著者 : 井上荒野
60代後半の江子、麻津子、郁子は、都内のちいさな商店街で「ここ家」という、お惣菜屋を営んでいる。 最愛の男性を亡くし悲しみを抱えつつも、にぎやかな江子、結婚して5年目の麻津子は、夫が最近よそよそしいと心配ばかり、息子も夫も早くに亡くした郁子は、ようやくひとり暮らしを楽しめるようになりーー 3人で、とびっきり美味しいお惣菜を作っているときが、最高に幸せ。 そんなある日「ここ家」の立ち退き問題がふってわき、さらには江子が結婚を申し込まれたりーー いろいろありながらも、前を向いて歩く彼女たちのたまらなく愛おしい物語。
開けたら最後。劇薬短編5話 彼女は私の親友で、私の男の母親……「私たちが轢かなかった鹿」 身ごもりたい女と、身ごもることを許されなかった女……「不幸の****」 不治の病を宣告された夫の心配と妻の気遣いの掛け違い……「犬の名前」 頭かペニスかーー家出した娘と愛人との間で揺れる男の天秤……「つまらない掛け時計」 大雪の日、老作家と元担当兼愛人が住む古民家へ迷い人が……「小説みたいなことは起こらない」 私たちが轢かなかった鹿 不幸の**** 犬の名前 つまらない掛け時計 小説みたいなことは起こらない
私はあの人と付き合うとるとよ。 あの人を好いとると。 そう言い残して、一人の女が姿を消した。 失踪したのか、死亡したのかーー。 圧倒的な「不在」がもたらす感情を炙り出す、 不穏でミステリアスな物語。 誰にでも自分だけの神様がいるのかもしれない。 だとすれば、その神様は私の味方であるはずだ。 東京から佐世保の和菓子店に嫁ぎ、娘を育てながら若女将として生きる、晶。誕生祝いの夜、夫から贈られたエルメスのバングルを手首に巻きながら、好きな人がいる、その人のところへ行くと告げ、いなくなった。残された夫・伸吾の怒りと嘆き、愛人・武藤の不審と自嘲、捨てられたと感じながら成長する娘・結生……。「不在」の12年間を、さまざまな視点から綴る長編小説。
著者23年ぶりの書き下ろし長篇恋愛小説 綾「私は初めて会った16年前から涼さんを愛し続けている」。涼「僕にかかわった者は、みんな死んでしまう。女も男も。僕が綾を愛しすぎているせいで」-- 音村綾(旧姓・上里)は30代半ば。現在は信州でペンション経営兼漫画家として活躍。夫・子ども・母と四人で暮している。 祥川涼。画家。40代後半。妻を失い、その後同棲していた女性とも別れ、現在は酒浸りの日々を送っている。 冒頭の「現在」では、綾のコミック発売記念サイン会のシーンの衝撃的事件から始まり、「1年前」「4年前」「8年前」「10年前」「12年前」「14年前」、そして二人が出会った「16年前」へと時をさかのぼり「現在」に戻る。謎とサスペンス、そしてストーカー小説の雰囲気も交えた〈究極の恋愛小説〉である。 この作品は、2001年に刊行された『もう切るわ』以来、23年ぶりの「書き下ろし」長篇!
「愛の行方」を書きながら、そもそも「愛」ってなんなのだろうとずっと考えていました。 自分にとって大切な小説になりました。 井上荒野 「姦通」していた男女が熊に殺されたーー。 閑静な別荘地で起きた事件は、愛に傷ついた管理人の男女と、6組の夫婦に何をもたらしたのか。 愛の行方の複雑さを描く傑作長編! 運命の人からきらわれたり捨てられたりすることもある。 「このふたりは姦通していた」何度読んでも笑ってしまう。まるで私宛の手紙みたいだ。 --小林七帆 伽倻子と七帆はひと続きなのか? 結局俺は、伽倻子を愛したときから、ずっと同じことをしているだけなのか? --小松原慎一 そりゃあそうよね。男と女のことなんて、全部間違いみたいなものよね。 --柊レイカ ふたりはとんでもなくうまくいっている、幸せな夫婦なのだから、相手の挙動の変化には敏感なのだ。みどりはアトリエに忍び込むことになった。そして知った。 --神戸みどり テントの外には熊が、人食い熊がいるのだ。だが純一は、再び愛の体に没頭する。そう、愛に没頭するのだ。 --野々山純一 装丁 大久保伸子 装画 杉本さなえ
〈「ホットプレートほしい人いませんか?」--或る日、或る食卓、9つの物語。〉 〈女も男も、子どもも大人も。誰にでも、感情を呼び起こす“食と道具”がある。〉 数々の「おいしい小説」を手掛けてきた著者が贈るーー“食にまつわる道具”を通して揺れ動く老若男女を描いた短編集。「今年のゼリーモールド」「ピザカッターは笑う」「コーヒーサーバーの冒険」「あのときの鉄鍋」「水餃子の机」「錆び釘探し」「ホットプレートと震度四」「さよなら、アクリルたわし」「焚いてるんだよ、薪ストーブ」の9篇を収録。
