著者 : 中島京子
「ハブテトル」とは備後弁で「すねている」という意味。母の故郷・広島県松永の小学校に、2学期だけ通うことになった小学5年生の大輔。破天荒な大人や友達と暮らすうち、大輔は「あること」に決着をつけようと、自転車で瀬戸大橋を渡ることにする。著者唯一の児童文学。
大人のお茶会へ、ようこそ。あなた、どこかへ辿りつけるでしょうか。騙されたと思ってひと口、飲んでみてください。美味しいです。心地よく酔います。楽しいです。そして、ちょっと怖いです。魅惑のパスティーシュ小説集。
慶長五年(1600年)、角を一本しか持たない羚羊が、八戸南部氏20代当主である直政の妻・祢々と出会う。羚羊は彼女に惹かれ、両者は友情を育む。やがて羚羊は寿命で息を引き取ったものの意識は残り、祢々を手助けする一本の角ー南部の秘宝・片角となる。平穏な生活を襲った、城主である夫と幼い嫡男の不審死。その影には、叔父である南部藩主・利直の謀略が絡んでいたー。次々と降りかかる困難に、彼女はいかにして立ち向かうのか。波瀾万丈の女大名一代記!
アパートの水漏れがきっかけで、下の階に住む男と親しくなったあかり。男はある日、奇妙な相談を持ちかける。「俺と、部屋を交換しない?」(「天井の刺青」)。街のあちこちに灰色の公衆電話が存在していた、あの時代。初めて東京を訪れた私が泊まったホテルの部屋には、なぜか外国人女性が住んでいて…(「東京観光」)。直木賞作家が贈る、味わい深い七つの物語。
90歳を超えるばあさんは「アキバ」のメイド喫茶に通い、かつて女中をしていた若かりし頃の思い出にふける。いつの世にもいるダメ男、わがままお嬢様、変人文士先生につかえる、奥深い女中人生…。直木賞受賞作『小さいおうち』の姉妹小説。
昭和初期、女中奉公にでた少女タキは赤い屋根のモダンな家と若く美しい奥様を心から慕う。だが平穏な日々にやがて密かに“恋愛事件”の気配が漂いだす一方、戦争の影もまた刻々と迫りきてー。晩年のタキが記憶を綴ったノートが意外な形で現代へと継がれてゆく最終章が深い余韻を残す傑作。著者と船曳由美の対談を巻末収録。
『北京の春の白い服』-1999年、中国初のファッション誌創刊に向けて派遣され北京で奔走する夏美。『時間の向こうの一週間』-2012年の上海、赴任したばかりで多忙な夫の代わりに家探しを引き受けた亜矢子。『天燈幸福』-「台湾に三人おじさんがいるのよ」という亡き母の言葉を手がかりに旅に出た美雨。時間も、距離も越えて、新しい扉をひらく彼女たちの物語。
一風変わった幼稚園の同窓会に招かれた隆一は、ミライと出会う。母の記憶が曖昧になりつつあるいま、会ったことのない父親を捜しているというミライ。人嫌いの厭人家という逸話、そして父らしき男がかすかに写った写真。手がかりはそれだけ。写真を見た隆一の姉は、言った。「この人、ゴリじゃない?」。70年代に消えた父は、何者なのか。二人は“エンジン”を捜すうち、風変わりな人々に巡り会い、近過去という時代を紐解いていく。
ふらりと旅に出たまま帰らない内田均の家に泥棒が入り、この家に出入りしていた元妻の高校美術教師と重役秘書と雑誌編集者という年代の違う女たちが警察で鉢合わせ。均ちゃんへのそれぞれの思いを胸に、ひょんなことから3人そろって箱根の高級温泉旅館に行くことになり…。切なくも軽やかな恋愛小説。
1989年の香港ツアーで一人の青年が消えた。彼が想いを寄せていた女性、同じツアーに参加した会社員、添乗員…青年を取り巻く人々の記憶は、肝心なところが欠落していた。15年後、彼の行方を追う駆け出しライターは、当時ひそかに流行していた「迷子つきツアー」という奇妙な旅に行き着くがー。記憶のいたずらが、一人の人間の運命を変える。現実と虚構の境が揺らぐ、ミステリアスな物語。
維新後間もない日本の奥地を旅する英国女性を通訳として導いた青年イトウは、諍いを繰り返しながらも親子ほど年上の彼女に惹かれていくー。イトウの手記を発見し、文学的背景もかけ離れた二人の恋の行末を見届けたい新米教師の久保耕平と、イトウの孫の娘にあたる劇画原作者の田中シゲルの思いは…。
15年ぶりに、しかも誕生日に、部屋に恋人未満の男を招くことになった36歳の由紀子。有休を取り、ベッドの到着を待ち、料理を作って待つが、肝心の山田伸夫が…来ない!表題作ほか、新入りが脱走した相撲部屋の一夜を描く「八十畳」。やもめ暮らしの大叔父が住む、木造平屋に残る家族の記憶をひもとく「私は彼らのやさしい声を聞く」など、“7つのへやのなか”を、卓越したユーモアで描く傑作短篇集。
ささやかな夢をたくしたこの部屋に思いがけず訪問者はやってくるー。人生はせつなくて。おかしくて。いとしくて。さまざまな手触りの人間模様を描いた7つの物語。1つ1つが味わい深い上質の短編小説集。