上に渋さを強調しないところが良く、特になだらかに弾く場面など、なかなか。反面、ここぞという時の切れや、明晰さは今ひとつ。デイヴィスの伴奏も、やや肩に力が入った感じだが、スケール感やわき上がるような情熱はそれなりに表現されている。
かつてルービンシュタイン・コンクールで優勝し国際的なピアニストへの第一歩を踏み出したオピッツ。このCDはそんなオピッツがルービンシュタインの得意とした小品を集め丹誠込めて演奏した彼へのオマージュだ。どれも緊張感漲る優れた演奏。奥深く美しい。
ドイツのピアニスト、オピッツは目下、NHK教育TVのシリーズ「ベートーヴェンを弾く」に出演中。今回のベートーヴェン・アルバムでは、正統派らしい堅固なアプローチが注目されるが、ゆるぎない運びのなかにも、場面に応じて、表現が実に豊かだ。