ひとは、「独り」から逃れられない。 著者史上最もグロテスクで怖い10の物語から成る、最高精度の小説集。 バイト先のコンビニに現れた女から、青年は「ある頼みごと」をされて──「ぴぴぴーズ」 男を溺れさせる、そんな自分の体にすがって生きるしかない女は──「みみず」 刺繍作家の女は、20年以上ともに暮らした夫の黒い過去を知ってしまい──「刺繍の本棚」 女たちは連れ立って、「ドクターF」と名乗る男との待ち合わせに向かうが──「錠剤F」 ……ほか、あなたの孤独を掘り起こす短編10作を収録! 【著者略歴】 井上荒野 (いのうえ・あれの) 1961年東京生まれ。成蹊大学文学部卒。89年「わたしのヌレエフ」で第1回フェミナ賞を受賞。2004年『潤一』で第11回島清恋愛文学賞を、08年『切羽へ』で第139回直木賞を、11年『そこへ行くな』で第6回中央公論文芸賞を、16年『赤へ』で第29回柴田錬三郎賞を、18年『その話は今日はやめておきましょう』で第35回織田作之助賞を受賞。その他、『あちらにいる鬼』『生皮 あるセクシャルハラスメントの光景』『小説家の一日』『照子と瑠衣』など著書多数。
「まだまだこれから、なんだってできるわよ、あたしたち」 照子と瑠衣。ともに七十歳。妻を見下す夫を捨て、 老人マンションの陰湿な人間関係を見限って、 女性ふたりの、逃避行の旅が始まったーー。 痛快で心震える、最高のシスターフッド小説! 「身勝手な女」と呼ばれたって一ミリも後悔なんかしないわ。 照子と瑠衣はともに七十歳。ふたりにはずっと我慢していたことがあった。照子は妻を使用人のように扱う夫に。瑠衣は老人マンションでの、陰湿な嫌がらせやつまらぬ派閥争いに。我慢の限界に達したある日、瑠衣は照子に助けを求める。親友からのSOSに、照子は車で瑠衣のもとに駆けつける。その足で照子が向かった先は彼女の自宅ではなく、長野の山奥だった。 新天地に来て、お金の心配を除き、ストレスのない暮らしを手に入れたふたり。照子と瑠衣は少しずつ自分の人生を取り戻していく。照子がこの地に来たのは、夫との暮らしを見限り、解放されるため。そしてもう一つ、照子には瑠衣に内緒の目的があったーー。
愛って何なのかな? 自分の幸せ以上に相手の幸せを願うことかなーー。大丈夫、会いたいと強く願えば、きっと会えるーー。黒いコートを着た背の高い彼は、大事な人を探しにここへ来ていた。海辺で、ピアノのそばで、病院で、列車の中で、湖のほとりで、彼は私たちをそっと守り、救ってくれた。大ヒットドラマ「愛の不時着」に心奪われた著者による熱いオマージュの込められたラブストーリー9篇。
二十五年ぶりに父親が戻ってきた。イタリア人の若い女と恋仲になり、家族を捨てて出ていった男が。娘たちは大人になり、妻にはすでに恋人がいるというのに。家族とは。夫婦とは。愛を問い直す長編小説。
この扉の向こうに、秘密を抱えた旅人たちがいる。豪華寝台列車「ななつ星」の旅から生まれた5編の物語と2つの随想。ゆっくりと流れる時間の中、人は、それまで口にしたことのない言葉を語りだす。
「ママナラナイわね、お互いに」斉藤尚弥は不動産会社に勤務する三十六歳。近頃、何もかもうまくいかない。男性器も心も折れてしまい、おまけに仕事も絶不調ー通称“川の家”と呼ばれる高台にある家に住む、夫婦への立ち退き交渉が難航していたのだ。夫人によれば、立ち退きを強く拒否しているのは夫の方らしいのだが…。夫人の協力を得て交渉を続けるうちに、やがて思いもよらない事実が判明しー(表題作)。この世に生を享け、大人になり、やがて老いるまでーままならぬ心と体を描いた美しくも不穏な、極上の10の物語。
愛する夫を喪った女と、夫が大嫌いになった女。 「夫を亡くした女だと、彼には言わないで」 「私が忘れないかぎり、あなたはいるのよ」(実日子) 「私はこの男にほんの少し欲情している」 「夫が死んでほしいと思っているの」(まり) おいしい料理教室を舞台にしたふたりの“妻”の孤独と冒険の物語
妻が〈殺人者〉と知ったとき、 穏やかな日常がサスペンスに変わる 東京での暮らしをたたみ、「島」に移住した 70代の夫婦と、友人の小説家 それぞれの秘密、それぞれの疑惑が あやしく溶け合うなかで 〈真実〉が徐々に姿を見せていく 人は、自分にだって嘘をつくーー 読み終えたときに立ち上がる、思いがけない光景に息を?む 傑作長編小説
有夢と瑤子と海は幼馴染みの仲良し三人組。中学の合格祝いに買ってもらった自転車もお揃い、大好きなミュージシャンも同じリンド・リンディ。川沿いの街でずっと同じ風景を見ていくはずだった。だけどー。傷ついて、裏切って、追い詰められて…。大人には見えない、少女たちの孤独な魂にそっと寄り添う物語。
母が住み込みで管理人兼料理人を務める藤田一家の別荘を訪れた昌。一家と昌母娘の団らんはいつもの光景だったがこの夏は少し違っていた。十九年前にこの別荘で起こった事故の真相を昌が知ってしまったからだ。昌は一家に知られないようにふるまうが…(「時計」より)。ふいに浮かび上がる「死」の気配。そのとき炙り出される人間の姿とはー。直木賞作家が描く、傑作短編集。
夫に支配される人気作家・柚。先が見えない三流大学三回生の航大。二人はひょんなことから「綴り人の会」というサイトを介して、文通をはじめる。柚は「夫にDVを受けている専業主婦」を装い、航大は「エリート商社マン」だと偽ってー。便箋の上に書かれた偽りが、いつしか真実を孕んで、二人をくるわせていく。掻き立てられた情動が、やがて越えてはならない一線を踏み越えさせて…。緊迫の恋愛サスペンス!
小説家の父、美しい母、そして瀬戸内寂聴をモデルに、“書くこと”と情愛によって貫かれた三人の“特別な関係”を長女である著者が描き切る、正真正銘の問題作。作家生活30周年記念作品。