著者 : ルーシー・ゴードン
ひっつめ髪に眼鏡をかけ、女看守と揶揄されながらも地道に働くキャシー。かつて彼女はトップモデルとして華々しく活躍していた十代の頃、金持ちの男たちには見向きもせず、マルセルという青年と恋におちた。だが嫉妬した金持ちが彼に瀕死の重傷を負わせたことで、悲恋に終わった。10年が過ぎた今も彼女の心はマルセルを求め、夢に見ることもある。そんなある日、経営に行きづまった雇主から次の仕事の面接を勧められ、キャシーはしぶしぶ面接の会場に指定されたホテルへ向かった。そして、バーで待つホテル王の顔を見て、彼女は卒倒しかけたー嘘よ、マルセル!私のマルセル!いえ、もう私の彼ではない…。激しく動揺するキャシーをよそに、マルセルは彼女が誰か気づかぬまま、淡々と面接を進めて告げた。「結構。君は僕のアシスタントに適任だ」
法律事務所で働くエリーはイタリア大富豪レオニツィオを担当している。“レオ”の名のとおり獅子のごとく専制君主的な彼は、すでに結婚生活が破綻して別居している妻と離婚協議中で、妊娠している妻に対して親権を要求していた。ところが妻側の弁護士から、出生前DNA鑑定の結果、レオニツィオの子ではないと知らされ、離婚は決定的となった。彼にとって、不実な妻などどうでもよかったが、この腕に抱くはずだった我が子がいなくなった事実は大きな衝撃だった。エリーはそんな彼を支えようと慰めるうち、情熱の夜を過ごしてしまう。まさか、レオニツィオの子を身ごもることになるとも思わずに!
太陽のような笑顔と艶やかな黒髪をした、楽しく魅力的なフランコ。18歳のジョアンは留学先のイタリアで出会った瞬間、恋に落ちた。フランコが妹のようにしか見てくれなくても幸せだったージョアンとよく似た年上のいとこ、ローズマリーが訪ねてくるまでは。いとこの優雅で繊細な大人の女性の魅力に惹かれたフランコは、ジョアンの目の前で、ローズマリーと結婚してしまったのだ。あれから8年。久しぶりに再会したフランコは病で妻を失い、あの頃とはまるで別人のように暗く沈んでいた。いまだ彼への愛を秘めたジョアンは、張り裂けそうな心で思った。いとこの身代わりでもいい。それで彼を癒やせるのなら…。
ペトラがどこか陰のあるギリシアの青年リサンドロスと偶然出逢い、恋におちたのは、17歳のとき。初恋だった。短い時間だったが言葉を交わし、軽く口づけて別れただけなのに、彼との思い出はその後もペトラの心に深く刻まれ続けた。15年後、女優である母の結婚式に出席したペトラは、今や造船業界で世界のトップに昇りつめたリサンドロスと再会する。噂では、多くの女性と浮き名を流し、女性を使い捨てしていると聞く。少し怖いけれど、彼は大人になった私に気づいてくれるかしら?勇気を出して近づいていったペトラに、リサンドロスが告げた。「僕の目につかないところに消えてくれ」
1年前の夜、ルースは婚約者と共に暴漢に襲われ、記憶を失った。気づいたときには婚約者は消えており、今も捜し続けている。彼がイタリアの名家バグネリ家の一員だという情報を頼りにベネチアを訪れた彼女は、嵐の夜、その大邸宅の前に辿り着いた。雨に打たれずぶ濡れになっていた彼女を迎えたのは、精悍な顔つきにどこか陰を感じる、ピエトロ・バグネリ伯爵。彼は婚約者が見つかるまで邸宅に滞在することを勧めてくれ、ルースはしばらくピエトロの手伝いをすることになった。白紙のままの彼女の記憶に、ピエトロとの日々が描かれていくー彼を愛し始めた頃、後ろめたそうな顔をした婚約者が戻ってきた。
きらめく海、白い波ー美しい砂浜に一機のヘリコプターが着陸した。降り立ったのは、ロンドンの冷徹な実業家ダリウス・ファルコン。彼は新しくこの地の所有者となり、視察に訪れたのだ。そこに暮らすハリエットは、浜辺に佇む彼を偶然見かけ、声をかけた。高級スーツをぱりっと着こなした都会的なダリウスに惹かれるが、ほどなく彼女の飼い犬のマナーを巡って口論になり、最悪の雰囲気に。はじめは魅力的だと思ったけれど、なんて傲慢な人なの!ところが後日、元妻の結婚式に同伴してほしいとダリウスに求められ、ハリエットは驚いた。しかも、恋人のふりをしてだなんて。戸惑いながらも、彼女は華麗なるロンドン社交界に身を投じたー
サラは友人が勤める会社のパーティで、冷徹なビジネスマンと悪名高い社長、ジャスティンと出会った。ゴージャスな彼と、地味で冴えないサラ。正反対の二人はたちまち熱い恋におちたが、幸せは長くは続かなかった。彼はサラが身ごもると、残酷に追い払ったのだ。傷つき故郷へ帰ったサラは赤ん坊とひっそり暮らす道を選んだ。2年後、サラの雑貨店にジャスティンが現れる。事故で2年間の記憶を失い、たまたまこの村を旅行で訪れたーそう話す彼の虚ろな瞳を見て、サラは瞬時に悟った。私のことを…覚えていないのね?
