著者 : 井上荒野
十九歳、夏、陽光の中を笑い転げながら歩いている私たち。ハニーズ。はちみつたち。とくべつな四人。四十歳に近づいた今でも、私は「ハニーズ」と私の恋とを注意深く分けている。ふたつが混じりあわないように。結婚、離婚、家族、恋愛ー9篇の傑作を収録した魅惑の恋愛小説集。
地方営業に出かけたギタリストの夫に女の影を感じた妻が、隣家の男と営業先へと向かう表題作「夜を着る」、大人になりきれない男女のあてのないひと夜のドライブ「アナーキー」、父の葬儀に現れた愛人との奇妙な記憶を描く「よそのひとの夏」など八篇を収録。日常の皮膜が剥がれおちる旅をテーマにした短篇集。
おいしいものに隠された、男と女の秘密 不倫相手との情事の前の昼食、不在がちな父親が作った水餃子ーー言葉にできない色濃い想いを、食べることに絡めて鮮やかに描き出す短編集。単行本未掲載の一編も特別収録。(解説/小山鉄郎)
妻ある「恋人」カシキとつきあっていた小説家の私は、恋も仕事もうまくいかない日々から抜け出すため、テレビ局で知り合った8歳年下の学生アルバイト、ズームーと暮らし始める。服装やヘアスタイルに細やかに気を配る繊細な心の持ち主であるズームーは、カシキからは得られない大きな安らぎと平穏を私にもたらす。しかしひとたびカシキから電話で呼び出されると、真夜中でもタクシーを飛ばしてすぐに会いに行ってしまう私だった。 新直木賞作家が、辛い恋と安らかな恋の間で、激しく揺れ動く「厄介な私」を描いた甘美で愚かで危険な恋愛小説。
東京近郊のフィットネスクラブに集まる、一癖も二癖もある男と女…。平気で女を乗りかえる若い男。その男の美しい肉体を思い浮かべ自慰に耽る女。水泳コーチの妻は失踪し、団地の主婦は、昔の恋人の名前をつい呟いてしまう。脱サラした古本屋は、妄想癖のある受付嬢の虜となるー。誰もが世界からはぐれ、行先もわからずさまよっている。不穏な恋の罠に翻弄される男女を描く連作短編集。
両親の死を機に、東京を引き払い、信州でひとり暮らす姉のそばへ越してきた妹夫婦。両親の気配の残る小さな宿を引きついで、おだやかな日常が始まったように見えたが、そこでは優しさに搦めとられた、残酷な裏切りが進行していたー精緻な描写と乾いた文章が綴るいびつな幸福。うつくしく痛ましい愛の物語。
画家だったパパの突然の死から五年。浮き世離れしたママと、美術館に改装した家で暮らす大学生のいずみ。離れの間借り人、渋い老人の伏見に恋しているが、伏見はじめ美術館に出入りする男たちはみなママに夢中だ。ある日、放映されたパパのドキュメンタリー番組に、パパの愛人が出演していた…。なにが起ころうと否応なしに続いていく人生と渡り合うために、ママがとった意外な行動とはー。
伊月潤一、26歳。住所も定まらず定職もない、気まぐれで調子のいい男。女たちを魅了してやまない不良。寄る辺ない日常に埋れていた女たちの人生は、潤一に会って、束の間、輝きを取り戻す。だが、潤一は、一人の女のそばには決してとどまらず、ふらりと去っていく。小さな波紋だけを残して…。漂うように生きる潤一と14歳から62歳までの9人の女性。刹那の愛を繊細に描いた連作短篇集。