著者 : 中島京子
いつの時代も、戦を止めようとしたものがいたーー。長いスランプに陥った小説家はやけっぱちになり、唐津を旅することに。陶芸体験をした窯元の夫婦から、水神にまつわる不思議な伝承を聞く。今でいう「難民」であったという流浪の水神は、戦国時代、いかにして秀吉の朝鮮出兵を止めようとしたのか……。『かたづの!』の著者が、かつてないスケールで歴史と現代を深く結びつける長篇小説。
「隣に座るって、運命よ」 文豪ひしめく坂だらけの町の、不思議な恋の話。 大学進学を機に富山県から上京した、坂中真智は、おばあちゃんの親友・志桜里さんの家に居候することになった。 坂の中にある町ーー小日向に住み、あらゆる「坂」に精通する志桜里さん。書棚には「小日向コーナー」まであり、延々と坂について聞かされる日々が始まった。 ある日、同級生の誘いで文学サークルに顔を出すことになったが、集合先のアパートは無人で、ちょっと好みのルックスをした男の子が一人やってくる。 一緒に帰ることになった真智に、彼は横光利一の『機械・春は馬車に乗って』を「先生の本」といって渡して来、米川正夫、岸田國士、小林秀雄がいまも教鞭をとっているかのような口ぶりで…… ひょっとして、この人、昭和初期から来た幽霊なのでは? 江戸川乱歩『D坂の殺人事件』の別解(⁉)、 遠藤周作『沈黙』の切支丹屋敷に埋まる骨が語ること、 安部公房『鞄』を再現する男との邂逅、 夏目漱石『こころ』みたいな三角関係…… 風変わりな人たちと、書物がいろどる ガール・ミーツ・幽霊譚 フェノロサの妻 隣に座るという運命について 月下氷人 切支丹屋敷から出た骨 シスターフッドと鼠坂 坂の中のまち
30年ぶりにアメリカから帰国し、武蔵野の一角・うらはぐさ地区の伯父の家にひとり住むことになった大学教員の沙希。 そこで出会ったのは、伯父の友人で庭仕事に詳しい秋葉原さんをはじめとする、一風変わった多様な人々だった。 コロナ下で紡がれる人と人とのゆるやかなつながり、町なかの四季やおいしいごはんを瑞々しく描く物語。 【著者プロフィール】 中島京子(なかじま・きょうこ) 1964年、東京生まれ。東京女子大学文理学部史学科卒業。出版社勤務ののち、フリーライターに。アメリカ滞在を経て、2003年『FUTON』で小説家としてデビューする。2010年『小さいおうち』で直木三十五賞、2014年『妻が椎茸だったころ』で泉鏡花文学賞を受賞。2015年『かたづの! 』で河合隼雄物語賞、歴史時代作家クラブ賞(作品賞)、柴田錬三郎賞、同年『長いお別れ』で中央公論文芸賞、翌年の日本医療小説大賞を受賞。2020年『夢見る帝国図書館』で紫式部文学賞、2022年『ムーンライト・イン』『やさしい猫』で芸術選奨文部科学大臣賞(文学部門)、同年『やさしい猫』で吉川英治文学賞を受賞した。そのほか、著書多数。
中島京子・初の児童文学エッセイ集 空想が日常の子ども時代、だれもが異世界へと旅する時間を持つ。物語に没頭する喜びは、ずっとあなたを支えてくれる。本を開いて、自分の中の子どもに会いにいこう。 『クマのプーさん』から『ゲド戦記』までーー作家を育てた18の物語。 【本文からの抜粋】 『プーさん』ほどに、完璧に、あの特別な時間と空間を、しっかりと閉じ込めた本はない。この本が世に出てから、まもなく百年が経とうとしているけれど、あいも変わらず子どもの心をとらえて離さないのも、大人にとってもことあるごとに読み返したくなるのも、『プーさん』の世界がホンモノで、そしてそれがわたしたちにとってたいせつなものであるからにほかならない。(第1章「プーの森で、ことばと遊ぶ」より) 生涯で『宝島』を読んでいないというのは、なんだろう、すごく大きな損失のような気がする。『宝島』を読むのは、物語に没頭するという、生きている喜びのうちもっとも楽しいことの一つの、圧倒的な体験なのだ。それなしに、生きることを、わたしはオススメしない。(第4章「物語に没頭する、圧倒的な幸福感」より) 子どものときに『不思議の国』や『鏡の国』に迷い込んだことがあれば、そののちもずっとその世界を持ち続けることができて、それは一生の友になるということだ。ワンダーランドは卒業を許さないのである。(第7章「ワンダーランドは卒業を許さない」より) このエッセイ企画がスタートしたときから、最終章を『ゲド戦記』に、と決めていた。 というのも、この長いファンタジー・サーガは、たしかに「わたしを育てた」物語なのだけれども、幼いわたしを、というよりは、現在も育て続けている、特別な物語だからだ。(第18章「二十一世紀の読者のために作り直された、ル= グウィンからの贈り物」より)
