著者 : 久坂翠
夫が突然失踪して1年半、エンジェルは孤独と不安を耐え忍んでいた。そんなある日、彼女がメイドとして働くホテルに、夫の兄で法廷弁護士のローリから電話がかかってくる。弟がーきみの夫が、自動車事故で帰らぬ人となった、と。そればかりか、車には愛人が同乗していたという。打ちのめされたエンジェルのもとに、ローリが訪ねてきた。なんと、まだ生まれて間もない赤ん坊を連れている。「まさか、その子は…」驚くエンジェルに、彼はうなずいた。「そうだ。弟と愛人の子だよ」そして、こう続けたー「エンジェル、この子を僕と一緒に育ててくれないか」
ああ、今日もくたくただわ…。病院の住み込み庶務係のクローディアは、きつい仕事をこなしてはベッドに倒れ込む日々。お世話になっていた大おじが亡くなったのを境に、これまで住んでいた家を追い出されてしまったのだ。そんな彼女に手を差し伸べたのは、大おじを診ていた年上のハンサムな医師トマスだった。「結婚すればきみは自由を、ぼくはよき友人を手に入れられる」愛のかけらもない申し出と知りつつも、彼が時折見せるやさしさに淡い期待を抱き、クローディアは思わずうなずいてしまうが…。
母の再婚を知ってスーザンの胸に湧いた喜びは、相手がスローンの父親とわかるなり、ショックに代わった。シドニー随一の富豪スローンとは結婚の約束をしていたが、名家の彼に私は釣り合わないと、別れを告げたばかりだった。だが何も知らない母から、二人で式に来て、と頼まれてしまう。スローンは言った。僕らは親の幸せに水を差すべきじゃない。結婚式が終わるまでは、恋人同士のふりをしていよう、と。彼の目が意味ありげに光り、その意味を知る体が反射的に震えた。何を企んでいるの…?私たちの関係は、もう終わったのに。
ある朝秘書のエリスが出社すると、社内の状況が一変していた。頼りにしていた上司は昇進争いに破れて左遷され、彼女の居場所はなくなっていたのだ。打ちひしがれるエリスに声をかけ、慰留する人物がいたー次期社長のマシュー・カニングだ。驚いたことに、彼は自分の秘書として働かないかと言う。自ら蹴落としたライバルの秘書を雇おうとするなんて、いったいどういうつもり?困惑しながらも、エリスは抗えない力に押されるように申し出を受け入れていた。