著者 : 中津文彦
はぐれ古九谷の殺人はぐれ古九谷の殺人
「どうしたんですか!」平介もギョッとなって息を呑んだ。倒れている男はピクリとも動かない。どうやら死んでいるのではないかと思われた。「吉野はん、吉野はん」芳太郎は必死になって男を揺すっている。が、やはり反応はなかった。(これは殺人事件だゾ)平介は背筋にゾクッとするものを感じた。土間には黒ずんだ血が生々しく流れている。えらいものに巻き込まれた、という気持ちもあるが、同時にムラムラと好奇心も湧いてきた。自分がこれほどヤジ馬根性の旺盛な人間だとは、26歳の今まで気がつかなかった。平介はにわかに探偵気どりになって素早い一瞥を店内に投げかけた。-美術店の一人息子が客の美貌に眼がくらみ、高価な壷を騙し取られて…。行く先々で起こる奇妙な事件、アンティーク探偵『推古堂』平介がくり広げる長編ミステリー。
南海北緯17゜の殺人南海北緯17゜の殺人
“豪華客船へいあん丸の旅”に参加した、酒場の美人マダム青野瑠璃子が、最初の寄港地沖縄で何者かに襲われた。200人の乗客は、横浜を出発し那覇、マニラを経由して香港を回る2週間余の贅沢な船旅の最中であった。招待客として乗船していた作家・中小路信は、犯人は乗客の中にいると考え調査に乗り出した。やがて青野の愛人の存在が浮かび上がった。平和な旅は一転して不穏な空気に変わり、船は陽光きらめく南シナ海へ。そして、ついに殺人事件が発生した。豪華客船を舞台に交錯する乗客たちの過去。そして惨劇…。綿密な取材に基づき豊かな詩情で実力派作家が贈る初の船旅推理。