雪舞うその日、ピッパは車が故障して困っていたところを、ロスコーという、彫りの深い、精悍な容貌の実業家に助けられる。ピッパの美しさに惹かれたと臆面もなく言うロスコーは、“窮地にいる弟を誘惑してほしい”という奇妙な依頼をする。強引な彼に戸惑いながらも、ピッパは拒めない。なぜならピッパこそロスコーに惹かれ、気持ちを抑えられなかったから。だがピッパには、一方的に恋人に裏切られた過去があった。いまも心が癒えないピッパにとって、その傷のせいで、ロスコーへの愛を認めることがどうしてもできない…。
ベッドで目覚めたとき、フィリッパはすべての記憶を失っていた。ふと顔を上げると、見知らぬ女性が心配そうにこちらを見ている。女性は叔母だと名乗り、フィリッパが結婚式の直後に車で失踪し、事故を起こして怪我をしたのだと説明してくれた。混乱するフィリッパの心をさらにかき乱したのは、叔母の横に立つ謎めいたセクシーな男性。この人が私の夫?名前すら思い出せないのに、なぜ体が熱く反応するのだろう?ほどなく、記憶の戻らぬ妻と夫との奇妙な新婚生活が始まった。お互いに欲望の炎を心の内に秘めたままで。
ブリオニーのボス、社長のカーライルは仕事の鬼だ。ハンサムで魅力的なのに、いつも冷淡で厳しい態度を崩さない。だがある日、愛らしい少女がオフィスにやってきたとき、カーライルの表情がこれまで見たこともない温かいものに一変し、ブリオニーは驚くと同時に彼から目が離せなくなった。少女はカーライルの娘エマで、亡き妻の忘れ形見だった。エマがすぐにブリオニーに懐いたのを見て取ったカーライルは、娘が重病にかかっていることを告げたうえで、こう切り出した。「結婚してほしい。余命僅かなあの子の願いを叶えてやるために」
重い心臓病の娘のために、ベロニカは最後の手段に出ることに決めた。今や億万長者となったかつての想い人ジョーダンに手術費を援助してもらうのだー娘の、父親として。10年前、ジョーダンへの愛を伝えられずにいたベロニカは、高熱を出した彼を看病した夜、初めて彼と結ばれ、幸せを知った。ところが翌朝、ジョーダンが何もおぼえていないことにショックを受け、のちに妊娠が発覚したときも、告げられぬまま月日が過ぎてしまった。そして再会の時。彼はベロニカの唇を情熱的に奪い、喜びを表したが、彼女の話を聞いたとたん、背筋も凍るほど冷徹な言葉を吐き捨てた。「僕は君を抱いたことなどない。君はここまで身を落としたのか!」
セリーナに従姉は、娘は夫の子ではないと告白して死んだ。従姉の別居中の夫は、怜悧な美貌の実業家カルロ・ヴァレッティ。カルロの悪い噂ばかりを吹き込まれていたセリーナは信用できず、迎えに来た彼に娘を返さないと宣言するのだった。だが言葉巧みに誘惑され、抗いがたい魅力に引き込まれ…。セリーナはやがて、カルロに抱かれてしまう。甘い感傷とともに。しかし、目覚めた翌朝、カルロは冷然と言い放ったのだ。「僕の娘はどこにいる?」とー自分を誘惑した理由を知って、セリーナは瞬時に青ざめた。大富豪の甘い誘惑の裏にはある目的が…。娘を手に入れるための策略に翻弄されてー
マンディはあこがれのアルプスでの登山中、雪崩に巻き込まれ、ガイドの魅力的なイタリア人男性ーレンゾと山小屋に取り残された。生死のはざまで愛が芽生え、マンディは彼と結ばれる。だが悲運にも山小屋の壁が崩れ落ち、レンゾは谷底へと消えた。一人で救出され2年が過ぎたとき、彼女は信じられない新聞記事を読む。レンゾが生きていて、大企業の社長として活躍している、と。では、なぜ連絡がないの?マンディはレンゾの住むミラノへ飛び、驚愕の事実を知る。九死に一生を得た彼には当時の記憶がないというのだ!そんなレンゾに息子の存在をどう伝えるか、マンディは途方に暮れ…。
ローレルはひとり、美しく悲劇的なローレライ伝説の地を訪れた。ライン河畔の城には、祖母の元恋人である老男爵が住んでいる。若き日のふたりは深く愛しあい、結婚を約束しながらも、身分の差に引き裂かれて、ついに結ばれることはなかったという。男爵に祖母の形見を贈り、最期まで愛していたと伝えたい。庭にいた少年に声をかけ、導かれるまま城の中へ入っていくと、ローレルそっくりの女性が描かれた肖像画が目に飛び込んできた。これは昔の祖母…そのとき怒声が響いた。「なにをしている?」振り向くと、古い写真で見た男爵に瓜二つの男性が立っていた。
100万ポンドをわたしに?この人は本気で言っているの?ジャクリーンはイタリア人伯爵ヴィットリオの話が信じられなかった。伯爵の父がまだ若かりし頃、彼女の亡父が賭で稼いだ大金を持ち去り、酔って記憶が曖昧でそのままになっていたのを、彼が返しに来たという。赤字続きの雑貨店を営み、貧苦のうちに逝った父を思うと胸が痛んだ。店は人手に渡り、彼女はそこに住み込みで働かせてもらっているのだ。伯爵の凛々しい瞳に心を奪われる一方、憤りもこみ上げた。今さら何を言うの!即座に受け取りを拒んだジャクリーンだったが、ほどなく、思いがけない苦境に立たされることになるー彼女の決断に反対の店主に解雇され、路上に放り出されてしまったのだ!
