著者 : 佐伯泰英
飛鳥山の菊屋敷で、剣術家が独り稽古を続けていた。いくつもの死地を乗り越えた疵を負いながら、どこか清らかにして爽やかな印象を与える不思議な青年ー昇平が盗み見たのは、五年ぶりに帰着した金杉清之助の泰然たる姿だった。剣術大試合開催まで十日余り。その出場権を奪うべく、惣三郎と神保桂次郎は、尾張柳生の剣術家二人を追って中山道をひた走っていた。
文政二年(1819)秋、野分(台風)一過。久慈屋の大番頭・観右衛門に誘われ、隅田川沿いの須崎村に赴いた小籐次。竹林に囲まれた絶景の地に建つ数寄屋こそ、久慈屋がおりょうに用意した住まいだった。おりょうの新生活のため奔走する小籐次。だが野分のさなかに直面した、千枚通しを用いた殺し事件も急展開を告げていた…。
当代随一の女形・五代目岩井半四郎と知り合い、再三、芝居への招きを受けていた小籐次。断り切れずついに承諾、しかも、おりょうも同道することにー。いつになく華やいだ気分の小籐次だが、平穏な日々がそうそう続くはずもなかった。久慈屋に気がかりな事態が出来。加えて、御鑓拝借の因縁に、再び火がついたのである…。
当代の豊島屋十右衛門の祝言が近づき、京からの花嫁ご一行を鎌倉河岸の皆々は首を長くして待っていた。そんな折、政次は同心の寺坂より、女剣術家の永塚小夜どのが政次に会いたがっているらしいと聞かされる。どうやら小夜にも見合い話があるというーー。十右衛門の祝言は無事に行われるのか? そして小夜にも幸せが訪れるのか!? 新入りの勘三郎、若親分の政次、いぶし銀の宗五郎……など金座裏が今回も大活躍。平成の大ベストセラー、記念碑的な第三十弾。
想い人おりょうとの仲に新たな進展を得た小籐次。だが、そんな日々にも、自らを見張る鋭い視線を感じていた。そして現れた“偽小籐次”。今や江戸の有名人となった赤目小籐次の名を騙り、研ぎ仕事を請け負い法外な研ぎ料を請求するー。跳梁はそれだけにとどまらなかった。もはや真偽小籐次の対決は不可避か。緊迫の第11弾!
文政二年仲夏。小籐次にとって商いの師である野菜売りのうづが、いつもの蛤町の船着場に三日も姿を見せない。うづの在所に様子を見に行った小籐次は、彼女に縁談が持ち上がっていることを知る。が、その相手、危険な取り巻きを抱える、なんとも厄介な男。縁談を嫌がるうづは窮地に陥っていた。小籐次は恩人うづを救えるかー?
幼馴染の汀女とともに故郷の豊後岡藩を出奔し、江戸・吉原に流れ着いた神守幹次郎は、剣の腕を見込まれ、廓の用心棒「吉原裏同心」となった。時は流れ、花魁・薄墨太夫が自由の身となり、幹次郎は汀女、薄墨改め加門麻との三人で新しい生活を始める。幼い頃に母と訪ねた鎌倉を再訪したいと願う麻に応え、幹次郎らは鎌倉へ向かう。旅からはじまる新しい物語、開幕。
上覧剣術大試合開催を知るや、佐渡を出立して越後に修行の場を移した清之助は、長岡へ向かう途次、討手に追われる姉弟と出会う。彼女らは村上藩の内紛を報せる密書を父に託され、江戸に向かう道中だという。次々に押し寄せる刺客を迎え撃った清之助は、姉弟を江戸に送り届けるべく、策を巡らす。その春、江戸では惣三郎の驚くべき宣言が、一同を当惑させていた!
落馬で腰を痛め、息子との立ち合いでは不覚を取る。老いを痛感する小籐次だが、熱海での湯治を経て復調、その剣は一段と深みを増した。そんな中起きた年末の火事騒ぎ。二人の遺体と消えた娘。老中の密偵、おしんに乞われ娘探索に加わった小籐次を、八代吉宗にまで遡る怨念と暗闘が待ち構えていた。緊迫の書き下ろし第7弾!
