著者 : 吉川一義
『失われた時を求めて』は幾重もの謎に包まれている。──長篇はいかに誕生したのか? 対比されているのはスワン家とゲルマント家なのか? ヒロイン・アルベルチーヌはなぜ捉えどころがないのか? 「私」という一人称の仕掛けとは?──小説と批評を総合した希有なる作品の隠された構造を、草稿研究の先駆者が精緻に読み解く。 まえがき 第一部 大長篇誕生の謎 第一章 まぼろしの初稿の発見──「七十五枚の草稿」を読む 第二章 小説と批評の総合──『サント=ブーヴに反論する』の未完の構想 第三章 増殖する長篇──終わりなき加筆をたどる コラム1 レオニ叔母の「椎骨」──ジッドによる出版拒否 第二部 作品の構造をめぐる謎 第四章 社交界に君臨する人びと──貴族・ブルジョワ・ユダヤ人 第五章 ジュヌヴィエーヴ・ド・ブラバンの幻灯──コンブレーとゲルマントをつなぐ伝説 第六章 画家ベノッツォ・ゴッツォリ──「コンブレー」から『囚われの女』への四極構造 コラム2 フロイトの時代──スワンの「夢」を分析する 第三部 芸術と芸術家をめぐる謎 第七章 キク、乃木将軍、浮世絵、水中花──ジャポニスムへのまなざし 第八章 ギリシャの彫刻とエジプトのミイラ──偶像崇拝と分身について 第九章 作中の芸術家たち──エルスチールを中心に コラム3 厳寒のパリにプルーストとモローを訪ねる 第四部 恋心と性愛をめぐる謎 第十章 情熱と冷静──恋心を語る自由間接話法 第十一章 ジッドとプルーストの対話──『コリドン』から『ソドムとゴモラ』へ 第十二章 「サディストは悪の芸術家である」──ヴァントゥイユ嬢の純粋さ コラム4 ニジンスキーの跳躍──作家の見たバレエ・リュス 第五部 作家の方法をめぐる謎 第十三章 パリの物売りの声──フィクションか批評か 第十四章 ゴンクール兄弟の「未発表の日記」──文体模写とフェティシズム 第十五章 第一次大戦下のパリ──反リアリズムの方法 コラム5 プルーストの墓(二〇二二) 終 章 深まる謎コラム 『失われた時を求めて』の梗概 初出一覧 あとがき 注 参考文献一覧 図版出典一覧 人名索引
繊細複雑な文章と、その長さで文学史にそびえ立つ『失われた時を求めて』。岩波文庫版を全訳した編者が、生と死/愛と性/認識と忘却など、八つのテーマで選び抜いた断章は、あらすじを知らずとも、どの頁からでも気軽に楽しめる。人間と社会の深層をえぐる箴言と散文詩のような珠玉の文章には、世界の見方を一新する言葉が煌めく。 はじめに 『失われた時を求めて』の全巻構成/主な登場人物/主な架空地名 1 生と死 人生とは 眠り 病気と医学 老いと死 来世 2 家族と友人 親子と夫婦 人間の長所と短所 友情 噓 3 愛と性 恋の発端 乙女たちへの憧れ 恋するとは 恋の対象 性愛 嫉妬 愛の喪失と忘却 同性愛(ソドムとゴモラ) 4 社交界・戦争・先端技術 社会・社交界 政治・外交 戦争 電話・写真・乗り物 5 花鳥風月 天気と自然 さまざまな花 鳥 6 音・匂い・名 物音 匂い 美食の愉しみ 名と夢想 教会 7 認識と忘却 知覚とイメージ 夢 確信・想いこみ 記憶 忘却 よみがえる過去 無数の自我 時間 空間 8 文学と芸術 教養 文学と作家 芸術と芸術家 読者 批評 おわりに 図版一覧
『失われた時を求めて』の冒頭部「コンブレー」を取り上げ、プルースト的生成を鮮やかに開示する。登場人物たちの思いがけない造形過程やいくつものテーマ系の細部から壮大な全体へと及んでゆく。プルーストを読む醍醐味を伝える。
長い療養生活を経て,ゲルマント大公邸のパーティーに赴いた「私」は驚愕した.時は,人びとの外見を変え,記憶を風化させ,社交界の勢力図を一新していた.老いを痛感する「私」の前に,サン=ルーの娘はあたかも歳月の結晶のように現れ,いまこそ「作品」に取りかかるときだと迫る.全巻の人名・地名・作品名を網羅した索引を付す.(全14冊完結) 凡 例 『失われた時を求めて』の全巻構成 本巻について 本巻の主な登場人物 地図(一九二〇年代のフランスとその周辺/一九二〇年代のパリとその郊外) 第七篇 見出された時 2 場面索引 訳者あとがき(十四) 『失われた時を求めて』以外のプルーストの文献一覧 プレイヤッド版との異同一覧 図版一覧 総索引(人名/地名/作品名)……………津森圭一編 【『失われた時を求めて』の全巻構成】 第一篇 スワン家のほうへ コンブレー(以上,本文庫第一巻) スワンの恋 土地の名─名(以上,第二巻) 第二篇 花咲く乙女たちのかげに スワン夫人をめぐって(以上,第三巻) 土地の名─土地(以上,第四巻) 第三篇 ゲルマントのほう 一 二(以上,第五,六,七巻) 第四篇 ソドムとゴモラ 一 二(以上,第八,九巻) 第五篇 囚われの女(以上,第一〇,一一巻) 第六篇 消え去ったアルベルチーヌ(以上,第一二巻) 第七篇 見出された時(以上,第一三,一四巻)