シングルマザーの保育士ミユキさんが心ひかれたのは、八歳年下の自動車整備士クマさん。 出会って、好きになって、この人とずっと一緒にいたいと願う。当たり前の幸せが奪われたのは、彼がスリランカ出身の外国人だったから。 大きな事件に見舞われた小さな家族を、暖かく見守るように描く長編小説。
職を失い、自転車旅行の最中に雨に降られた青年・栗田拓海は、年季の入った一軒の建物を訪れる。穏やかな老人がかつてペンションを営んでいた「ムーンライト・イン」には、年代がバラバラの三人の女性が、それぞれ事情を抱えて過ごしていた。拓海は頼まれた屋根の修理中に足を怪我してしまい、治るまでそこにとどまることになるがー。人生の曲がり角、遅れてやってきた夏休みのような時間に巡り合った男女の、奇妙な共同生活が始まる。
すぐそこにある未来は、こんな奇妙なものかもしれない。廃墟化した高層マンションの老人が消えるわけ、汎用型AIが人を超えた時に起こる異変、アグリビジネスがら逃れた種の行き先。『小さいおうち』『長いお別れ』の著者が贈る初の近未来小説。
運命の相手と知り、自分の分身のように感じる相手と結ばれたり、結ばれない運命だったり。悲しい恋やコミカルな恋、ロマンチックな恋など「運命」に翻弄される人間の、さまざまな姿を味わえる。男女がかくも違い、だからひかれあうのだ、ということがよくわかる物語の数々。村上春樹、角田光代、山白朝子、中島京子、池上永一、唯川恵という恋愛小説の名手たちによる傑作短編集。あなたも「運命の赤い糸」が見えていますか?奇跡の出会いは、きっとあるーー。人気作家による最高の恋愛小説アンソロジー
太宰、漱石、鴎外、賢治、芥川から、ドイル、アンデルセン、ケストナー、ベケットまで。古今東西の名作をもとに編み上げられた16のパスティーシュ小説集。禁酒時代にアブサンの代用酒として作られたパスティスが、以後もずっと人々の口を愉しませ、酔いを誘ってきたように、オリジナル作品を知らなくても、知っていればなお一層、小説の醍醐味を存分に楽しめる珠玉の作品集。
五十歳になっても、人生はいちいち驚くことばっかりー息子は巣立ち、夫と二人暮らし。パート勤務の宇藤聖子がふと手にとったのは六十年前の「女性論」。一見時代遅れの随筆と聖子の日常は不思議と響き合い、思わぬ出会いが次々と…!社会問題を織り込んで、くすりと笑える心地よさ。ミドルエイジを元気にする上質の長編小説。
かつて中学の校長だった東昇平はある日、 同窓会に辿り着けず、自宅に戻ってきてしまい、 心配した妻に伴われて受診した病院で 認知症だと診断される。 昇平は、迷い込んだ遊園地で出会った幼い姉妹の相手をしたり、 入れ歯を次々となくしたり、 友人の通夜でトンチンカンな受け答えを披露したり。 妻と3人の娘を予測不能なアクシデントに巻き込みながら、 彼の病気は少しずつ進行していく。 そして、家族の人生もまた、少しずつ進んでいく。 認知症の父を支える妻と娘たちが過ごした、 あたたかくも切ない、お別れまでの10年の日々。 中央公論文芸賞、日本医療小説大賞のW受賞作!
あの店に来ていた人たちは、誰もがどことなく孤独だった。小さな喫茶店でタタンと呼ばれた私が、常連客の大人たちから学んだのは、愛の不平等やしもやけの治し方、物語の作り方や別れについて。甘酸っぱくてほろ苦いお菓子のように幸せの詰まったものがたり。
目をこらすと今も見える鬱蒼とした原宿の館に出没する女の子、二〇世紀を生き抜いたミシン、おじいちゃんの繰り返す謎の言葉、廃墟と化した台湾人留学生寮。温かいユーモアに包まれ、思わず涙があふれる7つの幽霊連作集。
柴田錬三郎賞、歴史時代作家クラブ賞作品賞、河合隼雄物語賞の3冠を受賞し、王様のブランチブックアワード2014の大賞にもなった話題作の文庫化。実在した南部八戸の女大名の一代記。(解説/池上冬樹)
結婚は墓場かパラダイスか?人気作家7名が結婚の謎に迫る。〈黒い結婚篇〉中島京子、窪美澄、木原音瀬、深沢潮〈白い結婚篇〉成田名璃子、瀧羽麻子、森美樹 〈黒い結婚篇〉中島京子、窪美澄、木原音瀬、深沢潮 〈白い結婚篇〉成田名璃子、瀧羽麻子、森美樹 黒い結婚 窪美澄 「水際の金魚」 深沢潮 「かっぱーん」 木原音瀬 「愛の結晶」 中島京子 「家猫」 白い結婚 森美樹 「ダーリンは女装家」 瀧羽麻子 「シュークリーム」 成田名璃子 「いつか、二人で。」
亡き妻のレシピ帖に「私は椎茸だった」という謎のメモを見つけた泰平は、料理教室へ。不在という存在をユーモラスに綴る表題作のほか、叔母の家に突如あらわれ、家族のように振る舞う男が語る「ハクビシンを飼う」など。日常の片隅に起こる「ちょっと怖くて愛おしい」五つの「偏愛」短編集。泉鏡花賞受賞作。