著者 : レジナルド・ヒル
中年男パルの頭を吹っとばされた死体は、内側から鍵のかかった書斎で発見された。自殺だろうと思いつつも、現場に到着したパスコーには気になることがあった。普段は頼まれても足を運びたがらない上司ダルジールが早々と駆けつけているのだ。しかも自殺を強く示唆する言動を…だがパルの父親が十年前に同じ書斎で自殺しており、さらにはその自殺の状況と今回の事件があまりにも酷似していることから疑念が生じる。後妻と子供たちの確執、父子二代にわたる因縁、そしてダルジールの過去までが複雑にからみあい、事件は迷宮へと突入してゆく。
彼女は力をこめて、男の股間に膝を突き上げた。男の顔が血の気を失う。次に、右腕を女めがけて勢いよく振る。エリーの手は女のこめかみをとらえた-パスコー主任警部の妻エリーを正体不明の男女が襲撃した。とっさに逃れたエリーだが、さらにはパスコー家を見張っていた何者かが友人のダフネを殴打する事件が起きる。ダルジールたちは、パスコーが過去に担当した事件、現在捜査進行中の横領事件との関連を追及するが、女性刑事のノヴェロは、ひとり意外な事実に目を留めていた…その完成度の高さに、ますます評価が高まる、シリーズ最新刊。
ダム工事のため湖底に沈む山里の村で、相次いで二人の少女が失踪した。村は騒然となり、警察も乗りこんでくるが、少女たちの行方は杳として知れない。そのうえ、最有力容疑者と目された青年ベニーも忽然と姿を消し、真相は村とともに湖底に消えた…そして十五年後、村人の大半が移り住んだ町で、ふたたび少女失踪事件が起きた。そして、町のあちこちには“ベニーが帰ってきた”の落書きが!またしても悲劇が繰り返されるのか-十五年前の捜査で無念のほぞを噛んだダルジール警視は雪辱に燃えあがった。執念の捜査が暴く、衝撃の事実とは。
ー24時間いっさい嘘はつかないと約束させられた男の、その結末は…「正直トマス」、不運はどこまでもついてまわる。1番にはけっしてなれない。それが彼の人生だった。とことん屈折した男の悲喜劇をシニカルに描く「次点の男」。-粗にして野であり、卑でもあるデブ警視ダルジール&パスコー、旋盤工あがりの黒人探偵シックススミスものなど13編を収録。本シリーズの掉尾を飾る、イギリスミステリー界の鬼才ヒルの傑作短編集。
いつもまずいときにまずい場所に居合わせ、金にならない厄介な事件ばかりを抱え込んでしまう私立探偵のシックススミス。例によって今夜も、合唱団の練習をこっそり抜け出した途端に死体が入った段ボール箱に蹴つまずき、犬猿の仲の警官からは犯人扱いされ、口うるさい伯母からは大目玉を食らう始末。おまけにナチの戦犯容疑をかけられた老人にまつわる騒動や、女性教師のセクハラ疑惑にまで巻き込まれ…怪事件、難事件の連続に自慢の強運ももはやこれまで。
九十キロを越す巨体、無作法、口の悪さは超一級ーそんな型破りの“アンチ・ヒーロー”、ダルジール警視は、その桁外れの魅力でミステリ・ファンの圧倒的な支持を受けてきた。本書では、彼が部下のパスコー警部とともに四つの難事件の謎に挑戦する。ダルジールとパスコーの出会いを描いたものや、2010年の近未来を舞台に、月面で初めて起きた殺人事件の顛末など、英国ミステリ界きっての実力派が贈る魅力あふれる中篇集。
酔って帰宅したダルジール警視は、裏手の家の寝室で展開される光景に思わず目をこらした。灯がともり、カーテンがひらかれたと思うと、裸身の女性があらわれたのである。だが、つぎの瞬間、女性のわきには銃を手にした男が立ち、夜のしじまに銃声が轟いた。女の死体をまえにたたずむ男は、現場に駆けつけたダルジール警視にむかって、妻の自殺を止めようとして銃が暴発したのだと主張した。しかし、目撃者のダルジール警視は、こいつは殺人だと自信満々だった。はたして、どちらの主張が正しいのか?一方パスコー主任警部は、つぎつぎと警察に送られてくる自殺をほのめかす手紙の差出人をつきとめるよう、ダルジール警視に命じられていた。内容からして、謎の差出人は今度の事件に関わりのある女性と推察されたが…。人間の生と死に秘められた苦痛と謎を鮮烈に描いた本格傑作。英国推理作家協会賞ゴールド・ダガー受賞作。
“飢餓”をテーマに、伝統あるイギリス海洋小説にひとひねりくわえてみせたレジナルド・ヒルの『洋上の聖餐』、未亡人セーラ・ケリングの親類にあたる学者のハイペシャ・ケリング夫人が、盗まれた人形をめぐってあざやかな罠を仕掛けるシャーロット・マクラウドの『甘い罠』など、心理サスペンスからユーモアあふれる掌篇まで、バラエティにとんだ豪華短篇集。クライム・クラブ創立60周年記念。
後ろから突き飛ばされた男の顔から笑みが消え、かわりに驚愕の表情が浮かんだ。恐怖に顔をひきつらせ、必死にバランスをとろうとする。だが、こらえ切れずにエレベータに足を踏み入れた男は、そのまま床を通り抜け、断未魔の悲鳴をあげながら落ちていった。現場に駆けつけたチスレンコ主任捜査官は、死体も突き飛ばしたほうの男も発見できなかった。党の大物委員長から要求されたことは、ソ連に幽霊は存在しないことを証明し、この騒ぎが悪意に満ちた西側帝国主義諸国の陰謀であると暴きだすことだった。しかし、大勢の目撃者に会い、調査をすすめればすすめるほど、事件の不可解さは深まって…。ペレストロイカ以前のモスクワを舞台に官僚機構を襲った幽霊騒ぎの顛未を描く表題作ほか、英国ミステリ界の鬼才が皮肉とユーモアをこめて贈る、ヴァラエティ豊かな傑作短篇集。