懐かしのタンソンヴィル再訪が明かす、幼年時代の秘密。数年後、第一次大戦さなかのパリでも、時間は、容赦なく人びとと社会とを変貌させる。新興サロンの台頭、サン=ルーの出征、「破廉恥の殿堂」での一夜……。過去と現在、夢と現実が乖離し混淆するなかで、それを見つめる「私」に、文学についてのある啓示が訪れる。(全14冊) 凡 例 『失われた時を求めて』の全巻構成 本巻について 本巻の主な登場人物 地図(一九一〇年前後のフランスとその周辺/一九一〇年前後のパリ) 第七篇 見出された時 1 場面索引 訳者あとがき(十三) プレイヤッド版との異同一覧 図版一覧 【『失われた時を求めて』の全巻構成】 第一篇 スワン家のほうへ コンブレー(以上,本文庫第一巻) スワンの恋 土地の名─名(以上,第二巻) 第二篇 花咲く乙女たちのかげに スワン夫人をめぐって(以上,第三巻) 土地の名─土地(以上,第四巻) 第三篇 ゲルマントのほう 一 二(以上,第五,六,七巻) 第四篇 ソドムとゴモラ 一 二(以上,第八,九巻) 第五篇 囚われの女(以上,第一〇,一一巻) 第六篇 消え去ったアルベルチーヌ(以上,第一二巻) 第七篇 見出された時(以上,第一三,一四巻)
アルベルチーヌの突然の出奔、続く事故死の報。なぜ出ていったのか、女たちを愛したからか?疑惑と後悔に悶える「私」は「真実」を暴こうと狂奔する。苦痛が無関心に変わるころ、初恋のジルベルトに再会し、その境遇の変転と念願のヴェネツィア旅行に深い感慨を覚える。
ヴェルデュラン邸での比類なきコンサートを背景にした人間模様。スワンの死をめぐる感慨、知られざる傑作が開示する芸術の意味、大貴族の傲慢とブルジョワ夫妻の報復。「私」は恋人への疑念と断ち切れぬ恋慕に苦しむが、ある日そのアルベルチーヌは失踪する。
ヴェルデュラン夫妻が借りた海を見下ろす別荘と、そこへ向かう小鉄道で展開される一夏の人間喜劇。美貌の青年モレルに寄せるシャルリュス氏の恋心はうわさを呼び、「私」の恋人アルベルチーヌをめぐる同性愛の疑惑は思わぬ展開を見せる。
悪徳と罪業の都市ソドムとゴモラ。本篇に入り、同性愛のテーマがいよいよ本格的に展開される。不意によみがえる死んだ祖母への想い。祖母を失った悲しみの感情に「私」は突然とらえられる(「心の間歇」)。「私」はアルベルチーヌに同性愛の疑いをいだくが…。(全14冊)
『失われた時を求めて』の冒頭部「コンブレー」を取り上げ、主人公の眠れぬ夜の時間意識、登場人物たちの思いがけない造形過程、サンザシの匂いや色彩などの相を精細に読み解く。細部から壮大な全体へと及んでゆく精妙なプルースト的生成を、長年の研究蓄積を踏まえて鮮やかに開示する。岩波文庫版『失われた時を求めて』の個人全訳に取り組む著者による最良のプルースト入門。
冬に向かうパリ、「私」をめぐる景色は移ろうー「花咲く乙女」とベッドで寄り添い、人妻との逢い引きの夢破れ、ゲルマント夫人の晩餐には招待される。上流社交界の実態、シャルリュス男爵の謎、予告されるスワンの死…。人間関係の機微を鋭く描く第七巻。
祖母の旧友ヴィルパリジ夫人のサロンで、「私」はゲルマント公爵夫人とついに同席。芸術、噂話、ドレフュス事件など、社交界の会話の優雅な空疎さを知る。家では祖母の体調が悪化。母、医師、女中に見守られ、死は「祖母をうら若い乙女のすがたで横たえる」。
パリのゲルマント館の一翼に引っ越した一家。家主の公爵夫人は神秘の輝きを放つ貴婦人。その威光にオペラ座で触れた「私」は、コンブレー以来の夢想をふくらませ、夫人の甥のサン=ルーを兵営に訪問、しだいに「ゲルマンのほう」へ引き寄せられる。
社交界の寵児スワンと、粋筋の女オデット。追う女/追われる男の立場はいつしか逆転し、男は年下の恋人への猜疑と嫉妬に日夜悶える(スワンの恋)。ジルベルトは二人の娘、幼い「私」はシャンゼリゼで見たこの少女に思慕を捧げる(土地の名ー名)。-二つの恋の回想。
ひとかけらのマドレーヌを口にしたとたん全身につたわる歓びの戦慄ー記憶の水中花が開き浮かびあがる、サンザシの香り、鐘の音、コンブレーでの幼い日々。重層する世界の奥へいざなう、精確清新な訳文。プルーストが目にした当時の図版を多数収録。
『失われた時を求めて』の冒頭部「コンブレー」を取り上げ、主人公の不眠の夜と作品内部の時間、登場人物たちの形成に至る思いがけないプロセス、相貌を変えてゆく田舎町イリエ、また名高いサンザシの匂いや色彩などのアスペクト精細に読み解く。細部から壮大な全体へと及んでゆく精妙なプルースト的生成を、近年の研究の蓄積を踏まえて鮮やかに開示する。いまプルーストを読む醍醐味をこの一冊に伝える。