著者 : 吉川凪
田舎の獣医キム・ビョンスの裏の顔は、冷徹な殺人犯だった。現在は引退して古典や経典に親しみ詩を書きながら平穏な日々を送る彼には、認知症の兆候が現れ始めている。そんな時、偶然出会った男が連続殺人犯だと直感し、次の狙いが愛娘のウニだと確信したビョンスは、混濁していく記憶力と格闘しながら人生最後の殺人を企てるー。虚と実のあわいをさまよう記憶に翻弄される人間を描いた長編ミステリー小説の傑作。映画原作小説。
崔致修殺害事件は関わった者たちの処刑で幕を下ろした。平穏を取り戻そうとしていた平沙里は干ばつに襲われ、崔参判家の財産を狙う没落両班の趙俊九は妻子を連れて乗り込んできた。災厄は続く。コレラの流行が多くの死者を出し、参判家の跡取り娘・西姫は後ろ盾となる人々を失った。翌年には麦が大凶作となり、趙俊九はこの機に乗じて参判家の実権を握るべく卑劣な手段で攻勢に出た。幼いながらも西姫は当主として果敢に立ち向かい、寿童、吉祥、鳳順、俊九に反発する一部の農民と共に、大胆な反撃に出た。誇り高き西姫の戦いがここから始まる。
映画美術に携わる「私」は、友人や家族の動画を撮りためている。未熟で無防備だった十代。恋し、挫折し、傷つきながら、進む方向を模索していた日々。「私」の初恋の記憶は、ある事件によって色彩を失っている。高校時代を共にした個性豊かな男女六人は、互いに離れたり、支え合いながら三十代を迎えた。一つのファイルにまとめた動画は、その記憶をたどるものであり、「私」に次のステップを踏み出すきっかけを与えた。
高橋新吉、辻潤、秋山清…大正の世にかりそめに咲いた前衛芸術の徒花。韓国文学史上唯一のダダイストの交友の軌跡から、その鮮烈な青春のきらめきをエピソード豊かに描く。刹那的な彼ら“三国同盟”の友情。日/韓式ダダ群像。
本書に描かれているのは、大都会をさまよう現代人の孤独で悲しい姿である。テーマ自体は極めて内省的で、厭世的と言ってもよいのに、ユーモラスでスピード感のある文章が、作品を軽快に読ませてくれる。著者は登場人物たちの悩みを解決してやることはできない。