著者 : 古処誠二
インパール作戦で敗軍収容任務についた北原は、終戦後まもなく戦争犯罪に関する呼び出しを受ける。捕虜の処刑と民間人に対する虐待容疑ー。現れた語学将校の英人大尉は、偽りを述べたら殺すと言い放ち、腹を探るような問いを続ける。尋問を通して北原は、戦時中には分からなかった敵の事情を知り、友軍将兵の秘めたる心理を知り、やがて英人大尉がただの語学将校でないことを知る。
第二次世界大戦下、ビルマの山村地帯で兵站勤務に就く軍曹の西隈。現地の労務者をまとめてゆくなかで直面した、想定外の出来事ー。日本軍はペストの予防接種を進めようとするが、部落の長老は頑なに拒む。そんな長老に対し、軍医見習士官が演説を打つ。その内容は、ビルマ人にとってあまりに辛辣で不敬なものであったが…。「仏道に反して」。ビルマ人は労務でもロンジーをはく。肉体労働には適さない腰巻きのようなその衣服、そして長時間の昼寝。労務者から昼寝を取り上げようとする西隈に、部落長が放った言葉とは?「ロンジーの教え」。今を生きる私たちこそ、痛烈に胸を衝かれる五編。
退路を断たれた北ビルマでの戦いで、独歩患者は分進隊として切り離される。経験のとぼしい見習士官を付けられての転進中、イラワジ河で敵機に襲われ、九死に一生を得た森川上等兵。死に物狂いで泳ぎ着いた中州に漂着してきたのは、伍長の刺突遺体だった。自決か、他殺かー。腹を探り合う兵隊たちは、ゲリラに包囲された中州で籠城を余儀なくされ、ひとり、またひとりと命を落とす。息もできない閉塞感とサスペンスフルな展開。どうしようもなく感情を揺さぶられる驚天動地の戦場ミステリ!
戡定後のビルマの村に急拵えの警備隊として配属された賀川少尉一隊。しかし駐屯当日の夜、何者かの手で少尉に迷いのない一刀が振るわれる。敵性住民の存在が疑われるなか、徹底してその死は伏され、幾重にも糊塗されてゆくー。善悪の彼岸を跳び越えた殺人者の告白が読む者の心を掴んで離さない、戦争ミステリの金字塔!
敗戦間近のビルマ戦線にペスト囲い込みのため派遣された軍医・伊与田中尉。護衛の任に就いたわたしは、風采のあがらぬ怠惰な軍医に苛立ちを隠せずにいた。しかし、駐屯する部落で若者の脱走と中尉の誘拐事件が起こるに及んで事情は一変する。誰がスパイと通じていたのか。あの男はいったい何者だったのかー。一筋縄ではいかない人の心を緊迫状況の中に描き出し、世の不条理をあぶり出した戦争小説の傑作。
僕の祖父はビルマ戦の帰還兵で、口を開けば戦争中の自慢話だ。自分が率いたのは世界最強分隊だったと誇り、現地の娘にモテたことなども得意満面に語る。何百回と繰り返される話だが、聞かないと鉄槌が下るのだ。だが、その祖父が入院し、うわごとで信じられない言葉を呟く…。たっぷり笑えて、時にハッと胸を衝かれる、男ばかり三代、ある一家の日々を描く。書店員さんが惚れこんで、弘栄堂ベスト2013大賞受賞!
飢えとマラリア、過酷な山越えのための想像を絶する疲労の中、困難な道を進む兵隊たち。摩耗する心と体。俺はこのニューギニアの地に捨てて行かれるのかー。味方同士で疑心暗鬼に陥る隊では不信が不正を招き、不正が荒廃をはびこらせる。そんな極限状態で人間が人間らしくあることは果たして可能なのか。第二次大戦の兵站線上から名もなき兵隊たちの人間ドラマを冷徹なリアリズムであぶりだす。
東シナ海に浮かぶ伊栗島に駐屯する自衛隊の基地で、訓練中に小銃が紛失した。前代未聞の大事件を秘密裡に解決する任務を負い、防衛部調査班の朝香二尉とパートナーの野上三曹が派遣される。通信回線というむき出しの「神経」を、限られた人員で守り続ける隊員達の日常。閉鎖的な島に潜む真犯人、そして真実はどこに。
1944年6月、多くの民間人を抱えたままサイパン島は戦火に包まれた。日系二世の「ショーティ」は、アメリカ軍の一員として上陸した語学兵のひとりだった。忠誠登録を経て帰属国家を示した彼は、捕虜となって帰属国家を見失う日本人と接し、その複雑な心理を目の当たりにする。捕虜の禁忌に縛られ、不義の罪悪に懊悩する人々にあるのは、いつの世にも通じ、いずれの国にも通じる、社会の構図だった。
実務に追われる日赤救護看護婦を手伝っていた現地のビルマ人看護婦が全員解雇された。英印軍の攻勢により、ラングーンの兵站病院に撤退命令が出されたのだ。約三〇〇キロの道を歩いていく看護婦、傷痍兵、在留邦人、そして、ビルマ人。さまざまな偽りを胸に進む、撤退道の先にはー。
自衛隊は隊員に存在意義を見失わせる「軍隊」だった。訓練の意味は何か。組織の目標は何か。誰もが越えねばならないその壁を前にしていた一人の若い隊員は、隊長室から発見された盗聴器に初めて明確な「敵」を実感する…。自衛隊という閉鎖空間をユーモラスに描き第14回メフィスト賞を受賞したデビュー作。
あれは事故死なんかじゃない。親友の死に同級生・相良優は不審を抱く。城戸ら不良グループが関与しているはずだ、と。葬儀当日ー担任教師の車で、相良・城戸を含む同級生6名が式場へ向う途中、大地震が発生!一行は崩落した地下駐車場に閉じこめられてしまう。密室化した暗闇、やがて見つかる城戸の死体…。極限状況下の高校生たちに何が起きたのか。
桜の花の咲く頃に出会うはずのない二人が接近した…。凄惨な時代に翻弄された十一歳の少年。歪みを知らない信念が守り通そうとしたものは何だったのか。極限状況の“沖縄”を研ぎ澄まされた筆致で描く、話題の長編小説。