セレナはイタリア旅行中に、レオ・カルヴァーニと出会った。無骨な印象を与えるが、この上なく魅力的で、優しい。郊外に農場を持ち、質素な生活を愛しているのだという。抗いがたい魅力、セクシーな笑顔、そしてどこか高貴な雰囲気…セレナはそのすべてに惹かれ、運命の男性に出会ったのだと思った。だがその喜びは、予想もしなかった嘘によって打ち砕かれる。レオは途方もない億万長者であるばかりか、いずれはベネチアの宮殿と伯爵の称号を受け継ぐ身だったのだ!自分の素性すら偽る男性を、どうして信用できるだろう?なのに彼は、僕と結婚し、宮殿の女主人を務めてくれなどと言い…。
コリーヌは裕福な会社経営者のアレックスと結婚して12年になる。だが、今や億万長者となったというのに、夫は仕事一筋で家庭を顧みようとしない。ふたりの心はすれ違い、このところは別居生活が続いている。明日のクリスマスイブさえ一緒に過ごせないと言ってきたら、彼女は離婚する覚悟だったが…。(『億万長者とクリスマス』)。誤って自分に届けられたクリスマスカードを手に、オリビアは真上に住むイーサンを訪ねた。女性関係の派手なプレイボーイの彼とはあまり交流がない。そこに突然、若い女性が現れ、腕に抱いた赤ん坊を彼に渡して走り去った。プレイボーイには当然の報いと愉快に思うオリビアだったが、その赤ん坊に隠された秘密を知って…(『天使がくれたクリスマス』)。病院で栄養士の助手として働くシアドシアは、愛猫と屋根裏部屋で暮らしている。クリスマスも、唯一の身寄りである大おばたちと質素に祝うしかない。ある日、憂鬱な雑用をきっかけにハンサムなベンディンク教授と知り合う。彼は病院の理事で雲の上の人だ。かなわぬ恋と知りつつ、いつしか彼女は教授と過ごすイブを夢見ていた。(『聖夜の訪問者』)
小さな骨董品の店を営むハリエットに、縁談が舞い込んだ。相手はなんと、ローマの億万長者マルコ・カルヴァーニ。おそろしくハンサムだが、冷酷な皮肉屋と悪名高い彼は、大企業経営者としての立場上、形だけの妻を求めているという。見返りは、経営難の彼女の店に対する金銭的援助だ。結婚に希望を抱けないハリエットにとって悪くない話だったが、マルコは、地味な彼女を一瞥して冷笑を浮かべるような男だった。ところが、周囲に勧められて化粧や服を一新すると、美しく変身したハリエットを見る彼のまなざしが変わった。冷たい態度は崩さないまま、夜のデートに彼女を誘い…。
ヴェネツィアに降り立って双子の妹の婚約者マルチェロを見たとたん、古くさい中年男性と聞いていたのとはまるで違う精悍で魅惑的な大富豪の姿に、ジュリアは色を失った。旅行中に彼と出会ってすぐ衝動的に婚約した妹は、帰国後に交通違反がもとで出国禁止になったため、妹になりかわって彼と母親に挨拶しに行くようジュリアに強いたのだ。こんなにすてきな人に対して、偽りの婚約者を演じろだなんて…。無事に役目を終えられますようにというジュリアの願いも空しく、ふたりきりになるやいなやマルチェロの黒い瞳に射すくめられ、激しく唇を奪われて、彼女の心は千々に乱れた。