ほの明かり久慈行灯の製作指南と、手代の浩介の婿入りが決まったことを報告するため、小籐次は久慈屋の面々と水戸に向け旅立った。だが密かに主の座を狙っていた古参の番頭・泉蔵が激しく反発し、一行を襲おうと画策する。一方、金座に押し込んだ賊が水戸街道に逃げ込んだという。たび重なる危難に小籐次はどう立ち向かうのか。
直心影流の達人坂崎磐音の嫡子空也は十六歳で武者修行の旅に出た。向かったのは他国者を受け入れない“異国”薩摩。そこに待ち受けるのは精霊棲まう山嶺と、国境を支配する無法集団の外城衆徒。空也は名を捨て、己に無言の行を課して薩摩国境を目指す。出会い、試練、宿敵との戦い…若武者の成長を描いた著者渾身の青春時代小説が登場。
瀕死の状態で薩摩入りを果たした坂崎空也は前薩摩藩主島津重豪の御側御用を務めた渋谷重兼と孫娘の眉月に命を救われる。再起した空也は、野太刀流の薬丸新蔵と切磋琢磨して薩摩剣法を極めていく。そんな中、空也を付け狙う外城衆徒が再びその姿を現した。試練に立ち向かう若者の成長を描いた著者渾身の書き下ろし青春時代小説。
百万石の栄華も今は昔。財政難に喘ぐ加賀藩では、大半の者が大槻伝蔵による藩政改革を歓迎しつつも、その強引なやり口からは目を背けていた。金沢城下を訪れた清之助の前にも、金十両で雇われた刺客関左兵衛が現われる。誰の差し金なのか?一瞬の斬り合いを制した清之助は、関の遺言に従い、十両を菩提寺の墓前に届けるべく、一路高岡を目指すのだが…。
小籐次の想い人おりょうに持ち上がった、二千四百石の高家・畠山頼近との縁談。おりょうは不安と不審を小籐次に吐露する。複雑な胸中を押し殺し、頼近についての調査を約する小籐次。次第に明らかになっていく意外な事実。そんな中、おりょうが手紙を残し、失踪したー。背後に蠢くものは何なのか。小籐次の孫六兼元、一閃!
拉致された九条文女の行方は杳として知れず、焦る総兵衛は意を決し、江戸城への潜入を試みる。また、北郷陰吉らの探索によって、異国の仮面兵と老中牧野忠精の関係が見えてきた。文女救出劇は老中牧野との闘争へと変わり、仮面兵との全面対決に発展。ついにイマサカ号とマードレ・デ・デウス号が駿河湾で激突する。敵船甲板上、女首領が構えた銃口は総兵衛一人に狙いを定めていた。
若狭小浜城下から敦賀へと向かう若狭路。道中、騎馬軍団海天狗の乱暴狼藉を目の当たりにした金杉清之助は、南蛮兜の首領を船上の決闘で討ち果たした後、鯖江城下から永平寺へと足を運ぶ。武者修行に出て三年と四月。「血と怨念に穢れた身を浄め、初心に戻りたくなるときがございます」と申し出た若武者は、食を断ち、暗黒の岩穴に篭もる「三十三日闇参籠」に挑む。
子連れの刺客、須藤平八郎を討ち果たし、約定によりその赤子、駿太郎を引き取ることになった赤目小籐次。長屋の隣人や久慈屋らに助けられ、また少々不安がられつつも“子育て”に励む小籐次だったが、そこに駿太郎の母親と称する者の影が見え隠れし始める…。日々駿太郎への父親としての情愛を育みつつある小籐次の決断は?
一年に及ぶ柳生逗留を終え、惣三郎と結衣が江戸に帰ってきた。しのと結衣は抱き合って再会を喜ぶ。惣三郎は皆に飛鳥山菊屋敷での静養を薦められ、すぐにも精出して働きたいと渋るが、人々の厚意を受けることにした。息子や娘、弟子の成長を見るにつけ、自らの老後に想いを馳せる惣三郎。そんな折、近隣の「烏鷺荘」に引っ越してきた老人が、惣三郎を囲碁に誘うが…。