著者 : アーダルベルト・シュティフター
ブリギッタは、醜く生まれ、心が頑なになってしまったが…。愛のすれ違いと交わりを描いて胸打つ「ブリギッタ」。少年少女にそそがれる大人の愛情と、それによって育まれる心を描く「荒野の村」「森の泉」。シュティフター(一八〇五ー一八六八)の愛をめぐる物語三篇。
シュティフター作品を貫く主題、「森」。コレクション第4巻は、生命の力がみなぎる森の姿と人々の暮らしとの関わりが描かれた作品、いわば「森の鼓動」が聞き取れる作品を集めた。森の中で「奇蹟」に遭遇する一人の男の心的過程を描いた表題作『書き込みのある樅の木』のほか、『高い森』、『最後の一ペニヒ』、『クリスマス』を収録。
あまりにも純粋な、あまりにも頑な心がうみだした悲劇。「森ゆく人」と呼ばれる老人ゲオルク。彼には、取り返しのつかない過ちを犯した過去があった…あたかも償いの道を歩むかのように、ボヘミアの静かな森をさまよい続けるゲオルク。その傷ついた心を、森は優しく受けとめ、慰めてくれる…。
比類ない自然描写の美しさで知られる19世紀オーストリアの作家シュティフター、その代表的短篇集『石さまざま』全訳版(上下2巻)をここに。上巻では、作家自身の芸術的信仰告白ともいうべき「序文」、幼いころの鉱石蒐集の想い出が反映している「はじめに」、ボヘミアの森の風物を背景に、故郷での想い出を紡いだ「花崗岩」、不毛の地に暮らす貧しい司祭の、隠れた美しさを描く「石灰石」、姦通とそれへの呪詛という人間のまがまがしい情念に巻きこまれた子どもが、愛ある女性によって救われる「電気石」を収録。
遠く緑の葉陰に教会の塔が見える。めざすロールベルクの村までは、あともう少しーだが、先ほどから急速に黒い雲が拡がり始め、今にも雷雨の来そうな空模様になった。旅の青年は、街道を離れ、雨宿りを求めて、丘の上の屋敷へ続く道を登り始める。青年の運命は、この時から、大きく変わって行くのも知らずに…。オーストリア・アルプス山麓に美しく建つ「薔薇の家」を舞台に、物語は、ゆっくりと、急ぐことなく、静かに進んで行く。やがて押し寄せてくる激しく深い感動…。トーマス・マンが「世界文学のなかでも最も奥深く、最も内密な大胆さを持ち、最も不思議な感動をあたえるー」と評した作家の最高傑作。
雄大な叙事詩的物語は最後の大団円を迎える。エルサレム奪還を目指す十字軍の遠征から、自由都市ミラノと神聖ローマ帝国との戦いへと、舞台はボヘミアとモラヴィアから世界史へと大きく拡大してゆく。ヴィティコーは数々の武勲により森の領主となって、美少女ベルタを娶り、とうとう自らの城を築く。しかし作者の筆は、永遠の時を振り返るかのごとくに、静謐に、淡々と進む。あたかも、森に咲く薔薇をキャンバスに描く画家の絵筆のように…。ドイツ語以外の言語によってはこれまで刊行されたことのないこの大長篇小説の、訳者畢生の邦訳も、本巻をもって完結する。