著者 : 井上荒野
現代を代表する人気作家たちが猫への愛をこめて書き下ろす猫の小説、全7編。作家の家の庭に住みついた野良猫。同じマンションの女の猫が迷い込んできたことで揺れる孤独な女の心。猫にまつわる名作絵本に秘められた悲しみ…ミステリアスな猫たちに翻弄される文庫オリジナルアンソロジー。巻末にオールタイム猫小説傑作選も収録。
個性あふれる作家陣が、大人への階段を上ろうとする人生の一瞬を鋭くとらえた短編作品集。内面から湧き出る衝動をもてあまし、人生のほろ苦さを味わいながらも大人未満のところにいる。そんな人々が集まる場所。人気作家勢揃いのアンソロジー。
アパートに向かう途中の美那は、不審な男女が猫の親子を攫う場面を目にし、残された仔猫を連れて帰ることに。ハッピーと名付けた猫との生活は、荒んだ彼女の心を変えていく。ところがクラブで知り合った男が、ハッピーを引き取りたいという人を見つけ出し…。(自分の猫)ままならない人生と、その背後に見え隠れする猫たちが織りなす物語を繊細に紡いだ短編集。
四月の雪の日。あの夜、シェアハウスで開かれたパーティで、一体何があったのか?「樅木照はもう死んでいた」という衝撃的な一行からこの物語は始まる。しかも死んだはずの照の意識は今もなお空中を、住人たちの頭上を、「自由に」浮遊している。悪意と嫉妬、自由と不自由ー小さな染みがじわじわ広がり、住人たちは少しずつ侵されていく。“みんなが照を嫉(ねた)んでいたにちがいない。みんな不自由だったが、照は自由だった。…俺も彼女が嫉ましかった。でも、俺は殺していない。じゃあ、誰だ?”著者の新境地をひらくミステリ&恋愛小説の傑作。
両親を事故で失くしたみさきは19歳で美術教師の夫と結婚した。それから4年。あなたはあなたが連れてきたー嵐の晩、彼女の前にふたりの「あなた」があらわれる。夫が、長い間音信不通だった双子の弟を探してきたのだ。混乱するみさきに、僕はもうすぐ死ぬんだ、と告げる夫。衰弱していく兄になりかわるように、その存在感を徐々に増していく弟。眩惑的な文体で綴る愛のサスペンス。
東京の事務員・亜佐子、佐世保の歌手・マユリ、仙台のOL・鳩子。彼女たちには忘れたくても忘れられない男がいる。結婚を匂わせ金銭を預けた途端に消えた宝石鑑定士・古海。ある女は待ち続け別の女は絶望した。だが鳩子は探し続け、ついに古海の相棒・千石るり子にたどり着くのだが…。「結婚」という魔物に騙された女たちと騙した男女、そして詐欺師・古海の妻。彼らが持つ闇と欲望の行き着く先とは!?
開発業者として現れた中学時代の同級生と、抗うこともないままに肉体関係をもってしまった沙知。自宅裏の森を伐採する宅地造成工事の告知を機に、彼女の家族は一変する。反対運動にのめり込む義父母。いつしか夫も見知らぬ顔を覗かせるなか、その男は沙知への要求をエスカレートさせていく。日常にひそむ正常と異常の空隙。そこから現れる異様な光景を端正な筆致でとらえたアモラルな傑作長篇小説。
あたたかな一皿が、誰かと食卓で分かちあう時間が、血となり肉となり人生を形づくることがある。料理人の父に反発し故郷を出た娘。意識の戻らない夫のために同じ料理を作り続ける妻。生きるための食事しか認めない家に育った青年。愛しあいながらすれ違う恋人たちの晩餐ー。4人の直木賞作家がヨーロッパの国々を訪れて描く、愛と味覚のアンソロジー。味わい深くいとおしい、珠玉の作品集。
仕事にも、妻の妊娠にも、どこか他人事のようにしかかかわれない僕。僕はどんな子供時代を過ごし、どんな女たちとかかわってきたのか。小学生の僕を怯えさせた音楽の清家先生、ストーカーまがいに追い求めた璃子、一度捨てたのに再び関係することになった昌、行きずりに知り合ったもうひとりの璃子、そして僕の骨を保管する女…。女を苛立たせながら女が途切れることのない櫻田哲生の不穏にして幸福な生涯。
夫の恋をもう許さないことに決めた妻。その夫と恋人の奇妙な旅。教え子との関係に溺れる教師。その教師の妻のあたらしい習慣。決して帰ってこない男を待つ女。その女が忘れられない別の男ーありふれた団地を舞台に、交わり、裏切り合う恋と運命。日常が孕む不穏な空気を、巧みに掬いあげた連作小説集。
十九歳、夏、陽光の中を笑い転げながら歩いている私たち。ハニーズ。はちみつたち。とくべつな四人。四十歳に近づいた今でも、私は「ハニーズ」と私の恋とを注意深く分けている。ふたつが混じりあわないように。結婚、離婚、家族、恋愛ー9篇の傑作を収録した魅惑の恋愛小説集。
地方営業に出かけたギタリストの夫に女の影を感じた妻が、隣家の男と営業先へと向かう表題作「夜を着る」、大人になりきれない男女のあてのないひと夜のドライブ「アナーキー」、父の葬儀に現れた愛人との奇妙な記憶を描く「よそのひとの夏」など八篇を収録。日常の皮膜が剥がれおちる旅をテーマにした短篇集。
初めてだった。男から、そんな目で見つめられたのはー。家族を置いて家を出た母が死んだ。葬式で母の恋人と出会った「私」は、男の視線につき動かされ、彼の家へ通い始める。男が作ったベーコンを食べたとき、強い衝動に襲われ…表題作ほか、人の心の奥にひそむ濃密な愛と官能を、食べることに絡めて描いた短編集。単行本未収録の「トナカイサラミ」を含む、胸にせまる10の物語。