著者 : 亀井よし子
南北戦争はブラッドフォード・メイトランドの心にも深い傷跡を残した。南部の大地主の息子でありながら、北部に生まれ育った彼は、自らの信念を貫いて北軍に加わった。しかし、婚約者のクリスタルはこれななじり、そのあげくに彼の弟のもとへと奔ったのだ。アンジェラが5年ぶりにブラッドフォードに再会した時、彼の心はすさみ切っていた。彼を追って飛び込んだ売春宿で、彼女は自分の素姓も明かさないままその身を委ねた。それが、かつて“エンジェル”と呼んだ少女であるなどとは、ブラッドフォードは知る由もなかった。
スーザンは、ファッション雑誌「ヴォーグ」の編集者として、将来を嘱望されていた。そのスーザンが恋に落ちた。相手は世界的に名の知れた若きピアニスト、リチャード・アントニーニ。まるで少女のように、リチャードとの生活を夢みるスーザン。しかし、妻となったスーザンは、音楽一家アントニーニ家のあまりの異質さに愕然とする。そして、一家に君臨する母マリアは、まったくスーザンをうけいれようとはしなかった。
リチャードは、30歳を過ぎていまだに自立できない-。偉大な母マリアの操り人形だった。障害を持つ自分の娘を愛することもできず、他の女との過ちをくりかえすリチャード。スーザンが恋に落ちたころの、思いやりとウィットに富んだ貴公子の姿は、もうどこにもなかった。リチャードとの暮しに疲れ、ずたずたになったスーザンは、ふと、もうひとつの愛に賭けてみようかと考える。穏やかで、誠実な愛に-。
スイスの名門女学校に通うコーデリアは、卒業を目前にしたある日、学友たちと森へ出かけた。メイドから不思議な伝説を聞かされたからだ。「狩猟月のころ、“ピルチャーの峰”に行くと、未来の夫に逢える」という-。はたして、ひとりの青年があらわれた。この人が、わたしの夫となる人なのだろうか…。やがて卒業した彼女は、イギリスへ帰る船上で、再びその青年と出逢う。胸をときめかせるコーデリアに、エドワードと名乗り再会を約したにもかかわらず、かれは2度と彼女の前に姿をあらわすことはなかった。かれは、20年も前にすでに死んだ男だったのだ。
イギリスの名門女学校の教師になったコーデリアは、その土地の領主ジェイソンに愛され、プロポーズを受けた。しかし、かれは数々のいまわしいスキャンダルにつつまれている男だ。心を惹かれながらも、コーデリアは、かれに近づくまいと決意するのだった。そんなおり、女学校では奇妙な事件があいついだ。生徒の突然の失跡、その妹の原因不明の病気…、真相をつきとめようとするコーデリアは、ついに驚くべき事実につき当たる。すべては、コーデリアが、かつて“狩猟月”のころ、森の中で出逢った不思議な出来事に端を発しているのだった。