著者 : 一色さゆり
「私の祖父は“日本で最初の、ろう理容師”です」 作家デビュー後、前に進めなかった五森つばめが祖父の半生を描くことを決意する。 ──時を超えて思いがつながっていく、実話に基づく物語 大正時代に生まれ、幼少時にろう者になった五森正一は、日本で最初に創設された聾学校理髪科に希望を見出し、修学に励んだ。当時としては前例のない、障害者としての自立を目指して。やがて17歳で聾学校を卒業し、いくつもの困難を乗り越えて、徳島市近郊でついに自分の理髪店を開業するに至る。日中戦争がはじまった翌年のことだった。──そして現代。3年前に作家デビューした孫の五森つばめは、祖父・正一の半生を描く決意をする。ろうの祖父母と、コーダ(ろうの親を持つ子ども)の父と伯母、そしてコーダの娘である自分。3代にわたる想いをつなぐための取材がはじまった……。
ハングルが書き込まれたアドレス帳を拾った美大職員の江里子は、アート作品にちなんで韓国で持ち主を探すことに…(『ハングルを追って』)。後継者もなく工房を畳もうと考えていた人形師の正風が、フィリピンからの留学生と出会い心を開いていく…(『人形師とひそかな祈り』)。現代水墨画家の成龍はコレクターたちのパーティに出席。会場で本土の実業家の夫人と出会い、街の混乱の中で再会を…(『香港山水』)。有名な写真家だった父が、記憶をなくして海外から帰国。娘は母の話から、父の生涯を辿ることになる…(『写真家』)。ミャンマー料理店の店主に、反政府運動に加わって投獄された話を聞く。劣悪な環境の中での奇妙な体験とは…(『光をえがく人』)。アートが照らす五つの物語。
選ばれし者だけが集まる、国内唯一の国立美術大学・東京美術大学油画科。スパルタで知られる森本ゼミに属する望音・詩乃・太郎・和美の4人は、画家としての「才能」や自身の将来に不安を感じながらも、切磋琢磨していた。そんなとき、ゼミに伝わる過去のアトリエ放火事件の噂を聞きー。不条理で残酷な「芸術」の世界に翻弄されながらも懸命にキャンバスに向かう、美大生のリアルを描いた青春小説。
絵画療法の第一人者・熊沢が営む、熊沢アート心療所。カウンセラーを目指す院生・日向聡子は、インターンとしてやってきた。そこで出会ったのは飛行機恐怖症のサラリーマンや、ユニコーンの絵ばかり描く少女、認知症で帰宅できない老女…。さまざまな悩みを持つ人々の過去や本心を、熊沢は彼らが描いた絵から見抜いていく。しかし、聡子は自分自身の過去を探る過程で、熊沢に対してある疑念を抱きー。
マスコミはおろか関係者すら姿を知らない現代芸術家、川田無名。ある日、唯一無名の正体を知り、世界中で評価される彼の作品を発表してきた画廊経営者の唯子が何者かに殺されてしまう。犯人もわからず、無名の居所も知らない唯子のアシスタントの佐和子は、六億円を超えるとされる無名の傑作を守れるのかー。美術市場の光と影を描く、『このミス』大賞受賞のアート・サスペンスの新機軸。