著者 : フローベール
マトー率いる傭兵の反乱はカルタゴを苦しめる。長引く戦闘、略奪、飢餓。女神の聖衣を奪われ国を窮地に陥らせたサラムボーへの糾弾の声は高まり、ついに獰猛なモロック神への子供たちの供犠が始まる。激情と官能と宿命が導く、古代オリエントの緋色の世界。
前3世紀のカルタゴの傭兵反乱に想を得た、フローベールの一大歴史絵巻。大国カルタゴの統領の娘にして女神に仕える神官サラムボー。傭兵たちの信望厚い隊長マトーは、彼女への許されぬ情念を胸に、反乱軍の指導者となる。「触れてはならぬ! 女神のヴェールです!」──東方の沙漠に花開く、荒々しく残忍な古代の夢。(全二冊) 第一章 饗宴 第二章 シッカで 第三章 サラムボー 第四章 カルタゴの城壁の下で 第五章 タニット 第六章 ハンノー 第七章 ハミルカル・バルカ 第八章 マカール河畔の戦い 地 図 〔下巻目次〕 第九章 野戦 第十章 蛇 第十一章 テントの下で 第十二章 水道橋 第十三章 モロック 第十四章 斧の峡道 第十五章 マトー あとがき
無学な召使いの人生を、寄り添うように描いた「素朴なひと」、城主の息子で、血に飢えた狩りの名手ジュリアンの数奇な運命を綴った「聖ジュリアン伝」、サロメの伝説を下敷きに、ユダヤの王宮で繰り広げられる騒動を描く「ヘロディアス」。透徹した文体からイメージが湧き立つような短篇集。
娘時代に恋愛小説を読み耽った美しいエンマは、田舎医者シャルルとの退屈な新婚生活に倦んでいた。やがてエンマは夫の目を盗んで、色男のロドルフや公証人書記レオンとの情事にのめりこみ莫大な借金を残して服毒自殺を遂げる。一地方のありふれた姦通事件を、芸術に昇華させたフランス近代小説の金字塔を、精妙な客観描写を駆使した原文の息づかいそのままに日本語に再現する。
故郷で悶々とした生活を送るなか、フレデリックに思わぬ遺産がころがりこんできた。パリに舞い戻ったフレデリックはアルヌー夫人に愛をうちあけ、ついに媾曳きの約束をとりつけることに成功する。そして、運命のその日、二月革命が勃発するのだった…。自伝的作品にして歴史小説の最高傑作。
法律を学ぶためパリに出た青年フレデリックは、帰郷の船上で美しい人妻アルヌー夫人に心奪われる。パリでの再会後、美術商の夫の店や社交界に出入りし、夫人の気を惹こうとするのだが…。二月革命前後のパリで夢見がちに生きる青年と、彼をとりまく4人の女性の物語。19世紀フランス恋愛小説の最高傑作、待望の新訳!
アルヌー夫人への満たされぬ思慕をますますつのらせつつも、フレデリックは官能的なロザネットとの交渉を深めてゆく。そして2月革命。歴史は大きく揺れ動き、政治の渦は彼らをも巻きこむ。フローベール(1821-80)の円熟した手腕の冴えが見事に発揮されたこの長篇は、写実主義が生んだ最も完璧な作品と称えられている。
19世紀も半ば、2月革命に沸く動乱のパリを舞台に多感な青年フレデリックの精神史を描く。小説に描かれた最も美しい女性像の一人といわれるアルヌー夫人への主人公の思慕を縦糸に、官能的な恋、打算的な恋、様々な人間像や事件が交錯してゆく。ここには、歴史の流れと人間の精神の流れが、見事に融合させられている。