著者 : 北原亞以子
化土ーそれは積み上げた先から崩れ落ちる土のこと。崖下にたまる化土は、淀んだ政治とそこにどっぷり浸かった役人たちの象徴だ。そんな化土にからめとられ、殺された男がいた。老中・水野忠邦配下で天保の改革推進派の幕臣・栗橋伊織である。故あって廃嫡されていた伊織の兄は、かつての想い女だった弟の妻・花重とともに、敵を追いかけ、印旛沼に向かうが…。時代小説の名手が紡ぎ出す感動の人間ドラマ。
自らの心に巣くう鬼をねじ伏せ、涙に暮れる弱き者らを情けで支える元腕利き同心・森口慶次郎。最愛の娘の死が与えた底知れぬ葛藤と哀しみを経て「仏の慶次郎」を生み出した記念碑的名編「その夜の雪」を始め、名作「峠」などシリーズ全十七作品から名うての読み手が傑作を精選。テレビドラマ版を彩った名優のインタビューや全作品解題も交え、この一冊で「慶次郎縁側日記」の世界に浸る特別編。
北条氏政の下総国関宿侵攻から八年。悪夢のような焼き討ちを生き延びた、塩商人蔵次の娘・あぐりに、婿取りの話が持ち上がっていた。相手は、父の店を手伝っている仲助。だが父たちの意をよそに、あぐりは、兄のように慕う伍平太に一途な想いを秘めていた。直後、関宿に再び北条氏との戦が忍び寄る。侍となって戦う決意をする伍平太に、あぐりは自らの想いを伝えるが…。戦国の世を力強く生きる女性たちを描いた傑作長篇。
根岸の酒問屋に寮番の身で隠居する森口慶次郎のもとには、今日も様々な事件が持ち込まれる。かつて「仏」と呼ばれた腕利き定町廻り同心は、最愛の娘を不幸な事件で亡くした傷を心に隠し、今日も江戸の市井の人々の苦しみに耳を傾け、解決のみちすじをさりげなく示すのだった。そんな慶次郎の元に、婿養子の晃之助が急襲されたとの一報が届くが…。畢生の傑作シリーズ、ついに最終巻!
江戸に駆け落ちしてきた男と女。掏摸にあい、公事師に騙されたあげく、妓楼の女主人に買われた三次。「おらも、あとから逃げる」という言葉を信じて彼を待ち続けたおとせ。十年後、三次と再会したものの、料理屋の主人となったおとせの心はなぜか揺れる…。(「恋情の果て」より)身悶えするほどの恋着、嫉妬、見栄、欲望ー熱く静かに心震わせる女たちを描く時代小説短編集。
不意にさしかけられた傘の下で、男の優しさにずっと浸っていたかったー。大店の跡取り息子に尽くし抜いて捨てられた長屋娘と、娘の悲しみを見つめるもうひとりの男の目。男女のやるせなさに心震える「雨の底」。密かに持ち込まれた商家夫婦への不可解な脅迫文が、隠居暮らしの慶次郎を、愛憎渦巻く事件の暗がりへ再び導く「横たわるもの」ほか、円熟の筆が紡ぎだす江戸人情七景。
夫に先立たれた女の胸に去来する、若き日に泣く泣く別れた男の面影(表題作)。凶作続きで餓死者も出ている甲州の村。百姓代の決断は(「犬目の兵助」)。異国船の来襲に、愛するものを残し長崎警護へと向かう下級武士の悲話(「捨足軽」)。晩年の五篇と幻の直木賞受賞第一作。全作書籍未収録の文庫オリジナル。
秀吉への貢ぎ物としてポルトガルから渡来したぎやまんの手鏡が映す物語は江戸時代の後半へ。八代将軍吉宗と尾張藩主宗春との確執から、田沼意次、平賀源内、最上徳内、シーボルト、そして黒船来航から新撰組や彰義隊の闘いへと移り、江戸は終焉を迎える。十年に渡って書き継がれた歴史絵巻がついに完結。
秀吉への貢ぎ物としてポルトガルから渡来したぎやまんの手鏡。於祢、淀君、お江、さらには尾形光琳や赤穂義士らの手を経めぐり、豊臣政権末期から江戸時代に生きた人々の心模様を写し出していくー。著者の遺作となった華麗な歴史絵巻を、文庫化にあたり単行本未収録作品も加えて二分冊でお届けする。
江戸・深川澪通りの木戸番小屋に住まう夫婦、笑兵衛とお捨。二人のもとには、困難な人生に苦しみ、挫けそうな心を抱えた人々が、日々訪れる。傷ついた心にそっと寄り添い、ふんわりと包み込む。その温かさに癒され、誰もが生きる力を取り戻していく。人生の機微をこまやかに描く、大人気シリーズの最終巻!
