著者 : 内海隆一郎
昭和十五年。統制令により燃料が軍需主体へと移行しつつあった。岡村寛次郎は、代替燃料として有望な亜炭層が発見された岩手県南部で鉱山開発に着手する。現地で補佐するのは、寡黙だが義に厚い佐忠だった。地元土建業者との確執、外国人鉱夫への嫌がらせ、落盤事故、特高警察の追及…岡村たちに次々と困難が降りかかる。不安な時代を懸命に誠実に生きる男たちの感動物語。
江戸深川の仕出し料理屋・立花屋で事件が起きた。下働きの少年・元吉の過去と、何か関係があるらしい。元吉は青物商の伜で、付け火により親兄弟をすべて失い、与七のもとで働いていた。神田多町の青物市場で、探していた人物を見かけた元吉、それを知った与七は…。人情の機微をテーマに様々な作品をものしてきた内海隆一郎が、料理を彩りに添えつつ描き出した、初の長編時代ミステリー。
奥州街道沿い、旧伊達領の北の外れにある、小さな城下町岩井。ここに鉄道が敷かれるという見通しを得た上村屋旅館の若旦那菊乃は、停車場の建設予定地と予測した吸川の埋め立て工事を請け負うよう、父の万治を説得した…。明治初期から大正末年にかけて描かれる、菊乃を中心とした岩井の町の人間模様。人々の絆が町を発展させ、町が人を育んでいく。しみじみと心に響く、傑作長篇小説。
大正三年の夏、誠吾は旅芸人の食客だった父につれられ東北の小さな町、岩井へやって来た。父を失ってからは町の俥屋「徳茂」で人力車をひきながら、たったひとりの妹と手に手をとって生きてきた。芝居小屋の脇に聳える相生の槇の巨木が、いつもふたりを見守るように梢を揺らしている…。遠くに軍靴の足音が聞こえはじめた昭和初年。平穏だったこの町にも、物騒な事件の波が押し寄せて来た…。素朴な日々の暮らしに息ずく温かい心の交歓を、郷愁豊かに綴る長篇小説。
家族も友人も棄てて、親友が突然消息を絶った。彼から届いた10枚の葉書には、風景画のほか何も記されていない。この風景をたどれば、あいつの居場所がわかるかもしれない-そんな思いに駆られ北海道へ来た男の、風景を探す旅が始まった。著者が初めて挑む、吹きわたる風のような長編ミステリー。