著者 : 一色さゆり
「私の祖父は“日本で最初の、ろう理容師”です」 作家デビュー後、前に進めなかった五森つばめが祖父の半生を描くことを決意する。 ──時を超えて思いがつながっていく、実話に基づく物語 大正時代に生まれ、幼少時にろう者になった五森正一は、日本で最初に創設された聾学校理髪科に希望を見出し、修学に励んだ。当時としては前例のない、障害者としての自立を目指して。やがて17歳で聾学校を卒業し、いくつもの困難を乗り越えて、徳島市近郊でついに自分の理髪店を開業するに至る。日中戦争がはじまった翌年のことだった。──そして現代。3年前に作家デビューした孫の五森つばめは、祖父・正一の半生を描く決意をする。ろうの祖父母と、コーダ(ろうの親を持つ子ども)の父と伯母、そしてコーダの娘である自分。3代にわたる想いをつなぐための取材がはじまった……。
私は、幸せになるために芸術をやるんです。 碧波市の美術館に勤める学芸員の貴山史絵は、80歳の女性画家、ヨシダカヲルの展覧会を担当することになる。ヨシダは美術業界から一線を退いたあと、山奥のアトリエでひとり絵を書き続けていた。担当になった史絵は、東京で働く恋人との将来や、職場での人間関係、学芸員としてのキャリアに悩んでいた。今ではほとんど無名と言っても良いヨシダの展覧会開催に疑問を抱く史絵だったが、ヨシダとの交流を重ねるうちに、その不思議な魅力と、ひとり筆をにぎりつづける生き方に魅了され、自身も次第に変わり始める。 展覧会の準備に奮闘する一方で、史絵はヨシダの過去が気掛かりだった。一時は戦後の女性画家として名を上げていたにもかかわらず、なぜ表舞台から消えてしまったのか。ふたたび絵を描き始めるまでの空白の10年間に何があったのか。ふたりが心を通わせたとき、ヨシダが語るのは、秘められた愛についてだったーー。 【編集担当からのおすすめ情報】 2015年、第14回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞しデビューした著者が学芸員を主人公に、現代を生きる女性たちのリアルな悩みを描いた渾身の一冊です。 学芸員のお仕事や、展覧会が開催されるまでの美術館の様子にも注目です!
つらいとき、悲しいとき、アートがあるから 浮かび上がる大切なもの 拾ったアドレス帳の持ち主を探しに韓国へ。現代美術作品がきっかけの、女性二人旅の結末は──「ハングルを追って」を含む、芸術が照らし出す5編のショートストーリー集! 「ハングルを追って」 ハングルが書き込まれたアドレス帳を拾った美大事務職の江里子は、油画科の親友に相談し、ソフィ・カルにちなんで韓国へ行ってアドレス帳の持ち主を探すことに……。 「人形師とひそかな祈り」 伝統の御所人形を作り続ける正風は子どもにも弟子にも恵まれず、そろそろ工房を畳もうと考えていた。そんな折、フィリピンからの留学生を紹介され心を開いていく……。 「香港山水」 現代水墨画家の成龍は、コレクターたちのパーティに駆り出される。そこで地元実業家の夫人・美齢と出会い、デモ隊と警察が衝突する混乱のさなかに二人は再会し……。 「写真家」 有名な写真家だった父が、記憶をなくして海外から帰国。娘は世話をしながら、母から写真家としての父の話を聞き、生涯を辿ることになる。知らなかった真実がそこに……。 「光をえがく人」 ミャンマー料理店の店主に、自国の政治犯についての話を聞くことになった。学生のころ反政府運動に加わって投獄され、劣悪な監獄生活のなかでの奇妙な体験とは……。
〈茶道、お稽古物語〉 〈畳の部屋で出会う新しい世界〉 不動産会社に勤める星那は、従姉の可夜子に頼まれて、三年前に亡くなった祖母の茶道具を整理することになりました。 外回りの営業中に見つけた茶道の稽古場に通いながら少しずつ自分の働き方、生き方を見つめ直していく星那は、幼い頃の記憶にある「金継の茶碗」を巡って、星那は受け継ぐことの難しさを痛感。茶室の売却やそこで現れる怪しい道具屋、稽古場での新しい出会いなど、12の短編ストーリーと合わせて楽しむ、茶道、お稽古物語です。
東京にある名門美大の油画科に属する美大生たちの、奮闘と葛藤を描いた青春小説。地方出身で天才的な画風の望音、技術はあるがこれといった特徴のない詩乃、美大生としての自身に迷いをもつ太郎、前衛的で現代的な作風の和美ーー。スパルタで知られる森本ゼミに属する4人は教授の森本の徹底的なダメ出しを受け、画家としての「才能」や、自身の将来に不安を感じながらも切磋琢磨している。そんなとき、森本ゼミに伝わる過去の放火事件の噂を聞きーー。
絵画療法の第一人者・熊沢が営む、熊沢アート心療所。カウンセラーを目指す院生・日向聡子は、インターンとしてやってきた。そこで出会ったのは飛行機恐怖症のサラリーマンや、ユニコーンの絵ばかり描く少女、認知症で帰宅できない老女…。さまざまな悩みを持つ人々の過去や本心を、熊沢は彼らが描いた絵から見抜いていく。しかし、聡子は自分自身の過去を探る過程で、熊沢に対してある疑念を抱きー。
マスコミはおろか関係者すら姿を知らない現代芸術家、川田無名。ある日、唯一無名の正体を知り、世界中で評価される彼の作品を発表してきた画廊経営者の唯子が何者かに殺されてしまう。犯人もわからず、無名の居所も知らない唯子のアシスタントの佐和子は、六億円を超えるとされる無名の傑作を守れるのかー。美術市場の光と影を描く、『このミス』大賞受賞のアート・サスペンスの新機軸。