江戸の華やぎは悪への入り口か。表具師の親方に付いて仕事を学び、孤児の身の上から腕を磨いて、ついに憧れの江戸で働く機会を手にした亮太。目も眩むばかりの町の賑わいに心踊ったのもつかの間、大切な紹介状と財布のあり金が亮太から消えた。夢を食い物にする奴らから若者を守るため、僅かな手がかりを追って元同心・慶次郎は起つ。江戸の哀歓を今に伝える珠玉のシリーズ最新刊!
泥棒長屋に流れ着いた老婆の悲しみが、出世にとことん無欲だった若き慶次郎の思いと交わる表題作「あした」。無精な夫を捨てた、髪結い妻の思わぬ本音を描く「春惜しむ」。内緒の逢瀬を重ねてはらんだ娘が、未来ある思い人を必死に庇う「むこうみず」など、円熟の筆致が香り立つ江戸の哀歓十景。慶次郎への尽きぬ思いを語る、生前最後の著者談話も収録した、人気シリーズ第13弾!
流れる川音に包まれた江戸・深川澪通りの木戸番小屋に住む笑兵衛とお捨の夫婦。押しつぶされそうな暮らしを嘆き、ままならない運命に向き合い、挫けそうな心を抱えた人々が、今日もふたりのもとを訪れる。さりげないやさしさに、誰もが心の張りを取り戻していく。人生の機微を端正な文章で描く傑作時代短篇集。
無謀にも将軍綱吉に衣装自慢を仕掛けた豪商の石川屋六兵衛とその妻およし。危ないと知りつつ幕府批判の風刺画を引き受けた人気浮世絵師の歌川国芳。曰くつきの家を買った平賀源内が起こした殺傷事件の顛末。時代の風潮に反発し、心の赴くままに意地を貫き、破滅をも恐れない風狂な人々を描いた七作の短篇集。女流文学賞受賞作品。
夫婦の気持ちのすれ違いを巧みに描いた「冬隣」、江戸に出てきた若い百姓が商人として成功した後に大きなものを失ったことに気づく表題作「あんちゃん」など、江戸を舞台にしながら、現代にも通じる深いテーマの数々を、時代小説の名手が描ききる。冷えた心に、ほんのりと明かりを灯す、珠玉の全七話。
お町が番附売りの周二と出会ったのは霞ヶ関の坂道だった。男振りのいい周二から過去の話を打ち明けられたお町はいつしか恋心を抱いた。だが周二の話にはたった一つ、ついてはならない嘘があったー表題作のほか、江戸の喧騒の中を懸命に生きる七人の女たちの営みなどを艶やかな筆で描く著者会心の短編集。
江戸の片すみ・澪通りの木戸番小屋に住む笑兵衛とお捨。心やさしい夫婦のもとを、痛みをかかえた人たちが次々と訪れる。借金のかたに嫁いだ女、命を救ってくれた若者を死なせてしまった老婆、捨てた娘を取り戻そうとする男…。彼らの心に温かいものが戻ってくる物語全8作。第39回吉川英治文学賞受賞作。
維新後も龍馬の妻として生きたお龍。三味線を抱いて高杉晋作の墓守を続けるうのー。幕末動乱の時代に、駆け抜けるように死んでいった志士を愛してしまった女たち。新しい時代にとけ込めず、世間から逃げるように生活する女たちの胸の中に生き続ける男の姿。その想い出が鮮烈であるがゆえに悶え苦しむ女たちの悲しい物語。